第8回
「交渉は役割分担と演出で」新谷誠さん
ピーエムグローバル株式会社 木暮 知之
グローバルプロジェクトに特化した企業であるピーエムグローバルの代表を務める木暮知之を聞き手に、国内外で活躍するプロフェッショナルに体験談や仕事を円滑に進める秘訣をうかがう連載コラム「グローバル・コネクター」。今回のゲストはファッション業界を中心にプロデューサーとして活躍し、現在はライフスタイル全般のブランディングなどを手掛けるコンサルティング会社を経営する新谷誠さんです。
木暮 おしゃれな装いですね。ずっと企画畑で活躍され、2005年の「愛・地球博」にも携わったとか。
新谷 親会社の伊藤忠商事が愛知万博ではモリゾーとキッコロのライセンス権を獲得しました。万博にはいろいろな会社から精鋭が集まってチームを組みます。ライセンス権の獲得のところから会期終了後の1年間まで密度の濃い3年間を過ごせました。実際に商業的に成功を収め、地元に還元できた事業になりました。
木暮 タイミングもよかったですね。
新谷 今だったら、様々なリスクを考えて難しいかもしれませんね。当時、ある意味で「エイヤー」で進めていました。苦労も多かったですが、当時の関係者とは今でも仲良く交流が続いています。
木暮 企業の裏方として働き、外国企業の人と1年も一緒にいると仲良くさせてもらえます。そういうのが楽しいですね。
新谷 海外での活動は、今年1月にイタリアのファッション展示会「ピッティ・ウオモ」に参加し、ニット製造業者で作る団体「東京ニットファッション工業組合」とニット・ジャージの国内産地である墨田区などを「TOKYO KNIT」として売り込んできました。参加したくても門前払いされることもあるようですが、懇意にしている日本ファッションウィーク推進機構を通して交渉した結果、主催関係者に信用してもらえたようで、良い場所のブースを確保できました。
木暮 人脈は大事ですね。海外で仕事をするようになったきっかけは何でしょうか。
新谷 入社当時はライセンス契約などで繊維メーカーとの折衝に同行していました。英語は達者ではないのですが、何かと頼られることが多かったです。
木暮 伊藤忠はファッションに強いというイメージがありますね。
新谷 実は繊維以外をやろうとしていました。写真のない旅行ガイドブック「アクセス」を当時の先輩がニューヨークで見つけ、一目惚れしました。監修者で情報デザイナーのリチャード・ワーマン氏に日本語版の共同制作をお願いする手紙を出し「東京版をぜひ一緒に作りたい」と先輩と口説きに行きました。
木暮 行動が速い。
新谷 こちらが「一緒にやりたい」と提案したのが良かったのでしょうね。東京版を作ることになりました。日本での制作では「コントリビューション(寄稿)」という手法で、国内の著名アーティストに協力を依頼し、グラフィック・デザインの大家である田中一光氏や横尾忠則氏からも作品を提供していただきました。
木暮 面白いコラボレーションですね。熱意が伝わったのでしょう。
新谷 発想力が評価されたのかもしれません。ガイドブックとしては異例の日米合計で5万部が売れました。
木暮 人は熱意があると動きますか。
新谷 それに、外国人がメンバーに入るとうまく回りますね。
木暮 外国人には相手を尊重して吸収したいという気持ちがあります。ファッションも世界が舞台ですよね。
新谷 ファッション業界はコネクションの世界でもあります。ピッティ・ウオモなどの欧米の著名なトレードショーはイメージを重要視し、日本や中国からエントリーしようにも、なかなか出展ブースはもらえません。今回は主催者とつながりの強い日本ファッションウィーク推進機構から話を持っていったのが功を奏したようです。
木暮 知人からの頼みを重視するのは万国共通かもしれませんね。「この人なら大丈夫だ」という関係を作るのが大事。
新谷 特に欧州はコネ社会です。周囲に聞いたりして、つながっている人を探すほうがすんなりいくものです。
木暮 口説きたい相手に会うときは何を考えて臨みますか。
