第6回
「気持ちが入っていないと、いい仕事はできない」 森本容子さん
ピーエムグローバル株式会社 木暮 知之
グローバルプロジェクトに特化した企業であるピーエムグローバルの代表を務める木暮知之を聞き手に、国内外で活躍する方からプロフェッショナルとしての経験則や外国人と上手く付き合う秘訣をうかがう連載コラム「グローバル・コネクター」。今回のゲストは、かつて「カリスマ店員」として若い女性から圧倒的な支持を集め、現在はクリエイティブディレクターとして活躍する森本容子さんです。
木暮 現在はご主人の拠点であるバリと日本を往復され、育児が中心の生活とか。
森本 半分「引退」したような感覚ですね。ここ(インタビュー会場となった「IVY PLACE」)も好きで通っているうちに店員さんの着ている服が気になってしまい、「私がいい服装を提案できますよ」と声を掛けました。すぐにお店側も反応してくださり、全店舗の衣装をお手伝いしています。私のオフィスは規模が大きくないので、発注の枚数がまとまらないと実現が難しいのですが、とんとん拍子に話が進みました。
木暮 店員の方の服が気になるのですね。
森本 スーツを仕立てる男性と比べて、女性は洋服のサイズを間違って着ている人が多いです。これまでずっと言ってきているのですが。
木暮 ついつい声をかける?
森本 教えてあげたい、からやっている感じです。販売している「ショップチャンネル」で多い顧客層は60~70代の女性を筆頭に、50~40代と続くのですが、そういった方は体型がごまかせないブラウスやニットを選びがち。「どうして難しい格好をしたがるのかな」と思います。楽に着られて、おしゃれそうに見える服を選ぶことについては自信があります。かっちり着こなさない、ちょっとでもスタイル良く見られたい、カジュアルに見えていてもこっそり工夫を入れる、というのが得意なんです。
木暮 こうしたい、という思いが先にあるわけですね。
森本 テレビショッピングのお話は10年ぐらい前にも浮上していました。当時は直営店の運営やアドバイザリー契約なども手掛けていた上、テレビ通販に対してあまり良いイメージがわかず、偏見もあったと思いますが、「世界観がない」という印象があり実現しませんでした。ショップチャンネルから話をいただいた当時は、一緒に働いているデザイナーも私も妊娠や子育てを考え、ブランドを縮小して店舗の閉鎖を進めていた時期でした。私たちは自社の生産工場を持たないのですが、製造を担当してくれるメーカーも付いていることなどが後押しとなり「やってみようか」という気になったのです。自分自身のプライドというよりも気軽に楽しんで着てもらえる「低価格のカジュアル服」をやってみたいという思いがありましたね。
木暮 高級車メーカーが大衆車も手掛けたくなった感じですか。ブランドのイメージがあるから大変だったのでは?
森本 作り上げたものを壊したいという性分なのでしょうね。「安定」を嫌う性格なのだと思います。あとから気付いたのですが、自分では意識していないのに、結果的に壊しているということが何度かありました。
木暮 自分が立ち上げたブランドも辞められたそうですね。何か心に期するところがあったのだと思いますが、その後の心境に変化はありましたか。
森本 独立して取り組んだセルフプロデュースでも売れたことで自信が付きました。
木暮 何でもできると。
森本 手掛けたブランドが年商20億を超える事業規模に成長するのを目の当たりにし、ブランド提案という仕事そのものについては「何ていい仕事なの!」と思うまでになりました。
木暮 当時のトレンドをあまり意識しなかったのが成功につながったという見方もあるようですね。
森本 若かったもので。師匠をはじめとする才能のある人から教わっただけです。
木暮 今や1児の母。ご主人が拠点にするバリでの生活はどうですか。
森本 彼はもう20年近くインドネシアで暮らしており、出会った時にはお互いに基盤がありました。バリはなかなか大変です。家が突然、真っ暗になってもまず外を見渡して近所一帯が停電なのかを確認し、うちだけじゃないと分かると安心する、そんな生活です。電気料金をコンビニで先払いする「プルサ」という仕組みも日本と違いますね。
木暮 バリといえば一般的にリゾートを思い浮かべますからね。
森本 ホテルでは訓練された従業員からサービスが受けられます。日常生活は飲料水の問題など衛生面に気を付けています。
木暮 それまでに海外は?
