第63回
「メッセージを明確に」岩本修さん
ピーエムグローバル株式会社 木暮 知之
さまざまな分野で活躍する方にお話をうかがうインタビュー「グローバル・コネクター®」。今回のゲストは消費財メーカーに入社したのち自動車業界に転職。独系企業グループの金融商品や新規事業開発などを手掛け、現在は大手自動車企業「三菱自動車」のDX関連部門で活躍されている岩本修さんです。
木暮 海外への転勤は?
岩本 全くありません。家族は海外とは無縁の生活を送ってきました。ただ、私は外資系企業に就職したり今もグローバルに展開するプロジェクトに携わったりしていますから不思議ですね。
木暮 英語もお上手です。
岩本 実はすごく苦手意識があります。前職は外資系企業に勤めましたが、同僚は日本人ばかりでしたので、欧州出張で使うぐらいで。経験が多いとは言えないんです。
木暮 必ずしも海外に行かなくても英語を使えるようになるということですね。
岩本 英語の成績はたいしたことはなかったのですが、漠然とした海外への憧れみたいなものはあり、大学に進学してからは外交官になろうと勉強を始めたりもしたこともありました。
木暮 外交官に興味があったのは?
岩本 海外の方とのやり取りや外交にすごく興味があったんです。それまでの背景も住んでいる場所も文化も違う人たちが話し合ったり、交渉したりして問題を解決するというプロセスが面白くてかっこいいなと。
木暮 それに近いことを今もされている気がします。開発を海外の業者に委託したり、外国の関係者との折衝にも携わっておられますから。その仕事も意外と奥が深い。
岩本 そうですね。自分の原点は「営業マン」なのかもしれないと思っているんです。経歴としては企画畑が多いのですが、なぜかいつも相談・調整役になっている。人とコミュニケーションをとりながら物事を進めていったり、企画に共感してくれる人を集めたり、巻き込んだりして一緒に動かしていくというのが性に合っている気がします。
木暮 仲間を集めて行動するのは昔からですか。
岩本 基本的には1人で作曲したり自宅でコツコツやるのが好きなタイプなんです。自分のやりたい世界があるのですが、それを実現する段階では、いろんな人を巻き込む必要があることに気付いていきました。
木暮 自ら企画して発信する志向をお持ちだったんですね。
岩本 いえいえ、確たるビジョンがあったわけでもなく、当時を振り返ってみると、いろんな企画を考えたり、何か提案したりするのはすごく好きなんだと分かっただけですよ。
アイデアを商品に
木暮 自動車企業グループの金融会社で二酸化炭素(CO2)削減をサービスとして商品化されたそうですね。
岩本 差別化が難しく、金利での勝負になりがちな金融サービスに何か付加価値を提供できないかと模索していたころ、CO2の排出削減をほかの分野での排出と相殺する「カーボンオフセット」という仕組みの存在を知りました。
木暮 カーボンオフセット?
岩本 よくある例で言うと、緑化プロジェクトに参加することでCO2を削減し、商品から出てしまうCO2と相殺するという仕組みです。排出権取引を扱う仲介業者に問い合わせて詳細は煮詰めていきました。自動車からは二酸化炭素が出る。それをオフセットするための仕組みを車のローンに組み込むことで環境に負荷をかけずにカーライフを楽しんでいただくというコンセプトで「カーボンオフセット付き残価保証型ローン」を業界で初めて導入しました。
木暮 ドイツ本社からも評価されたとか。
岩本 各国からの革新的なサービスを競うコンテストで知らないうちにノミネートされていました。カーボンオフセットした量も当時の日本では最大規模だった点も評価されたようです。各国のベストプラクティス収集やノウハウの共有がドイツ本国でシステム化されている点が個人的には素晴らしいと思いました。
木暮 音楽家の坂本龍一氏とのコラボレーションも。
岩本 坂本さんが当時、企業やメディアとのコラボに参画されるのは珍しかったそうですが、環境保全に力を入れていらっしゃる方でしたので、アウディのカーボンオフセットへの取り組みにも共感して頂いたようです。コンサートで出るCO2の排出をアウディがカーボンオフセットの仕組みでサポートするという取り組みにもつながりました。本当にゼロから自分で考えて立ち上げた企画だったので、これまでで一番面白かったプロジェクトのひとつと言えるかもしれません。
