第74回
「相手に合わせたロジックを」福田勝さん
ピーエムグローバル株式会社 木暮 知之
さまざまな分野で活躍する方にお話をうかがうインタビュー「グローバル・コネクター®」。今回のゲストは化学品の製造販売を手掛ける外資系企業のトップとして20年以上のキャリアを持つ経営コンサルタントの福田勝さんです。
木暮 大学時代に留学されたそうですね。
福田 高校生のときに兄から「職業選択の幅が広がる」と聞かされて工学部を選びました。研究室に残ったり、企業の開発部門に就職を決めた同級生とは違って、自分は将来のイメージが浮かんでこない。英語が好きで海外の暮らしや文化に興味があったこともあり、1年間、米国に留学したんです。自分を見つめ直したかったのと英語をブラッシュアップしたかった。いちど海外を見てみたいという気持ちもありました。
木暮 20代初めの多感な時期。自分の意思で行かれた自由の国、米国はどうでしたか。
福田 大型スポーツカーを借りたり、列車に乗ったりした時は嬉しかったですね。留学中は学生寮に入り、世界中の若者と交流できました。彼らは本当にしっかりといろんなことを考えていました。自分の意見や将来のあるべき姿など誰もが雄弁に語るんです。自分を含め、日本の大学生と比べると、大人と子どもぐらいの差があった印象です。米国では優秀な学生ほど政治家になろうとしていたのも印象的ですね。
木暮 いまや米国では、ご自身のお嬢さまが家庭を持たれていると聞きました。
福田 娘が生活しているのは、日本はおろかアジアのこともあまり知らないような人が多い地域で、日本とは全く違う文化や価値観を持っています。そこで骨をうずめると決めたからには、違和感や不満を訴えても意味がないですよね。先日も、周りの温かいサポートや理解を得ながら、異国の地でいろんなものを乗り越えた娘に「I’m very much proud of you, I love you.(君のことを本当に誇らしく思うよ、大好きだよ)」と花嫁の父親としてスピーチする機会がありました。いま思い出しても、込み上げてきますね。
木暮 そういう経験は、なかなかできないですよね。素晴らしいお話です。
福田 日本人の多くは、全部を言わなくても通じ合えてしまう。同じような教育を受け、同じようなテレビ番組を見てきた。共通した価値観を共有してきたことがあるのかもしれません。他人と違う発言をしたりすると、周りから「あいつ変わってんな」「けしからんな」「失礼やな」となる。米国でもビジネスの世界では空気を読む場面はあると感じます。ただし、日本ほど強くない。違う意見にも平気でぶつかっていきます。それは発言した人の性格や人間性を否定するわけではない。
木暮 日本人だけの会議では、自分の意見への反論が出ると、その人に対して感情的になってしまう場面があります。海外で驚いたのは、会議で激しい応酬を繰り広げていた同士がひとたび会議室を出ると「これから飲みに行こうよ」とあっけらかんとしていることでした。双方とも、さばさばしている。
福田 あくまで意見に対して自分の意見をぶつけるだけ。人物や人格に対して言ってるわけじゃない。相手の人間性を嫌いになってしまうことはないんですよね。
お客さんをハッピーに
木暮 日本の商社や外資系企業といった、外国のビジネスパーソンと折衝する環境で長く活躍されてきました。販売方法や顧客に対する考え方などで内外の差を感じたようですね。
福田 化学商社に勤めていた頃は、扱っている商材のほぼ9割は輸入品。当時は日本法人を構える海外メーカーはほとんどありませんでしたから、日本向けの技術的な要望からマーケティングまで商社がさまざまな役目を果たしていました。そこで出てくる日本のお客さまの要求と、欧米メーカーの主張とのギャップがすごく大きかった。日本では品質をはじめ性能、納期、用途に至るまで要求が多い。こんなことがありました。輸入される化学品はドラム缶に入っているのですが、それがちょっとへこんでいても気になる。天板の一部がさびていたという指摘も受けたことがあります。そうなると日本では全部、返品なんですよ。欧米側はこの反応が理解できない。「肝心の中身は問題ないのに、なぜ」となる。両者の間で板挟みになるのが商社や外資系企業の日本法人なんです。
木暮 お客さまの要望をかなえたい日本側と合理性を追求する海外の主張を聞き入れるバランスが難しそうですね。
福田 そうなんです。それは社員の採用に関わる立場になってからも意識するようになりました。
木暮 どういうことですか。
福田 外資系企業で20年ほど代表をやらせていただいたんですが、採用活動で気を付けたのは候補者が、お客さまを見て仕事をする人かどうか。会社に入った後は海外本社をハッピーにするのが自分の仕事だと「勘違い」する人もいるんです。