新谷 ペアを組み、それぞれの役割を決めて挑みます。「いっちょ、かましたろか」というタイプの人間と一緒の場合、私は相手の素晴らしさをディテールから指摘する担当になります。「こんなところに気付いていますよ」とつつくわけです。
木暮 うまいなぁ。相手も嬉しいでしょうね。
新谷 押しも引きも必要ですから。
木暮 戦術家ですね。
新谷 「相手の真正面に座らない」ということにも気を付けます。上司に相談する時は隣に座るか、後ろから話し掛けるようにしていました。
木暮 真正面で向き合うと敵対的な感じがします。話をするときは立ち位置に気を付けたり、戦略を図ったりしているのですね。
新谷 このやり方は外国人にも通じます。新規開拓が得意な人とペアを組んで、あらかじめ設定した役割をこなしてもらったり、戦略やプランを練ったりするのは好きですね。交渉では相手に応じてこちらも「演じる」ことが必要になりますから。
木暮 相手の呼吸を見ながら、ということですね。
新谷 契約を進める際は、実現できる見込みの「八掛け」にするのも手。成果物は10割で出し、相手の期待を上回る出来にする。納期もそうです。2週間かかりそうなら「3週間は必要だ」と言う。逆だと怒られますけどね。
木暮 考え抜かれていますね。外国人との仕事で違和感はなかったですか。
新谷 違和感だらけですよ。米国で展示会のディスプレーの設計を手直ししようとしたら、設計変更のための請求見積もりがすぐ飛んできた。
木暮 契約社会だから。
新谷 事前に確認するのがとても大事です。米国だと寸法の単位が日本と違うからか大雑把に見えることもあります。日本で現物を再確認すると全く違う、ということもあります。契約書の文言では「売り上げ」の解釈が「ホールセール(卸売り)」なのか「リテール(小売り)」なのかの事前確認を怠り、後で苦労したこともあります。お金が絡む条項は、双方に誤解がないように徹底的に詰めないとだめですね。「超」が付く心配性になりました。
木暮 むしろ、それは良いことだと思います。外国人から見ると、日本人は細かく指示できないことが多い。それなのに、日本人は契約に記載されていないことも求めがちで、相手を誤解することがあるようです。
新谷 若い頃に作った見積もりは、いま思い出すと細部の詰めが甘いことも多く「ずいぶん大胆だったな」と感じます。
木暮 緻密な計算をしつつ、クリエイティブな視点も必要になるわけですね。画廊主のイメージだ。
新谷 昔、とある人に「右手に絵筆、左手にそろばんを」と言われました。アーティストと商売人の間の見方ができればビジネスになる、と。
木暮 外国人と交渉する際のアドバイスはありますか。
新谷 相手が何に反応を示すかをくみ取ったり、好きそうなことを指摘したりして認めてあげるのがよいのでは。事前に相手がどういう人なのかを知っておくことです。
木暮 それから?
新谷 あとはペアでやること。自分の不得手を補ってくれる人を一緒に連れていく。
木暮 コンビで挑むとは斬新。これは「アラヤ式」と呼びましょう。
新谷 アーティスト役とビジネスマン役に分けるといいのですが、事前の打ち合わせを間違えて、2人とも同じ役で交渉を進めてしまい、失敗したこともありましたね。(おわり)
プロフィール
グローバルなビジネス環境で今まで以上に高品質なプロジェクトマネジメントを必要とされる全てのお客様のために、プロジェクトを推進し成功させるための環境づくりを総合的にサポートします。また、マネジメントのパートナーとして現場の視点と経営の視点を併せ持った課題の発見、およびその対策としての戦略策定をご提案します。
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ニュース配信サイトの運営
海外進出コンサルティング
Webサイト:ピーエムグローバル株式会社
「外国の方とのビジネスやコミュニケーションに悩まれたことはありませんか?
ギクシャクしたり、思ったほど相手との距離が縮まらなかったり。英語だけの問題ではないのでは?