木暮 カーシェアリングの商品化も手掛けられたことがあるそうですね。
岩本 今でこそ一般的になりましたが、当時はまだカーシェアという言葉もあまり知られていませんでした。このサービスでは売り手側の理屈を見直しました。クルマを買う前の試乗は、ディーラーのセールスマンが横に座っていて堅苦しいし、時間も限られていて監視されている感じもある。自分の好きな時間に、例えば夜に気軽にドライブしてみるとか、購入前提抜きに、もっと気になるクルマを楽しんでもらえるような体験が提供できないかと思ったときに、無人で貸し渡しができる仕組みがあるといいなと。この企画は大手不動産会社と一緒にやりましたが社内の有志4人とワイワイやったので仕事という意識はあまり無かったですね。
木暮 アイデアを立案して働き掛けしていますね。
岩本 ぱっと思いついたものでも、ひとまずどこかに聞いてみるとか、そういうことで動き出した案件は多いですね。
木暮 働き掛けながら仕事を動かすのは素晴らしいですね。難しい面はありますか。
岩本 あります。関係者に話を通すためのステップが多いときや社内調整はそれなりに必要ですね。面倒になって投げ出したくなったり、途中で挫折するケースもありました。
木暮 全員が同じ思いで動くとも限りませんし、企業の規模が大きいと勝手に動けない。
岩本 難しいところですね。キーパーソンに1人でもサポーターができれば動きやすくなります。当時所属していた会社は社長に直接話せる機会も多く、直談判もできる環境にありました。
木暮 外国出身の方がいる職場も初めて経験されたそうですね。
岩本 恥ずかしながら、社内で当たり前のように英語が飛び交う環境というのに当初は戸惑いがありました。物事が決まるスピード感も速いなと思いました。会社の規模がそれほど大きくなかったこともありますが、経営陣が参加する会議であれば、そこで決裁をもらえばすぐに実行となります。稟議書も1枚のみ。企画会議は相当な緊張感で、役員に見てもらえるのはエグゼクティブサマリー(事業概要)だけです。当時の社長からは「シンプルに表現されていない資料は見ない。企画をひと言で説明できないなら目を通さない」とくぎを刺されました。
木暮 要所を意識する。
岩本 いろんなことを詰め込んでも相手に伝わらなければ意味がない。できる限り分かりやすいメッセージへ可視化することを心掛けます。
木暮 きれいに作るだけではない。
岩本 要素をそぎ落とすと結果的にきれいになります。社長はプレゼンテーション資料を披露するときには息継ぎの場所まで気を配っていました。
木暮 いいお話ですね。
岩本 そぎ落とすまでの工程では相手が社長といえども意見がぶつかることもあります。昔の私は割とおとなしく、意見を控えるタイプだったのですが、根拠のある主張はすべきだと思い直しました。メンタル的にはきつい工程でもありましたが。
木暮 そぎ落とす、という考え方は海外ビジネスで使えそうですね。
岩本 海外こそ、そうでしょうね。言葉の壁が出てくる場合もあるからです。英語がそれほど達者ではないときに頼りになるのは、伝えたいメッセージやその内容を補完してくれるドキュメントですから、すごく意識します。資料作りでは手を抜かずに自分の代弁者となってくれるスライドを1ページでもいいので準備します。思いが込められていて、かつ分かりやすいドキュメントでこちらが誠実に話をすると、相手も共鳴してくれますよね。
木暮 考え抜かれた単語を使っている人の言葉は伝わります。
岩本 分かりやすい英語だとメッセージが明確です。アウディ在籍時に同僚のプレゼンのうまさに衝撃を受けました。資料も書き込まれておらずシンプル。グローバルで仕事をした経験がある人は伝わりやすく説明する印象があります。
木暮 相手に伝えるために意識していることはありますか。
岩本 どういうアクションを起こしてもらいたいかを事前にシミュレーションすることです。そのためには、自分の思いと相手の気持ちとのギャップを上手くつかむことです。相手は何を大切にしているのか、価値観を見極める。
木暮 相手の「スイッチ」を探す。内容が伝わっていないと気付いたら?
