第25回
「考え方は変えられる」小森谷朋子さん
ピーエムグローバル株式会社 木暮 知之
グローバルプロジェクトに特化した企業であるピーエムグローバルの代表を務める木暮知之を聞き手に、国内外で活躍するプロフェッショナルに体験談や仕事を円滑に進める秘訣をうかがう連載コラム「グローバル・コネクター」。今回のゲストは、銀行に就職後、家族の米国赴任をきっかけに現地で公認会計士の資格を取得。現在はさまざまな企業にてキャリア構築の研修、リーダーシップ研修などを行うエグゼクティブコーチの小森谷朋子さんです。
木暮 くしくもキャリアのスタートが同じ銀行です。外国に興味があったのですか。
小森谷 海外に縁のないごく普通の家庭で育ったのですが、帰国子女の友人がたまたま多くいました。努力しても手に入れられないものを持っている彼女たちをうらやましいな、と思ったことがよくありました。広い世界で仕事をしたいという思いから、海外業務に強い東京銀行も素敵だなと。
木暮 結婚を機に退職。
小森谷 マーケット調査や証券投資ができる刺激的な職場にいましたが、不本意ながら辞めざるを得ず、今後のキャリアを考えるとへこみましたね。
木暮 ご主人の転勤で渡った米国で資格も取られたとか。
小森谷 ニューヨークの大学に通い会計と財務を学び、とりあえず現地の公認会計士の資格を取ろうと。帰国後は日本の会計士資格も取得したかったのですが、子どもが生まれたこともあり会計の資格予備校の講師として働き始めました。
木暮 活動的ですね。仕事に向かう動機は何でしょうか。
小森谷 出産後、夫が子どもを見てくれる週末に専任講師として働き、仕事と家庭のバランスも取れて充実していました。ところが夫の転勤で再渡米することになり、再びキャリアが中断。現地での社会性は保てたのですが、アイデンティティーの危機から精神的には「どん底」でした。その後ニューヨーク大学(NYU)でコーチングの勉強をする中で自分の間違った思考に気付かされ、39歳の時に物の捉え方を意識的に転換したのです。それから人生が大きく転換して新しい分野での仕事も順調に進みました。「幾つになっても人はよりよく変化成長できる」ということを一人でも多くの人に伝えたいという強い思いが仕事の動機です。
木暮 米国でコーチングに出会う。
小森谷 駐在員の妻としての生活は悪くなかったのですが、何かをしなければという「マスト感」がずっと心の中にありました。会計業も考えたのですが、直感的に人材育成やコーチングの分野に興味を引かれました。人との関係性をとても大事に思い、何か人に影響を与えたいのだと気付きました。
木暮 私もコーチングで変わった実感があります。自分のことを考えるように誘導してくれますね。
小森谷 ミラーリング(相手を尊重して親密感を築くコミュニケーション)ですね。思っていることを少しずつ表に出してもらう。コーチングで勉強した内容が全面的に素晴らしいと思ったわけではなく、いろいろな文献を読み「脳の使い方」に興味を持ちました。知識や経験によって固定化された物の捉え方・考え方は新たな回路に「書き換えられる」というものです。39歳までは過去や他人の見方といった自分でコントロールできないことに思考を占められていて、後悔や人との比較ばかりだったのですが、すべて無意味なことだと気付けたのです。
木暮 大発見だったわけですね。
小森谷 自分でコントロールできることに時間とエネルギーを集約し、「何とかなる、何とかできる」と思えるのがリーダーの条件のひとつです。これは生まれもった性格ではなく、私のように学びを通じて身に着けられます。お勧めしたいのは、目の前の出来事について自分でコントロールできるかどうかをマルかバツで判定する方法です。バツだと思える場合は一度問い直す。「本当にどうにもならないのか?」「なにかできることは?」「どうすれば?」の視点から再考して自分ができることを探す。それでもバツなら切り捨てる、手放すのです。コントロールできないことにこだわっていても何も生まれません。
木暮 自分の「正解」にこだわり過ぎる人もいますね。
小森谷 自分ができる「マル」探しがビジネスであるとも言えます。日本人は問題があったときに解決方法を探ろうとする代わりに、原因探しを始めることが多い。大事なのは「Why(なぜ)」で探求したその後。WhatやHowです。バツだと思えることも意識を変えればマルになる思考回路ができます。私は全てネガティブに思考する人間でしたが、40歳になる前に全てをWhatで考えるようにしました。「何ができる?何からすればいい?何がしたい?」と。同じ状況でも思考が変わると見える世界が変わり、できることが格段に増えることが3カ月ほどで分かってきます。その意義を伝えるのが私の仕事だと思っています。
