第30回
「リフレッシュ方法を見つける」大野均さん
ピーエムグローバル株式会社 木暮 知之
グローバルプロジェクトに特化した企業であるピーエムグローバルの代表を務める木暮知之を聞き手に、国内外で活躍するプロフェッショナルに体験談や仕事を円滑に進める秘訣をうかがう連載コラム「グローバル・コネクター」。記念すべき第30回のゲストは、日本代表として歴代最多の98試合に出場し、42歳まで現役で活躍したラグビー界の「レジェンド」大野均さんです。
木暮 海外を意識し始めたのはいつでしたか。
大野 東芝のラグビー部に入ってからです。チームメイトの外国人選手とコミュニケーションを経験したのが初めてです。国際プロリーグの「スーパーラグビー」を見て、スピードやぶつかり合いの激しさに目を奪われました。ここで日本人がプレーするとは想像もできず「夢のまた夢だな」と。
木暮 厳然たるレベルの違い。外国人と一緒にプレーする難しさは感じましたか。
大野 選手のレベルが高くてやりやすかったです。サインプレーや用語もほとんど英語です。東芝の選手もハイレベルで勉強になりました。2003年に短期でニュージーランドにラグビー留学でき、外国人としてのプレーも経験しました。言葉は通じなくてもラグビーという「コミュニケーションツール」を一緒にできた。いいプレーをすると「胸パンチ」で祝福してくれて楽しかったです。
木暮 カルチャーショックは?
大野 日本では恵まれた環境でやらせてもらえていたことに気付きました。向こうの選手は仕事が長引いて練習への合流が遅れようが、着替えた途端タックルや激しい当たりの応酬。ウオーミングアップも選手任せです。試合直後に「メンバーが足りないから、もう1試合出て」と言われたこともありました。
木暮 日本はラグビーが中心。東芝のような国内最高峰のチームだと求める要求度も高い。
大野 高いレベルになればなるほどチームが求めてくるものも明確になります。日本代表でのセレクションポリシー(選考基準)がハードワークと激しさだったことも、長く代表に選ばれた理由かもしれません。求められる要素はコーチによって異なります。器用だったわけではなく、できることをやり続けたら呼ばれていたという印象です。海外チームと比べると、ポジションとしての体格は小さい方です。運動量で勝たないと貢献できないという気持ちが強く、ハードワークをより意識するようになりました。
木暮 年長者や指導者の意向が重視されがちな日本に対し、自分で考える世界標準との違いを感じたことはありますか。
大野 コーチが代わっても順応できるのが日本人の特長です。エディー・ジョーンズ(日本代表前HC)さんの時には、細かく管理される中で2015年のワールドカップ3勝という成果を上げました。直後に就任したジェイミー・ジョセフHCは自主性を持たせた。15年を経験した選手がハードワークの大切さを実感し、19年の結果につながったのだと思います。周りの環境が変われば順応できるものだと思います。日本代表に選ばれる選手はラグビーが大好きで「うまくなりたい、勝ちたい」という純粋な欲求があります。柔軟な考え方も自然に身につくような気がします。
木暮 日本にやって来た外国人選手がチームになじめるために心掛けていることはありますか。
大野 外国人選手は自分からチームや日本に溶け込もうと努力しています。毎朝会うたびに全員にハイタッチをしてきます。来日当初から日本の文化を理解しようとする選手ほど長くいるようです。まだ来日して2~3カ月なのにカラオケで日本の歌を披露した選手もいました。
木暮 海外遠征で現地の人との交流は?
