第51回
「要望の背景も話す」堀田卓哉さん
ピーエムグローバル株式会社 木暮 知之
グローバルプロジェクトに特化した企業であるピーエムグローバルの代表を務める木暮知之を聞き手に、国内外で活躍するプロフェッショナルに体験談や仕事を円滑に進める秘訣をうかがう連載コラム「グローバル・コネクター」。今回のゲストは伝統工芸や日本文化の発信を手掛ける企業「Culture Generation Japan(カルチャージェネレーション・ジャパン)」で代表を務める実業家の堀田卓哉さんです。(写真はいずれも本人提供)
木暮 家業がおもちゃ屋さんだったとか。
堀田 子どもの頃から玩具に囲まれて暮らしていました。読書が好きだったので小学生の頃は読みたい本があると近所の本屋さんにツケ払いで読ませてもらっていました。両親には今でも感謝しています。10代前半で阪神・淡路大震災や大手証券会社の経営破綻などが起こり、日本にいることに不安を覚え、米国の大学へ留学したいと思うようになりました。
木暮 僕は坂本龍馬のような大きな心を持ちたいと米南部テキサス州のハイスクールに留学しました。
堀田 大学まで上がれる一貫校に通っていたので、両親は猛反対。結局、そのまま日本で内部進学しましたが、1年生のときにカナダへ短期留学できました。現地では自分が「キラキラ」しているように感じ、いったん帰国して資金を貯めてから、大学を休学して米サンフランシスコの公立大学で1年近く学びました。
木暮 海外生活で日本の文化を感じる場面があったとか。
堀田 帰国前に中南米をめぐり、メキシコでは日本人がいないような場所にも行きました。当時は日本のアニメーション「ドラゴンボール」が現地でも大人気。子どもたちはこちらが日本人だと分かると主人公の必殺技「かめはめ波」のポーズを見せてくるんです。アニメの浸透力に驚かされたのと同時に、日本人で良かったなと海外に出て初めて思いました。アイデンティティが芽生えつつあった時期と重なり、これからは日本文化を世に伝えていくことが必要なのでは、と感じたのも今の仕事に影響しています。
木暮 帰国してフランスの会社に。
堀田 就職活動をなめていました。就職氷河期でクラスメートが血眼になって応募書類を用意している横で私は「エントリーシートって何?」。英語が話せるし、どこかに入れるだろうと高をくくっていたのですが、応募した60社は全て不採用。最終的に親のコネで就職しました。会社としても初の新卒採用だったらしく、入社の翌日に上司のフランス人から「出張に行こう」と声を掛けられ、長崎まで同行したのですが、事前準備も打ち合わせもなし。当日は会議の内容が全く分からず、眠気をこらえるのに必死で。
木暮 行動力はあった?
堀田 新人教育のようなものはなく、「とにかくやれ」という感じですが、日本企業の新卒社員では体験できないようなこともさせてもらいました。文化の違いを含めて人と人の間に入る立場の難しさを学び、バランス感覚も身に着きました。人はみな違いますし、批判しても仕方がない。取引相手は仏企業なのですが、販売先である日本のお客さまからは「品質が足りない」とかいろいろ言われます。フランス側に対応を促すと「明日からバカンスだから、回答は1カ月後だね」と平気で言うわけです。
木暮 どうしました?
堀田 少しずつ教育していきました。日本企業では当たり前ですが、「バカンスの前に代わりの人へ引き継いでおいてね」とか。話をつけるためにフランスまで出向いたこともありました。
木暮 現地で直接交渉とは並の新卒にはできません。
堀田 米国で1人暮らしをした経験が生きているのかもしれないですね。フランス人は人間関係をとても大事にする人たちです。彼らも「そこまでタクヤがやるなら俺も」という感じで、いったん信頼関係ができるとかなり義理堅いんです。
木暮 信頼関係はどうやって?
