第17回
「多様なメンバーが強い組織を生む」竹田綾夏さん
ピーエムグローバル株式会社 木暮 知之
グローバルプロジェクトに特化した企業であるピーエムグローバルの代表を務める木暮知之を聞き手に、国内外で活躍するプロフェッショナルに体験談や仕事を円滑に進める秘訣をうかがう連載コラム「グローバル・コネクター」。今回のゲストは、米国で大学講師などを務めたのち、ダイバーシティ(多様性)の視点からの企業研修や講演活動を行う竹田綾夏さんです。
木暮 提唱されている「ダイバーシティ・アンド・インクルージョン(D&I)」に親しみを感じます。
竹田 台湾出身の祖父と暮らした経験が大きいです。小さい頃から外国人や異文化に親しみながら育ったため、海外や異文化に興味がありました。大学卒業後に米オクラホマ州へ留学して社会学や英語教育を学びました。現地の大学で講師として英語と異文化理解に関する講義をしたのがキャリアの始まりです。
木暮 外国でのプロジェクトもメンバーの協力が不可欠。海外の日本人に対する印象は?
竹田 留学1年目から異文化の壁にぶつかって失敗しました。住んでいた学生寮で見かけた女性にインドの人だと思って話しかけたところ、「私はイギリス人!」と不機嫌にさせてしまったことがあります。外見だけで勝手にインド出身と決めつけていたわけです。イギリスにインド系移民が多いといった歴史的な背景なども当時はあまり分かっていませんでした。見た目や属性で判断しがちな例です。当初はうまくいかないと感じましたが「間違えるのもお互いさま」とだんだん前向きに考えるようになりました。私が怒らせたイギリス人も日本のことをどれほど知っていたかは疑問です。対話を積み上げていくことが異文化の理解につながる。間違えるのは恥ずかしい、と考えてはもったいない。間違えたところがスタートになると学びました。
木暮 米国の高校のクラスメートたちは授業中に答えを間違えても平然としていました。日本人が間違いを恐れるのはなぜでしょう。
竹田 教育の影響もあると思います。私自身は子どものころから堂々と間違えており、学校の先生もあきれていました。
木暮 米国生活が大きな影響。
竹田 オクラホマで暮らした4年間は悩みの連続で、海外留学生の中からルームメートを募集したときも考えさせられました。同性であること以外は全くこだわらなかったため広く呼び掛けたところ、ある日イスラム教徒の女性がやってきました。面談していても話しやすく、意気投合したと思ったのですが、彼女は「お酒はご法度。みりんなどの料理酒も部屋に置かないでほしい」という条件を出しました。当時は日本食を自炊してみりんを使っており、彼女の条件は受け入れられず、ルームメイトは別の方を選びました。後日、別の大学の日本人女性でイスラム教徒の女性とルームシェアをした方のエピソードで、日本人女性は同居の際にみりんを捨てたことを知りました。相手に合わせることを選んだのです。そこで気付いたのは、この問題には「正解」がないということでした。生活環境も価値観もその人次第です。どちらかが正しいというものではありません。お互いに主張して落としどころを見つければいい訳です。この作業は職業現場でも活きるのでは、とも思いました。
木暮 すり合わせるために話すと優先順位が整理される。
竹田 相手との「すり合わせ」は大変な作業です。自分でも成長したと思います。今では意見が違う人を前にしても「どうしてそう思うのだろう」と面白がれるようになりましたから。
木暮 どうしても「無理」な人は?