森本 仕事の関係で欧米、香港や中国にも。
木暮 海外に行くとリフレッシュできますか。
森本 仕事も生活の一部という感じです。楽しいと思える仕事しか引き受けないです。
木暮 言ってみたいセリフです。
森本 我慢して仕事を請け負うことが減りました。生活のために請ける仕事というものもなくなりました。息子もまだ小さいし、一緒にいたい。できることなら保育園にも入れたくなかったくらいです。仕事と家庭の向き合い方としては、今は家のことがしたいです。
木暮 素敵ですね。
森本 かつて死ぬほど働いたという自負があるからだと思います。今は半分引退しているような感覚なのです。ショップチャンネルでは30分間でブラウス7000着を売り切ったのですが、記録としても多かったみたいです。担当の方から「森本さん、これは伝説になりますよ」と言われました。
木暮 すごい。やれることがまだたくさんある感じですか。
森本 今は事業規模が小さいので、言いたいことが言えます。50~70代といったお客さまとの年齢も近くなり、襟ぐりの詰めなど、母の世代の悩みも分かります。楽しんでやらないと伝わりませんし、気持ちが入っていないと売れないですね。
木暮 思いが詰まっていないとね。
森本 私たちの仕事はサービス業です。喜んでもらうのが仕事です。自分たちが楽しくサービスを提供する気がないなら「やめればいいのに」と思ってしまいますね。
木暮 かっこいいですね。
森本 とはいえ、自分本位ではうまくいきません。自分の利益だけを求めていても失敗します。無理のないところでやっています。
木暮 激動の人生をくぐり抜けた実感でしょうか。
森本 これまでに離婚や横領事件なども経験しました。友達と「死なずにいられてよかったね」と振り返ることがあります。今はできるだけ静かにしている感じですね。
木暮 でも目は輝いていますよ。
森本 主人には「今は投資の時期だぞ」と励まされています。これまで自分で何かを開拓したことがないような気がしているのですが、将来は道が開けるかもしれませんね。20年後にはまた返り咲きたいですね。(おわり)
プロフィール
グローバルなビジネス環境で今まで以上に高品質なプロジェクトマネジメントを必要とされる全てのお客様のために、プロジェクトを推進し成功させるための環境づくりを総合的にサポートします。また、マネジメントのパートナーとして現場の視点と経営の視点を併せ持った課題の発見、およびその対策としての戦略策定をご提案します。
【サービスメニュー】
プロジェクトのマネジメント支援(PMO)
プロジェクトマネージャーのトレーニング
セミナー「グローバル・コネクター」の開催・運営
グローバル人材の育成
海外拠点の現地社員育成
インドニュースの配信・出版
ニュース配信サイトの運営
海外進出コンサルティング
Webサイト:ピーエムグローバル株式会社
「外国の方とのビジネスやコミュニケーションに悩まれたことはありませんか?
ギクシャクしたり、思ったほど相手との距離が縮まらなかったり。英語だけの問題ではないのでは?