堀田 日本の要望をそのまま伝えるのもいいのですが、背景を踏まえてフランス側には話すようにしています。「この要望ではNOしか返ってこないな」と事前に分かる場合は妥協点を見つけて「丸めて投げる」。そうするとフランス側も「こちらの事情を分かってくれるんだな」と信頼してくれる。
木暮 背景を伝えると理解も得られやすい。相手側の感覚が分からないと優先順も付けられないですからね。誰にも教わらずにできたのですか。
堀田 先輩がすごくいい人たちで「見て学べ」という感じで。
木暮 その後、日本のコンサルティング会社へ転職。
堀田 フランス人との給与格差などいろいろと思うところがあって。資格を取ってキャリアアップしようと思い、機会損失や生活費のことも考え1年でMBA(経営学修士)を修了できる欧州のモナコに留学しました。帰国して就職活動する中で、立ち上げたばかりでやりがいのありそうだったコンサル会社に決めました。そこに5年間ほど在籍しました。
聞きすぎない
木暮 独立されて今の仕事に。
堀田 コンサル時代はリーマンショック以降、企業再建の仕事が増えました。相手側は当初「助けてくれるのでは?」と期待するのですが、時には赤字を止めるために給与を削減したり、レイオフ(一時解雇)したりすることもある。彼らの期待は失望に変わっていくわけです。仕事ですから嫌だとは言えませんが「社会が少しでも良くなっているという実感が持てる職業があるのでは」と思い始めました。そのころ、地元・浅草の三社祭に参加するために青年部に入り、誰かが下働きをすることで日本の祭りや文化がつながれていることを知ったのです。ちょうちん作りを手掛ける友人から「世界市場で勝負がしたい」と持ち掛けられ、「日本の文化を次世代に伝えていくことが自分たちの仕事」と言い切れる彼らのようなキラキラした人たちと関わりたいと思うようになりました。ビジネスの経験を生かして一緒にやれたら事業の幅が広がるかも、という甘い期待もあって独立してしまったんです。少し気が変になっていたのかと思うくらいですが、何も怖くなかった。いま思えば本当によくやれたなと。
木暮 僕もITをあまり知らずに業界に飛び込みましたから、感覚は分かります。どのようにビジネスに発展させたのですか。
堀田 人生で初めていろんな方に「デザイナーと伝統工芸の職人をマッチングして新商品を作りたい」と営業する中で、台東区の創業支援施設「デザイナーズビレッジ」の代表者である鈴木淳さんを紹介されました。当時、鈴木さんは若手デザイナーと職人による東京都美術館のグッズ開発事業に関わっておられた。僕と会う3日前にアシスタントが辞めていたらしく「良さそうなのが来た!」となったようです。アートディレクターが欧州留学時代の学友のお兄さんだったという偶然も重なり、「これは運命だ」という感じで話が進みました。当時は「伝統工芸」や「地方創生」の分野に若手が少なかったので行政からも注目され、次第に声が掛かるようになりました。
木暮 それまでの蓄積は必然だったのかも。
堀田 毎日夢中です。その後は、知り合いになった職人さんから「欧州市場に進出する手伝いをしてほしい」と誘われました。そうしたプロジェクトで実績を積んだことで、いろいろな行政機関に「面的な支援をしませんか」と提案できるようになり、徐々にプロジェクトの規模が大きくなっていきました。
木暮 職人さんとの協業はどうでしたか。
堀田 気難しい方もいますが、特にトラブルはなく、コミュニケーションに関して困ったことはありません。おそらくフランス人と日本人の間でバランスをとって仕事をした経験があったからだと思います。当事者の間に立って、お互いにうまくやるというのは今も変わっていません。職人とデザイナー、職人とマーケット。そこをつなぐ。
木暮 つなぐ秘訣は?