岩本 伝えたいコンセプトが複雑すぎるということ。シンプルにそぎ落とされていないわけです。相手との知識も違いますから伝えていくときのレベルを調整しなければいけません。自分が考えている当たり前のレベルを相手が理解してくれないから、そこでコミュニケーションを閉じてしまうのはもったいないです。
木暮 今後はどんなことをされたいですか。
岩本 青臭いようですが、仕事とは別の場所で自分のスキルを世の中に役立ててみたいです。寄付などの取り組みは社会人になってから継続的に実施していますが、自分の手で社会起業してでも世の中を動かす仕組み作りにもっと直接的にチャレンジしてみたいですね。(おわり)
プロフィール
グローバルなビジネス環境で今まで以上に高品質なプロジェクトマネジメントを必要とされる全てのお客様のために、プロジェクトを推進し成功させるための環境づくりを総合的にサポートします。また、マネジメントのパートナーとして現場の視点と経営の視点を併せ持った課題の発見、およびその対策としての戦略策定をご提案します。
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Webサイト:ピーエムグローバル株式会社
「外国の方とのビジネスやコミュニケーションに悩まれたことはありませんか?
ギクシャクしたり、思ったほど相手との距離が縮まらなかったり。英語だけの問題ではないのでは?
『ガイバナ』では、英会話自体にフォーカスするのではなく、英語が苦手な方でも、一歩踏み出してコミュニケーションの場を明るくする、キラリと光るエッセンスをお届けします。エピソード後半に、覚えてほしいキラリフレーズをご紹介しています。
「ガイバナ」ポッドキャストはこちらから
ガイバナ@Line: @315pjfpo」
- 第77回 「みんなで決めたらやり遂げる」甲斐ラースさん
- 第76回 「ひとつずつクリアする」大渕愛子さん
- 第75回 「国内・海外の共通言語はコミュニケーション力」駒井愼二さん
- 第74回 「相手に合わせたロジックを」福田勝さん
- 第73回 「強みを生かす」亀井貴司さん
- 第72回 「現状に疑問を持つ」アミヤ・サディキさん
- 第71回 「任せたら自由にさせる」竹内新さん
- 第70回 「正しいあうんの呼吸を」村瀬俊朗さん
- 第69回 「ほかにない価値を」金城誠さん
- 第68回 「素早く対応する」柏田剛介さん
- 第67回 「ビジョンを伝える」中村勝裕さん
- 第66回 「歴史を学ぼう」磯部功治さん
- 第65回 「多少の自信と歯切れの良さと」島原智子さん
- 第64回 「情報を体系化する」鈴木隆太郎さん
- 第63回 「メッセージを明確に」岩本修さん
- 第62回 「上司もホウ・レン・ソウ」高橋裕幸さん
- 第61回 「自分を肯定する」前川裕奈さん
- 第60回 「状況を掘り下げて原因を探す」寺島周一さん
- 第59回 「信頼と共感の空気をつくる」蔭山幸司さん
- 第58回 「一緒に楽しむと続けられる」草木佳大さん
- 第57回 「7割の見込みを信じる」吉元大さん
- 第56回 「意見をありがたく聞く」室井麻希さん
- 第55回 「常に学び・成長できる環境に身を置く」門田進一郎さん
- 第54回 「目の前の人との関係を大事に」岡田昇さん
- 第53回 「意見を聞いてから主張を調整する」大橋譲さん
- 第52回 「頼れる存在に任せる」ケビン・クラフトさん
- 第51回 「要望の背景も話す」堀田卓哉さん
- 第50回 「素直に聞く度量を」山田剛さん
- 第49回 「奇妙な日本人を自覚する」村上淳也さん
- 第48回 「信頼にめりはりを」二階堂パサナさん
- 第47回 「俯瞰(ふかん)して眺める」エドワード・ヘイムスさん
- 第46回 「丁寧さが評価される」ブレケル・オスカルさん
- 第45回 「個と向き合う」吉野哲仁さん
- 第44回 「事実に焦点を当てる」中村敏也さん
- 第43回 「現場に顔を出す」深井芽里さん
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- 第39回 「ポジティブは伝染する」川平慈英さん
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- 第30回 「リフレッシュ方法を見つける」大野均さん
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- 第28回 「逃げずに向き合う」矢野浩一さん
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- 第13回 「思い込みを捨てる」羽田賀恵さん
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- 第8回 「交渉は役割分担と演出で」新谷誠さん
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