大野 日本代表では、いろいろな国を訪問する機会があり、滞在中はひとりで行動する時間を作っていました。現地の大衆酒場や酒店の常連になり、注文しなくてもワインを出されたことや、英国のパブで意気投合したラグビーファンに日本代表の練習ジャージをプレゼントしたこともありました。15年の英国でのワールドカップの南アフリカ戦後のオフに街に出てパブに入り、2、3杯チームメイトと乾杯して帰るつもりだったのですが、日本代表の勝利に感動したお客さんがごちそうしてくれて20杯ほど飲みました。そうした交流も楽しみでした。イタリア遠征で1人で通った店にリーチ・マイケル(19年日本代表主将)を連れて行った時、私がイタリア語で注文する姿を過大評価したらしく、帰国後に私を「イタリア語の達人」としてチームに紹介していました。
木暮 ビジネスの世界では、海外と日本の会社がお互いに誤解しないようにこまめにコミュニケーションを取ることが求められます。ラグビーの世界ではどうですか。
大野 日本代表に入ってくるのは、「桜のジャージ」に誇りを持っている人。チームで決めたことについては100%コミットしてくれます。代表に選ばれた外国人選手が特に体現してくれます。
木暮 「One Team」は流行語大賞に。
大野 いろんなポジションと役割が合致してトライが生まれる。最後はひとつにまとまるというのが自然と身につくのかもしれません。明らかに外国出身だと分かる選手が日本代表の一員として勝利のために体を張ってくれる。そういう選手たちの姿を見る人には新鮮だったのかもしれませんね。
木暮 チームとして機能するためにどんなことを心掛けたら良いですか。
大野 自分のポジションの役割を100%遂行することができれば、他の人も自分の仕事に集中できる。そういうメンバーが集まるのが本当に良いチームワークを発揮できる組織なのだと思います。タックルでミスをせずに止めていればカバーに行く選手は別の仕事ができるわけです。もちろん、何か起こることへの準備は大事。うまくいかなかった時のプレーも準備しています。
木暮 日米混成のメンバーで仕事をしました。発想力や考え方が違うので、皆で話しているといろいろなアイディアが浮かびます。
大野 外国出身の選手やコーチは「引き出し」が多く、練習でもいろんなアプローチを知っています。海外選手の中には「サッカーもバスケットボールもクリケットもやっていたが、今はラグビー」という人もいます。いろんなスポーツを経験することで柔軟な考え方ができるのでしょう。日本代表の堀江翔太選手や田村優選手もそれぞれバスケやサッカーの経験者です。フォワードにもいろいろな能力が求められるようになってきています。
木暮 「引き出しの多さ」はビジネスの世界でも魅力的です。ラグビーのように多様性を認めたり、柔軟な考えを持ったりするにはどうすればいいでしょうか。
大野 日本には同調圧力がありますよね。仕事はないのに定時に帰りづらいとか。東芝の外国人HCは金曜日の夕方にオフィスにいると「週末だから早く家に帰ってビールでも飲め」と、柔らかい発想になるように促し、自分の人生を楽しむ大切さを教えてくれます。日本代表での厳しい練習があっても、リフレッシュできるものを見つけられたのが長くプレーを続けられた秘訣かもしれません。外国人から学んだのは人生を自然に楽しんでいる姿。柔らかい発想を持てるようにしたいと思います。
木暮 今後は代表監督も?
大野 指導には興味がありますし、ラグビー以外でも農業など自分にできることがあれば挑戦したいですね。(おわり)
プロフィール
グローバルなビジネス環境で今まで以上に高品質なプロジェクトマネジメントを必要とされる全てのお客様のために、プロジェクトを推進し成功させるための環境づくりを総合的にサポートします。また、マネジメントのパートナーとして現場の視点と経営の視点を併せ持った課題の発見、およびその対策としての戦略策定をご提案します。
【サービスメニュー】
プロジェクトのマネジメント支援(PMO)
プロジェクトマネージャーのトレーニング
セミナー「グローバル・コネクター」の開催・運営
グローバル人材の育成
海外拠点の現地社員育成
インドニュースの配信・出版
ニュース配信サイトの運営
海外進出コンサルティング
Webサイト:ピーエムグローバル株式会社
「外国の方とのビジネスやコミュニケーションに悩まれたことはありませんか?
ギクシャクしたり、思ったほど相手との距離が縮まらなかったり。英語だけの問題ではないのでは?