竹田 価値観がほとんど合わない人もいますが、「落としどころ」はあるはず。時間がたってから気付く場合もあるので、拒絶することだけは避けるようにしています。
木暮 自身の信念を伝えていくにはパワーがいる。
竹田 考え方の違う人と一緒に何かをする時に生まれる力に大きな可能性を感じます。米国生活での経験が原動力になっています。非常勤講師として働いたオクラホマの職場はLGBT当事者の人や宗教・文化が異なる教員らの個性がぶつかり合い、メンバー間で対立する場面もありましたが、問題解決に長けた集団でもありました。生まれ育った文化がお互いに近い人同士であれば、一定のレベルまで理解できることが多いのですが、最初から全く分かり合えない人たちも出てきます。それでも双方が歩みよって、当初の半分ぐらいは相手のことを理解できるようになる姿を目の当たりにし、個性豊かな人材を活かせる組織は素晴らしいと実感しました。日本でもそういう組織があれば、力強い集団になれるはずです。いま活かせるのは人です。
木暮 植物の種類が少ない森は環境の変化に弱いと聞きます。
竹田 不測の事態でも生き残れる種がないといけません。未知のウイルスのようなリスクにも対応できるように。
木暮 多様性の意義を「建前」と捉える人もいる。
竹田 メンバーが多様であることは組織のレジリエンス(力強さ)を生みます。気乗りしないから取り組まない、というものではなく、企業の価値につながることが明らかになっています。対話や気付きを通じて、企業にとって多様な人材は経営資源などだということをお伝えしたいです。違いについて現代音楽を通じて感覚で腹落ちし、違いを活かす力を養うプログラムも実施しています。
木暮 納得することが大事。
竹田 社会運動のひとつとして「社会における女性の活躍推進」がありますが、これは女性という切り口だけでは解決できません。家庭環境やご本人の事情、会社の制度や企業文化にまで関わるテーマです。企業研修に出て「ああ、いい勉強になった」から次のステップに進んでいただきたい。会社の文化を変えるのが、さらに進んだ段階です。今までは啓発のステージでしたが、多様性を企業文化として根付かせていきたいです。
木暮 日本社会の変革まで大局的な見方を獲得するには?
竹田 現場の視点が大事です。米国では外国人や人種的少数派としての立場も経験しました。大きな流れを見るには「共感力」が鍵になると思います。私が実施する、違いに共感するトレーニングでは、多様化する職場に新しい視点を生み出します。今後も共感力の重要性を訴えていきたいです。(おわり)
プロフィール
グローバルなビジネス環境で今まで以上に高品質なプロジェクトマネジメントを必要とされる全てのお客様のために、プロジェクトを推進し成功させるための環境づくりを総合的にサポートします。また、マネジメントのパートナーとして現場の視点と経営の視点を併せ持った課題の発見、およびその対策としての戦略策定をご提案します。
【サービスメニュー】
プロジェクトのマネジメント支援(PMO)
プロジェクトマネージャーのトレーニング
セミナー「グローバル・コネクター」の開催・運営
グローバル人材の育成
海外拠点の現地社員育成
インドニュースの配信・出版
ニュース配信サイトの運営
海外進出コンサルティング
Webサイト:ピーエムグローバル株式会社
「外国の方とのビジネスやコミュニケーションに悩まれたことはありませんか?
ギクシャクしたり、思ったほど相手との距離が縮まらなかったり。英語だけの問題ではないのでは?
『ガイバナ』では、英会話自体にフォーカスするのではなく、英語が苦手な方でも、一歩踏み出してコミュニケーションの場を明るくする、キラリと光るエッセンスをお届けします。エピソード後半に、覚えてほしいキラリフレーズをご紹介しています。
「ガイバナ」ポッドキャストはこちらから
ガイバナ@Line: @315pjfpo」
- 第77回 「みんなで決めたらやり遂げる」甲斐ラースさん
- 第76回 「ひとつずつクリアする」大渕愛子さん
- 第75回 「国内・海外の共通言語はコミュニケーション力」駒井愼二さん
- 第74回 「相手に合わせたロジックを」福田勝さん
- 第73回 「強みを生かす」亀井貴司さん
- 第72回 「現状に疑問を持つ」アミヤ・サディキさん
- 第71回 「任せたら自由にさせる」竹内新さん
- 第70回 「正しいあうんの呼吸を」村瀬俊朗さん
- 第69回 「ほかにない価値を」金城誠さん
- 第68回 「素早く対応する」柏田剛介さん