木暮 大きな転換です。
小森谷 人の考え方は硬直しがちです。仕事をバージョンアップできるように、自分の考え方も意識的にセルフチェックをしてバージョンアップしないといけません。
木暮 マインドセット(考え方)が大事だということですね。仕事をするなら楽しくやろうと。
小森谷 それです。どうせやるなら楽しく。楽しさを多く得られる人は成果も上がります。
木暮 100%同意です。いちいちストレスにしているとすごく大変。仕方ないこともある。
小森谷 外国で言えば、できる事について考える「マル思考」が多いのは特に米国人かもしれません。米国では教育で小さいころからプレゼンテーションやディベートの手法も学んでいて、1のことを10に言えるような土壌があります。科学の研究発表会などに行くと、皆が大きくて立派なボードを使ってプレゼンをする。見掛け倒しも結構あるのですが、中身があるように話せるのも大事。
木暮 日本人だと「自信がない」「正解が分からない」と萎縮して挙手もできない。
小森谷 日本では自分の本当にありたい姿など、思考を掘り下げる訓練を受ける機会がほとんどありません。40代前後で初めて掘り下げる人も研修で出会う方には多くいます。
木暮 自分がやりたいことは何か、気付いている人は少ない。
小森谷 譲れない信念というか、自分のコア(核)となる価値があるはずです。「どうありたいか」が「どうしたい」につながります。コアは一人一人違います。その意味では日本人も外国人も同じです。海外での文化コミュニケーションで大事なのは、文化的背景などにも配慮しつつ、その人のことをどれだけ考えているかを伝えることです。仕事の中で何に喜びを見出しているかを見つけ、引っ張り出す。その人の楽しい瞬間を聞いてみることです。駄目だとあきらめる前に相手を「仕事ができない人だ」と思い込んだり、フィルターをかけて見ていないか、思い込みを取り払ってみる。これまでとは違うアプローチで臨んでみることです。
木暮 相手のことに興味を持つことが心を開くきっかけになります。
小森谷 人間には他者から存在を認めてもらいたい「承認欲求」があります。うまくコミュニケーションする秘訣は、相手を「主人公」にすることです。その人が何を求めているか、という思いやりの視点が大事です。その気持ちが伝われば信頼関係もできるわけですからね。(おわり)
プロフィール
グローバルなビジネス環境で今まで以上に高品質なプロジェクトマネジメントを必要とされる全てのお客様のために、プロジェクトを推進し成功させるための環境づくりを総合的にサポートします。また、マネジメントのパートナーとして現場の視点と経営の視点を併せ持った課題の発見、およびその対策としての戦略策定をご提案します。
【サービスメニュー】
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プロジェクトマネージャーのトレーニング
セミナー「グローバル・コネクター」の開催・運営
グローバル人材の育成
海外拠点の現地社員育成
インドニュースの配信・出版
ニュース配信サイトの運営
海外進出コンサルティング
Webサイト:ピーエムグローバル株式会社
「外国の方とのビジネスやコミュニケーションに悩まれたことはありませんか?
ギクシャクしたり、思ったほど相手との距離が縮まらなかったり。英語だけの問題ではないのでは?
『ガイバナ』では、英会話自体にフォーカスするのではなく、英語が苦手な方でも、一歩踏み出してコミュニケーションの場を明るくする、キラリと光るエッセンスをお届けします。エピソード後半に、覚えてほしいキラリフレーズをご紹介しています。
「ガイバナ」ポッドキャストはこちらから
ガイバナ@Line: @315pjfpo」
- 第77回 「みんなで決めたらやり遂げる」甲斐ラースさん
- 第76回 「ひとつずつクリアする」大渕愛子さん
- 第75回 「国内・海外の共通言語はコミュニケーション力」駒井愼二さん
- 第74回 「相手に合わせたロジックを」福田勝さん
- 第73回 「強みを生かす」亀井貴司さん
- 第72回 「現状に疑問を持つ」アミヤ・サディキさん
- 第71回 「任せたら自由にさせる」竹内新さん
- 第70回 「正しいあうんの呼吸を」村瀬俊朗さん
- 第69回 「ほかにない価値を」金城誠さん