木暮 それは良くないですね。
福田 現実的には、本社の評価が最終的な人事に影響することはあります。本社を向いて仕事をしている人間ほど出世していくケースも少なくない。ただ、自分はそういう会社にだけはしたくなかったし、本社の評価を気にしそうな人間は採用してきませんでした。
木暮 面接段階で見極めるのは難しそうですね。秘訣はあるのですか。
福田 具体的なことを質問します。抽象的な考えだけなら何とでも言えますから。例えば「どんなときにお客さんと難しい交渉をしましたか」とか「今まで困ったことやトラブルは無かったですか」とか。誰にでもいくつか経験はあるわけですが、そういうときにどうしたか、なぜそうしたか、を聞いてみると結局、全部分かります。
木暮 具体的な話をしないと真実味も伝わらないし、本人の熱も入らないでしょうね。
福田 本社をどう説得するか、というのが最も難しいわけです。特に現地法人の社長という立場になると、それが一番大きな仕事になります。日本のお客さまに喜んでもらうためには、本社の十分な支援が必要です。国内で生産していない場合は特に、本社がサポートしないと日本のお客さまをハッピーにできないんです。一方で利益を求めたい本社の「会社の都合」も少なからずあります。お客さまの求めるものとのギャップは常にある。
木暮 その通りですね。そこが難しい。
福田 日本のお客さまの要望は「使い勝手がすごく悪い」など、やや抽象的な表現をするのも特徴的です。日本だと「お客さまの言うことだから、やるしかない」と受け入れるのですが、欧米の人は非常にロジックを大事にする。「なぜ、そうしないといけないのか」「お客さまにどのようなメリットが生まれ、最終的に当社にどう好影響が出るのか」と聞いてくる。それらを全て論理的に説明しないといけない。英語で「お客さまが言うことだから仕方ない」と言ったとしても「何を言っているの?」で会話が終わってしまう。欧米人に分かるように、ロジックを組み立てて説明するのが非常に大事です。
木暮 おっしゃる通りですね。当社のメンバーにも話すのですが、ロジカルに考えて説明できるのかが、すごく重要。僕らがプロジェクトを進めていると、現場の人から「それは困る」「いま忙しくて対応できない」「そもそも、このプロジェクトには反対なんだ」など、いろいろ言われる場面があります。その反論として「現状はこれで、このように改善しないといけない、よって今回はこれをお願いしてるんです」という説明が相手にスッと入らないと、すぐに動いてもらえません。納得するまで全く動かない人もいます。そういう人にはロジックが大切ですし、ロジックがプロジェクトのメンバー間で共通言語になっていく感覚もあります。
福田 とある部署の責任者や担当者にいくらロジックで話してもイエスと言わない、という相談を受けたことがあり、その時は「なぜ反対されたのかを理解しないといけないよ」と諭しました。上司が納得してないからなのか、幹部層が反対しているからなのか。組織では立場がそれぞれ違いますから、担当者には通るロジックでも、別の政治的な要素が絡んだりするシニアマネジメントには通らなかったりする。そういったところも考えた上で、さらにロジックを作らないといけない。
木暮 同感です。それぞれが納得するキーワードが必要。組織で上の立場になると、いろんなことを見ないといけなくなりますから。23年1月に代表を退任されました。今後の目標は何でしょうか。
福田 報酬をいただきながら会社で働くことは考えていません。利益を追求したり時間を拘束されたりする世界から離れたいと思っています。趣味やスポーツを続ける一方、チャレンジする若い方に私の経験が役立つことをしようと考えています。それから、英語の通訳兼観光ガイドを始めることになり、観光局にも登録しました。今までたくさんの外国の方にお世話になりました。訪日される方に日本の文化、観光スポット、食事などを紹介します。これまで以上に毎日をエンジョイしたいですね。(おわり)
福田勝さんについては当社のFacebookでもご紹介しております。ぜひご覧ください。
プロフィール
グローバルなビジネス環境で今まで以上に高品質なプロジェクトマネジメントを必要とされる全てのお客様のために、プロジェクトを推進し成功させるための環境づくりを総合的にサポートします。また、マネジメントのパートナーとして現場の視点と経営の視点を併せ持った課題の発見、およびその対策としての戦略策定をご提案します。
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「外国の方とのビジネスやコミュニケーションに悩まれたことはありませんか?
ギクシャクしたり、思ったほど相手との距離が縮まらなかったり。英語だけの問題ではないのでは?