堀田 話を聞き過ぎないこと。職人さんはマーケットを完全に知っているわけではありません。ものづくりに関しては100%同意するけれども、マーケットに合わせて売るという時には「ご意見は分かります。ただ、こちらのほうが良いと思います」と伝えます。
木暮 プロとしての意見が受け入れられるというのは、信頼を得ているからでしょうね。
堀田 家業を継がせるかどうかで職人さんたちは悩まれています。ただ、先祖代々受け継いできた方たちですから、本音は「続けてほしい」。そこに私も一緒に加わることで「これなら希望が見えるかも」と彼らも考えが変わり、お子さんが加わったプロジェクトができる。そういう時に日本の伝統を次世代につなげる貢献ができたのかなと思います。
木暮 販路を広げながら次の世代に。壮大な話ですね。今後やっていきたいことは?
堀田 自社ブランドの確立を進めています。問い合わせが増えている和食器のサブスクリプションサービス「CRAFTAL(クラフタル)」がその代表例です。海外から産地に足を運んでもらうツアーを19年から立ち上げました。産地から遠くなればなるほど、良さを伝えるのは難しくなるんです。もっと工房に来て空気感を味わってほしいですね。(おわり)
堀田卓哉さんについては当社のFacebookでもご紹介しております。ぜひご覧ください。
プロフィール
グローバルなビジネス環境で今まで以上に高品質なプロジェクトマネジメントを必要とされる全てのお客様のために、プロジェクトを推進し成功させるための環境づくりを総合的にサポートします。また、マネジメントのパートナーとして現場の視点と経営の視点を併せ持った課題の発見、およびその対策としての戦略策定をご提案します。
【サービスメニュー】
プロジェクトのマネジメント支援(PMO)
プロジェクトマネージャーのトレーニング
セミナー「グローバル・コネクター」の開催・運営
グローバル人材の育成
海外拠点の現地社員育成
インドニュースの配信・出版
ニュース配信サイトの運営
海外進出コンサルティング
Webサイト:ピーエムグローバル株式会社
「外国の方とのビジネスやコミュニケーションに悩まれたことはありませんか?
ギクシャクしたり、思ったほど相手との距離が縮まらなかったり。英語だけの問題ではないのでは?
『ガイバナ』では、英会話自体にフォーカスするのではなく、英語が苦手な方でも、一歩踏み出してコミュニケーションの場を明るくする、キラリと光るエッセンスをお届けします。エピソード後半に、覚えてほしいキラリフレーズをご紹介しています。
「ガイバナ」ポッドキャストはこちらから
ガイバナ@Line: @315pjfpo」
- 第77回 「みんなで決めたらやり遂げる」甲斐ラースさん
- 第76回 「ひとつずつクリアする」大渕愛子さん
- 第75回 「国内・海外の共通言語はコミュニケーション力」駒井愼二さん
- 第74回 「相手に合わせたロジックを」福田勝さん
- 第73回 「強みを生かす」亀井貴司さん
- 第72回 「現状に疑問を持つ」アミヤ・サディキさん
- 第71回 「任せたら自由にさせる」竹内新さん
- 第70回 「正しいあうんの呼吸を」村瀬俊朗さん
- 第69回 「ほかにない価値を」金城誠さん
- 第68回 「素早く対応する」柏田剛介さん
- 第67回 「ビジョンを伝える」中村勝裕さん
- 第66回 「歴史を学ぼう」磯部功治さん
- 第65回 「多少の自信と歯切れの良さと」島原智子さん
- 第64回 「情報を体系化する」鈴木隆太郎さん
- 第63回 「メッセージを明確に」岩本修さん
- 第62回 「上司もホウ・レン・ソウ」高橋裕幸さん
- 第61回 「自分を肯定する」前川裕奈さん
- 第60回 「状況を掘り下げて原因を探す」寺島周一さん
- 第59回 「信頼と共感の空気をつくる」蔭山幸司さん
- 第58回 「一緒に楽しむと続けられる」草木佳大さん