『ガイバナ』では、英会話自体にフォーカスするのではなく、英語が苦手な方でも、一歩踏み出してコミュニケーションの場を明るくする、キラリと光るエッセンスをお届けします。エピソード後半に、覚えてほしいキラリフレーズをご紹介しています。
「ガイバナ」ポッドキャストはこちらから
ガイバナ@Line: @315pjfpo」
- 第77回 「みんなで決めたらやり遂げる」甲斐ラースさん
- 第76回 「ひとつずつクリアする」大渕愛子さん
- 第75回 「国内・海外の共通言語はコミュニケーション力」駒井愼二さん
- 第74回 「相手に合わせたロジックを」福田勝さん
- 第73回 「強みを生かす」亀井貴司さん
- 第72回 「現状に疑問を持つ」アミヤ・サディキさん
- 第71回 「任せたら自由にさせる」竹内新さん
- 第70回 「正しいあうんの呼吸を」村瀬俊朗さん
- 第69回 「ほかにない価値を」金城誠さん
- 第68回 「素早く対応する」柏田剛介さん
- 第67回 「ビジョンを伝える」中村勝裕さん
- 第66回 「歴史を学ぼう」磯部功治さん
- 第65回 「多少の自信と歯切れの良さと」島原智子さん
- 第64回 「情報を体系化する」鈴木隆太郎さん
- 第63回 「メッセージを明確に」岩本修さん
- 第62回 「上司もホウ・レン・ソウ」高橋裕幸さん
- 第61回 「自分を肯定する」前川裕奈さん
- 第60回 「状況を掘り下げて原因を探す」寺島周一さん
- 第59回 「信頼と共感の空気をつくる」蔭山幸司さん
- 第58回 「一緒に楽しむと続けられる」草木佳大さん
- 第57回 「7割の見込みを信じる」吉元大さん
- 第56回 「意見をありがたく聞く」室井麻希さん
- 第55回 「常に学び・成長できる環境に身を置く」門田進一郎さん
- 第54回 「目の前の人との関係を大事に」岡田昇さん
- 第53回 「意見を聞いてから主張を調整する」大橋譲さん
- 第52回 「頼れる存在に任せる」ケビン・クラフトさん
- 第51回 「要望の背景も話す」堀田卓哉さん
- 第50回 「素直に聞く度量を」山田剛さん
- 第49回 「奇妙な日本人を自覚する」村上淳也さん
- 第48回 「信頼にめりはりを」二階堂パサナさん
- 第47回 「俯瞰(ふかん)して眺める」エドワード・ヘイムスさん
- 第46回 「丁寧さが評価される」ブレケル・オスカルさん
- 第45回 「個と向き合う」吉野哲仁さん
- 第44回 「事実に焦点を当てる」中村敏也さん
- 第43回 「現場に顔を出す」深井芽里さん
- 第42回 「状況を楽しむ」飯沼ミチエさん
- 第41回 「人生を楽しむ“絶対的価値観”を」小川貴一郎さん
- 第40回 「少ない言葉でも伝わる」アレン・パーカーさん
- 第39回 「ポジティブは伝染する」川平慈英さん
- 第38回 「自分で考える人に」野田純さん
- 第37回 「常にフェアであれ」忍足謙朗さん
- 第36回 「相手の価値観を包み込む」神原咲子さん
- 第35回 「直接得る情報を大事に」ネルソン水嶋さん
- 第34回 「相手のルールを早く知る」杉窪章匡さん
- 第33回 「意見を受け入れて試してみる」鈴木皓矢さん /「ノーと言われてもあきらめない」林祥太郎さん
- 第32回 「技術を尖(とが)らせる」稲垣裕行さん
- 第31回 「自分でやってみる」佐々木英之さん/「やる気のエネルギーを信じる」白井良さん
- 第30回 「リフレッシュ方法を見つける」大野均さん
- 第29回 「英語はメールから始めよう」岡田陽二さん
- 第28回 「逃げずに向き合う」矢野浩一さん
- 第27回 「相手に合わせた伝え方を」松田励さん
- 第26回 「ゴールを共有する」多島洋如さん
- 第25回 「考え方は変えられる」小森谷朋子さん
- 第24回 「相手が話しやすいテーマで心をつかむ」増山健さん
- 第23回 「どうしたいかで生きればいい」佐藤みよ子さん
- 第22回 「伝わる話題を探す」石井陽介さん
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