- 第67回 「ビジョンを伝える」中村勝裕さん
- 第66回 「歴史を学ぼう」磯部功治さん
- 第65回 「多少の自信と歯切れの良さと」島原智子さん
- 第64回 「情報を体系化する」鈴木隆太郎さん
- 第63回 「メッセージを明確に」岩本修さん
- 第62回 「上司もホウ・レン・ソウ」高橋裕幸さん
- 第61回 「自分を肯定する」前川裕奈さん
- 第60回 「状況を掘り下げて原因を探す」寺島周一さん
- 第59回 「信頼と共感の空気をつくる」蔭山幸司さん
- 第58回 「一緒に楽しむと続けられる」草木佳大さん
- 第57回 「7割の見込みを信じる」吉元大さん
- 第56回 「意見をありがたく聞く」室井麻希さん
- 第55回 「常に学び・成長できる環境に身を置く」門田進一郎さん
- 第54回 「目の前の人との関係を大事に」岡田昇さん
- 第53回 「意見を聞いてから主張を調整する」大橋譲さん
- 第52回 「頼れる存在に任せる」ケビン・クラフトさん
- 第51回 「要望の背景も話す」堀田卓哉さん
- 第50回 「素直に聞く度量を」山田剛さん
- 第49回 「奇妙な日本人を自覚する」村上淳也さん
- 第48回 「信頼にめりはりを」二階堂パサナさん
- 第47回 「俯瞰(ふかん)して眺める」エドワード・ヘイムスさん
- 第46回 「丁寧さが評価される」ブレケル・オスカルさん
- 第45回 「個と向き合う」吉野哲仁さん
- 第44回 「事実に焦点を当てる」中村敏也さん
- 第43回 「現場に顔を出す」深井芽里さん
- 第42回 「状況を楽しむ」飯沼ミチエさん
- 第41回 「人生を楽しむ“絶対的価値観”を」小川貴一郎さん
- 第40回 「少ない言葉でも伝わる」アレン・パーカーさん
- 第39回 「ポジティブは伝染する」川平慈英さん
- 第38回 「自分で考える人に」野田純さん
- 第37回 「常にフェアであれ」忍足謙朗さん
- 第36回 「相手の価値観を包み込む」神原咲子さん
- 第35回 「直接得る情報を大事に」ネルソン水嶋さん
- 第34回 「相手のルールを早く知る」杉窪章匡さん
- 第33回 「意見を受け入れて試してみる」鈴木皓矢さん /「ノーと言われてもあきらめない」林祥太郎さん
- 第32回 「技術を尖(とが)らせる」稲垣裕行さん
- 第31回 「自分でやってみる」佐々木英之さん/「やる気のエネルギーを信じる」白井良さん
- 第30回 「リフレッシュ方法を見つける」大野均さん
- 第29回 「英語はメールから始めよう」岡田陽二さん
- 第28回 「逃げずに向き合う」矢野浩一さん
- 第27回 「相手に合わせた伝え方を」松田励さん
- 第26回 「ゴールを共有する」多島洋如さん
- 第25回 「考え方は変えられる」小森谷朋子さん
- 第24回 「相手が話しやすいテーマで心をつかむ」増山健さん
- 第23回 「どうしたいかで生きればいい」佐藤みよ子さん
- 第22回 「伝わる話題を探す」石井陽介さん
- 第21回 「話をよく聞いて信頼してもらう」我謝京子さん
- 第20回 「ギブアンドテイクの視点で」北尾敬介さん
- 第19回 「組織はファミリー」中沢宏行さん
- 第18回 「1人のスーパーマンよりチームワーク」前澤正利さん
- 第17回 「多様なメンバーが強い組織を生む」竹田綾夏さん
- 第16回 「ビジョンを共有する」マックス市川さん
- 第15回 「同じ人間として対等に話す」浦川明典さん
- 第14回 「会話は敬語、メールは気配り」イムラン・スィディキさん
- 第13回 「思い込みを捨てる」羽田賀恵さん
- 第12回 「うじうじ考えてないでサッサやるだけよ」本多士郎さん
- 第11回 「批判だけでは前に進まない」チャンダー・メヘラさん
- 第10回 「実績を示せば耳を傾けてもらえる」朝野徹さん
- 第9回 「シナジーをいかに引き起こすか」髙谷晃さん
- 第8回 「交渉は役割分担と演出で」新谷誠さん
- 第7回 「相手のプライドを土足で汚さない」佐藤知一さん
- 第6回 「気持ちが入っていないと、いい仕事はできない」 森本容子さん
- 第5回 「知る、理解する、好きになる、の順で」原田幸之介さん
- 第4回 「人に会って信頼できるネットワークをつくる」齊藤整さん
- 第3回 「失敗はだれでもある、やり直せる」平野昌義さん
- 第2回 「『好き』が相手に伝われば何とかなる」林原誠さん
- 第1回 「アドレナリンが出ている時が大事」太田悠介さん