- 第57回 「7割の見込みを信じる」吉元大さん
- 第56回 「意見をありがたく聞く」室井麻希さん
- 第55回 「常に学び・成長できる環境に身を置く」門田進一郎さん
- 第54回 「目の前の人との関係を大事に」岡田昇さん
- 第53回 「意見を聞いてから主張を調整する」大橋譲さん
- 第52回 「頼れる存在に任せる」ケビン・クラフトさん
- 第51回 「要望の背景も話す」堀田卓哉さん
- 第50回 「素直に聞く度量を」山田剛さん
- 第49回 「奇妙な日本人を自覚する」村上淳也さん
- 第48回 「信頼にめりはりを」二階堂パサナさん
- 第47回 「俯瞰(ふかん)して眺める」エドワード・ヘイムスさん
- 第46回 「丁寧さが評価される」ブレケル・オスカルさん
- 第45回 「個と向き合う」吉野哲仁さん
- 第44回 「事実に焦点を当てる」中村敏也さん
- 第43回 「現場に顔を出す」深井芽里さん
- 第42回 「状況を楽しむ」飯沼ミチエさん
- 第41回 「人生を楽しむ“絶対的価値観”を」小川貴一郎さん
- 第40回 「少ない言葉でも伝わる」アレン・パーカーさん
- 第39回 「ポジティブは伝染する」川平慈英さん
- 第38回 「自分で考える人に」野田純さん
- 第37回 「常にフェアであれ」忍足謙朗さん
- 第36回 「相手の価値観を包み込む」神原咲子さん
- 第35回 「直接得る情報を大事に」ネルソン水嶋さん
- 第34回 「相手のルールを早く知る」杉窪章匡さん
- 第33回 「意見を受け入れて試してみる」鈴木皓矢さん /「ノーと言われてもあきらめない」林祥太郎さん
- 第32回 「技術を尖(とが)らせる」稲垣裕行さん
- 第31回 「自分でやってみる」佐々木英之さん/「やる気のエネルギーを信じる」白井良さん
- 第30回 「リフレッシュ方法を見つける」大野均さん
- 第29回 「英語はメールから始めよう」岡田陽二さん
- 第28回 「逃げずに向き合う」矢野浩一さん
- 第27回 「相手に合わせた伝え方を」松田励さん
- 第26回 「ゴールを共有する」多島洋如さん
- 第25回 「考え方は変えられる」小森谷朋子さん
- 第24回 「相手が話しやすいテーマで心をつかむ」増山健さん
- 第23回 「どうしたいかで生きればいい」佐藤みよ子さん
- 第22回 「伝わる話題を探す」石井陽介さん
- 第21回 「話をよく聞いて信頼してもらう」我謝京子さん
- 第20回 「ギブアンドテイクの視点で」北尾敬介さん
- 第19回 「組織はファミリー」中沢宏行さん
- 第18回 「1人のスーパーマンよりチームワーク」前澤正利さん
- 第17回 「多様なメンバーが強い組織を生む」竹田綾夏さん
- 第16回 「ビジョンを共有する」マックス市川さん
- 第15回 「同じ人間として対等に話す」浦川明典さん
- 第14回 「会話は敬語、メールは気配り」イムラン・スィディキさん
- 第13回 「思い込みを捨てる」羽田賀恵さん
- 第12回 「うじうじ考えてないでサッサやるだけよ」本多士郎さん
- 第11回 「批判だけでは前に進まない」チャンダー・メヘラさん
- 第10回 「実績を示せば耳を傾けてもらえる」朝野徹さん
- 第9回 「シナジーをいかに引き起こすか」髙谷晃さん
- 第8回 「交渉は役割分担と演出で」新谷誠さん
- 第7回 「相手のプライドを土足で汚さない」佐藤知一さん
- 第6回 「気持ちが入っていないと、いい仕事はできない」 森本容子さん
- 第5回 「知る、理解する、好きになる、の順で」原田幸之介さん
- 第4回 「人に会って信頼できるネットワークをつくる」齊藤整さん
- 第3回 「失敗はだれでもある、やり直せる」平野昌義さん
- 第2回 「『好き』が相手に伝われば何とかなる」林原誠さん
- 第1回 「アドレナリンが出ている時が大事」太田悠介さん