『ガイバナ』では、英会話自体にフォーカスするのではなく、英語が苦手な方でも、一歩踏み出してコミュニケーションの場を明るくする、キラリと光るエッセンスをお届けします。エピソード後半に、覚えてほしいキラリフレーズをご紹介しています。
「ガイバナ」ポッドキャストはこちらから
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- 第77回 「みんなで決めたらやり遂げる」甲斐ラースさん
- 第76回 「ひとつずつクリアする」大渕愛子さん
- 第75回 「国内・海外の共通言語はコミュニケーション力」駒井愼二さん
- 第74回 「相手に合わせたロジックを」福田勝さん
- 第73回 「強みを生かす」亀井貴司さん
- 第72回 「現状に疑問を持つ」アミヤ・サディキさん
- 第71回 「任せたら自由にさせる」竹内新さん
- 第70回 「正しいあうんの呼吸を」村瀬俊朗さん
- 第69回 「ほかにない価値を」金城誠さん
- 第68回 「素早く対応する」柏田剛介さん
- 第67回 「ビジョンを伝える」中村勝裕さん
- 第66回 「歴史を学ぼう」磯部功治さん
- 第65回 「多少の自信と歯切れの良さと」島原智子さん
- 第64回 「情報を体系化する」鈴木隆太郎さん
- 第63回 「メッセージを明確に」岩本修さん
- 第62回 「上司もホウ・レン・ソウ」高橋裕幸さん
- 第61回 「自分を肯定する」前川裕奈さん
- 第60回 「状況を掘り下げて原因を探す」寺島周一さん
- 第59回 「信頼と共感の空気をつくる」蔭山幸司さん
- 第58回 「一緒に楽しむと続けられる」草木佳大さん
- 第57回 「7割の見込みを信じる」吉元大さん
- 第56回 「意見をありがたく聞く」室井麻希さん
- 第55回 「常に学び・成長できる環境に身を置く」門田進一郎さん
- 第54回 「目の前の人との関係を大事に」岡田昇さん
- 第53回 「意見を聞いてから主張を調整する」大橋譲さん
- 第52回 「頼れる存在に任せる」ケビン・クラフトさん
- 第51回 「要望の背景も話す」堀田卓哉さん
- 第50回 「素直に聞く度量を」山田剛さん
- 第49回 「奇妙な日本人を自覚する」村上淳也さん
- 第48回 「信頼にめりはりを」二階堂パサナさん
- 第47回 「俯瞰(ふかん)して眺める」エドワード・ヘイムスさん
- 第46回 「丁寧さが評価される」ブレケル・オスカルさん
- 第45回 「個と向き合う」吉野哲仁さん
- 第44回 「事実に焦点を当てる」中村敏也さん
- 第43回 「現場に顔を出す」深井芽里さん
- 第42回 「状況を楽しむ」飯沼ミチエさん
- 第41回 「人生を楽しむ“絶対的価値観”を」小川貴一郎さん
- 第40回 「少ない言葉でも伝わる」アレン・パーカーさん
- 第39回 「ポジティブは伝染する」川平慈英さん
- 第38回 「自分で考える人に」野田純さん
- 第37回 「常にフェアであれ」忍足謙朗さん
- 第36回 「相手の価値観を包み込む」神原咲子さん
- 第35回 「直接得る情報を大事に」ネルソン水嶋さん
- 第34回 「相手のルールを早く知る」杉窪章匡さん
- 第33回 「意見を受け入れて試してみる」鈴木皓矢さん /「ノーと言われてもあきらめない」林祥太郎さん
- 第32回 「技術を尖(とが)らせる」稲垣裕行さん
- 第31回 「自分でやってみる」佐々木英之さん/「やる気のエネルギーを信じる」白井良さん
- 第30回 「リフレッシュ方法を見つける」大野均さん
- 第29回 「英語はメールから始めよう」岡田陽二さん
- 第28回 「逃げずに向き合う」矢野浩一さん
- 第27回 「相手に合わせた伝え方を」松田励さん
- 第26回 「ゴールを共有する」多島洋如さん
- 第25回 「考え方は変えられる」小森谷朋子さん
- 第24回 「相手が話しやすいテーマで心をつかむ」増山健さん
- 第23回 「どうしたいかで生きればいい」佐藤みよ子さん
- 第22回 「伝わる話題を探す」石井陽介さん
- 第21回 「話をよく聞いて信頼してもらう」我謝京子さん
- 第20回 「ギブアンドテイクの視点で」北尾敬介さん
- 第19回 「組織はファミリー」中沢宏行さん
- 第18回 「1人のスーパーマンよりチームワーク」前澤正利さん
- 第17回 「多様なメンバーが強い組織を生む」竹田綾夏さん
- 第16回 「ビジョンを共有する」マックス市川さん
- 第15回 「同じ人間として対等に話す」浦川明典さん
- 第14回 「会話は敬語、メールは気配り」イムラン・スィディキさん
- 第13回 「思い込みを捨てる」羽田賀恵さん
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- 第10回 「実績を示せば耳を傾けてもらえる」朝野徹さん
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- 第8回 「交渉は役割分担と演出で」新谷誠さん
- 第7回 「相手のプライドを土足で汚さない」佐藤知一さん
- 第6回 「気持ちが入っていないと、いい仕事はできない」 森本容子さん
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- 第3回 「失敗はだれでもある、やり直せる」平野昌義さん
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