『ガイバナ』では、英会話自体にフォーカスするのではなく、英語が苦手な方でも、一歩踏み出してコミュニケーションの場を明るくする、キラリと光るエッセンスをお届けします。エピソード後半に、覚えてほしいキラリフレーズをご紹介しています。
「ガイバナ」ポッドキャストはこちらから
ガイバナ@Line: @315pjfpo」
- 第77回 「みんなで決めたらやり遂げる」甲斐ラースさん
- 第76回 「ひとつずつクリアする」大渕愛子さん
- 第75回 「国内・海外の共通言語はコミュニケーション力」駒井愼二さん
- 第74回 「相手に合わせたロジックを」福田勝さん
- 第73回 「強みを生かす」亀井貴司さん
- 第72回 「現状に疑問を持つ」アミヤ・サディキさん
- 第71回 「任せたら自由にさせる」竹内新さん
- 第70回 「正しいあうんの呼吸を」村瀬俊朗さん
- 第69回 「ほかにない価値を」金城誠さん
- 第68回 「素早く対応する」柏田剛介さん
- 第67回 「ビジョンを伝える」中村勝裕さん
- 第66回 「歴史を学ぼう」磯部功治さん
- 第65回 「多少の自信と歯切れの良さと」島原智子さん
- 第64回 「情報を体系化する」鈴木隆太郎さん
- 第63回 「メッセージを明確に」岩本修さん
- 第62回 「上司もホウ・レン・ソウ」高橋裕幸さん
- 第61回 「自分を肯定する」前川裕奈さん
- 第60回 「状況を掘り下げて原因を探す」寺島周一さん
- 第59回 「信頼と共感の空気をつくる」蔭山幸司さん
- 第58回 「一緒に楽しむと続けられる」草木佳大さん
- 第57回 「7割の見込みを信じる」吉元大さん
- 第56回 「意見をありがたく聞く」室井麻希さん
- 第55回 「常に学び・成長できる環境に身を置く」門田進一郎さん
- 第54回 「目の前の人との関係を大事に」岡田昇さん
- 第53回 「意見を聞いてから主張を調整する」大橋譲さん
- 第52回 「頼れる存在に任せる」ケビン・クラフトさん
- 第51回 「要望の背景も話す」堀田卓哉さん
- 第50回 「素直に聞く度量を」山田剛さん
- 第49回 「奇妙な日本人を自覚する」村上淳也さん
- 第48回 「信頼にめりはりを」二階堂パサナさん
- 第47回 「俯瞰(ふかん)して眺める」エドワード・ヘイムスさん
- 第46回 「丁寧さが評価される」ブレケル・オスカルさん
- 第45回 「個と向き合う」吉野哲仁さん
- 第44回 「事実に焦点を当てる」中村敏也さん
- 第43回 「現場に顔を出す」深井芽里さん
- 第42回 「状況を楽しむ」飯沼ミチエさん
- 第41回 「人生を楽しむ“絶対的価値観”を」小川貴一郎さん
- 第40回 「少ない言葉でも伝わる」アレン・パーカーさん
- 第39回 「ポジティブは伝染する」川平慈英さん
- 第38回 「自分で考える人に」野田純さん
- 第37回 「常にフェアであれ」忍足謙朗さん
- 第36回 「相手の価値観を包み込む」神原咲子さん
- 第35回 「直接得る情報を大事に」ネルソン水嶋さん
- 第34回 「相手のルールを早く知る」杉窪章匡さん
- 第33回 「意見を受け入れて試してみる」鈴木皓矢さん /「ノーと言われてもあきらめない」林祥太郎さん
- 第32回 「技術を尖(とが)らせる」稲垣裕行さん
- 第31回 「自分でやってみる」佐々木英之さん/「やる気のエネルギーを信じる」白井良さん
- 第30回 「リフレッシュ方法を見つける」大野均さん
- 第29回 「英語はメールから始めよう」岡田陽二さん
- 第28回 「逃げずに向き合う」矢野浩一さん
- 第27回 「相手に合わせた伝え方を」松田励さん
- 第26回 「ゴールを共有する」多島洋如さん
- 第25回 「考え方は変えられる」小森谷朋子さん
- 第24回 「相手が話しやすいテーマで心をつかむ」増山健さん
- 第23回 「どうしたいかで生きればいい」佐藤みよ子さん
- 第22回 「伝わる話題を探す」石井陽介さん
- 第21回 「話をよく聞いて信頼してもらう」我謝京子さん
- 第20回 「ギブアンドテイクの視点で」北尾敬介さん
- 第19回 「組織はファミリー」中沢宏行さん
- 第18回 「1人のスーパーマンよりチームワーク」前澤正利さん
- 第17回 「多様なメンバーが強い組織を生む」竹田綾夏さん
- 第16回 「ビジョンを共有する」マックス市川さん
- 第15回 「同じ人間として対等に話す」浦川明典さん
- 第14回 「会話は敬語、メールは気配り」イムラン・スィディキさん
- 第13回 「思い込みを捨てる」羽田賀恵さん
- 第12回 「うじうじ考えてないでサッサやるだけよ」本多士郎さん
- 第11回 「批判だけでは前に進まない」チャンダー・メヘラさん
- 第10回 「実績を示せば耳を傾けてもらえる」朝野徹さん
- 第9回 「シナジーをいかに引き起こすか」髙谷晃さん
- 第8回 「交渉は役割分担と演出で」新谷誠さん
- 第7回 「相手のプライドを土足で汚さない」佐藤知一さん
- 第6回 「気持ちが入っていないと、いい仕事はできない」 森本容子さん
- 第5回 「知る、理解する、好きになる、の順で」原田幸之介さん
- 第4回 「人に会って信頼できるネットワークをつくる」齊藤整さん
- 第3回 「失敗はだれでもある、やり直せる」平野昌義さん
- 第2回 「『好き』が相手に伝われば何とかなる」林原誠さん
- 第1回 「アドレナリンが出ている時が大事」太田悠介さん