- 第68回 「素早く対応する」柏田剛介さん
- 第67回 「ビジョンを伝える」中村勝裕さん
- 第66回 「歴史を学ぼう」磯部功治さん
- 第65回 「多少の自信と歯切れの良さと」島原智子さん
- 第64回 「情報を体系化する」鈴木隆太郎さん
- 第63回 「メッセージを明確に」岩本修さん
- 第62回 「上司もホウ・レン・ソウ」高橋裕幸さん
- 第61回 「自分を肯定する」前川裕奈さん
- 第60回 「状況を掘り下げて原因を探す」寺島周一さん
- 第59回 「信頼と共感の空気をつくる」蔭山幸司さん
- 第58回 「一緒に楽しむと続けられる」草木佳大さん
- 第57回 「7割の見込みを信じる」吉元大さん
- 第56回 「意見をありがたく聞く」室井麻希さん
- 第55回 「常に学び・成長できる環境に身を置く」門田進一郎さん
- 第54回 「目の前の人との関係を大事に」岡田昇さん
- 第53回 「意見を聞いてから主張を調整する」大橋譲さん
- 第52回 「頼れる存在に任せる」ケビン・クラフトさん
- 第51回 「要望の背景も話す」堀田卓哉さん
- 第50回 「素直に聞く度量を」山田剛さん
- 第49回 「奇妙な日本人を自覚する」村上淳也さん
- 第48回 「信頼にめりはりを」二階堂パサナさん
- 第47回 「俯瞰(ふかん)して眺める」エドワード・ヘイムスさん
- 第46回 「丁寧さが評価される」ブレケル・オスカルさん
- 第45回 「個と向き合う」吉野哲仁さん
- 第44回 「事実に焦点を当てる」中村敏也さん
- 第43回 「現場に顔を出す」深井芽里さん
- 第42回 「状況を楽しむ」飯沼ミチエさん
- 第41回 「人生を楽しむ“絶対的価値観”を」小川貴一郎さん
- 第40回 「少ない言葉でも伝わる」アレン・パーカーさん
- 第39回 「ポジティブは伝染する」川平慈英さん
- 第38回 「自分で考える人に」野田純さん
- 第37回 「常にフェアであれ」忍足謙朗さん
- 第36回 「相手の価値観を包み込む」神原咲子さん
- 第35回 「直接得る情報を大事に」ネルソン水嶋さん
- 第34回 「相手のルールを早く知る」杉窪章匡さん
- 第33回 「意見を受け入れて試してみる」鈴木皓矢さん /「ノーと言われてもあきらめない」林祥太郎さん
- 第32回 「技術を尖(とが)らせる」稲垣裕行さん
- 第31回 「自分でやってみる」佐々木英之さん/「やる気のエネルギーを信じる」白井良さん
- 第30回 「リフレッシュ方法を見つける」大野均さん
- 第29回 「英語はメールから始めよう」岡田陽二さん
- 第28回 「逃げずに向き合う」矢野浩一さん
- 第27回 「相手に合わせた伝え方を」松田励さん
- 第26回 「ゴールを共有する」多島洋如さん
- 第25回 「考え方は変えられる」小森谷朋子さん
- 第24回 「相手が話しやすいテーマで心をつかむ」増山健さん
- 第23回 「どうしたいかで生きればいい」佐藤みよ子さん
- 第22回 「伝わる話題を探す」石井陽介さん
- 第21回 「話をよく聞いて信頼してもらう」我謝京子さん
- 第20回 「ギブアンドテイクの視点で」北尾敬介さん
- 第19回 「組織はファミリー」中沢宏行さん
- 第18回 「1人のスーパーマンよりチームワーク」前澤正利さん
- 第17回 「多様なメンバーが強い組織を生む」竹田綾夏さん
- 第16回 「ビジョンを共有する」マックス市川さん
- 第15回 「同じ人間として対等に話す」浦川明典さん
- 第14回 「会話は敬語、メールは気配り」イムラン・スィディキさん
- 第13回 「思い込みを捨てる」羽田賀恵さん
- 第12回 「うじうじ考えてないでサッサやるだけよ」本多士郎さん
- 第11回 「批判だけでは前に進まない」チャンダー・メヘラさん
- 第10回 「実績を示せば耳を傾けてもらえる」朝野徹さん
- 第9回 「シナジーをいかに引き起こすか」髙谷晃さん
- 第8回 「交渉は役割分担と演出で」新谷誠さん
- 第7回 「相手のプライドを土足で汚さない」佐藤知一さん
- 第6回 「気持ちが入っていないと、いい仕事はできない」 森本容子さん
- 第5回 「知る、理解する、好きになる、の順で」原田幸之介さん
- 第4回 「人に会って信頼できるネットワークをつくる」齊藤整さん
- 第3回 「失敗はだれでもある、やり直せる」平野昌義さん
- 第2回 「『好き』が相手に伝われば何とかなる」林原誠さん
- 第1回 「アドレナリンが出ている時が大事」太田悠介さん