『ガイバナ』では、英会話自体にフォーカスするのではなく、英語が苦手な方でも、一歩踏み出してコミュニケーションの場を明るくする、キラリと光るエッセンスをお届けします。エピソード後半に、覚えてほしいキラリフレーズをご紹介しています。
「ガイバナ」ポッドキャストはこちらから
ガイバナ@Line: @315pjfpo」
- 第77回 「みんなで決めたらやり遂げる」甲斐ラースさん
- 第76回 「ひとつずつクリアする」大渕愛子さん
- 第75回 「国内・海外の共通言語はコミュニケーション力」駒井愼二さん
- 第74回 「相手に合わせたロジックを」福田勝さん
- 第73回 「強みを生かす」亀井貴司さん
- 第72回 「現状に疑問を持つ」アミヤ・サディキさん
- 第71回 「任せたら自由にさせる」竹内新さん
- 第70回 「正しいあうんの呼吸を」村瀬俊朗さん
- 第69回 「ほかにない価値を」金城誠さん
- 第68回 「素早く対応する」柏田剛介さん
- 第67回 「ビジョンを伝える」中村勝裕さん
- 第66回 「歴史を学ぼう」磯部功治さん
- 第65回 「多少の自信と歯切れの良さと」島原智子さん
- 第64回 「情報を体系化する」鈴木隆太郎さん
- 第63回 「メッセージを明確に」岩本修さん
- 第62回 「上司もホウ・レン・ソウ」高橋裕幸さん
- 第61回 「自分を肯定する」前川裕奈さん
- 第60回 「状況を掘り下げて原因を探す」寺島周一さん
- 第59回 「信頼と共感の空気をつくる」蔭山幸司さん
- 第58回 「一緒に楽しむと続けられる」草木佳大さん
- 第57回 「7割の見込みを信じる」吉元大さん
- 第56回 「意見をありがたく聞く」室井麻希さん
- 第55回 「常に学び・成長できる環境に身を置く」門田進一郎さん
- 第54回 「目の前の人との関係を大事に」岡田昇さん
- 第53回 「意見を聞いてから主張を調整する」大橋譲さん
- 第52回 「頼れる存在に任せる」ケビン・クラフトさん
- 第51回 「要望の背景も話す」堀田卓哉さん
- 第50回 「素直に聞く度量を」山田剛さん
- 第49回 「奇妙な日本人を自覚する」村上淳也さん
- 第48回 「信頼にめりはりを」二階堂パサナさん
- 第47回 「俯瞰(ふかん)して眺める」エドワード・ヘイムスさん
- 第46回 「丁寧さが評価される」ブレケル・オスカルさん
- 第45回 「個と向き合う」吉野哲仁さん
- 第44回 「事実に焦点を当てる」中村敏也さん
- 第43回 「現場に顔を出す」深井芽里さん
- 第42回 「状況を楽しむ」飯沼ミチエさん
- 第41回 「人生を楽しむ“絶対的価値観”を」小川貴一郎さん
- 第40回 「少ない言葉でも伝わる」アレン・パーカーさん
- 第39回 「ポジティブは伝染する」川平慈英さん
- 第38回 「自分で考える人に」野田純さん
- 第37回 「常にフェアであれ」忍足謙朗さん
- 第36回 「相手の価値観を包み込む」神原咲子さん
- 第35回 「直接得る情報を大事に」ネルソン水嶋さん
- 第34回 「相手のルールを早く知る」杉窪章匡さん
- 第33回 「意見を受け入れて試してみる」鈴木皓矢さん /「ノーと言われてもあきらめない」林祥太郎さん
- 第32回 「技術を尖(とが)らせる」稲垣裕行さん
- 第31回 「自分でやってみる」佐々木英之さん/「やる気のエネルギーを信じる」白井良さん
- 第30回 「リフレッシュ方法を見つける」大野均さん
- 第29回 「英語はメールから始めよう」岡田陽二さん
- 第28回 「逃げずに向き合う」矢野浩一さん
- 第27回 「相手に合わせた伝え方を」松田励さん
- 第26回 「ゴールを共有する」多島洋如さん
- 第25回 「考え方は変えられる」小森谷朋子さん
- 第24回 「相手が話しやすいテーマで心をつかむ」増山健さん
- 第23回 「どうしたいかで生きればいい」佐藤みよ子さん
- 第22回 「伝わる話題を探す」石井陽介さん
- 第21回 「話をよく聞いて信頼してもらう」我謝京子さん
- 第20回 「ギブアンドテイクの視点で」北尾敬介さん
- 第19回 「組織はファミリー」中沢宏行さん
- 第18回 「1人のスーパーマンよりチームワーク」前澤正利さん
- 第17回 「多様なメンバーが強い組織を生む」竹田綾夏さん
- 第16回 「ビジョンを共有する」マックス市川さん
- 第15回 「同じ人間として対等に話す」浦川明典さん
- 第14回 「会話は敬語、メールは気配り」イムラン・スィディキさん
- 第13回 「思い込みを捨てる」羽田賀恵さん
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- 第11回 「批判だけでは前に進まない」チャンダー・メヘラさん
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- 第8回 「交渉は役割分担と演出で」新谷誠さん
- 第7回 「相手のプライドを土足で汚さない」佐藤知一さん
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- 第5回 「知る、理解する、好きになる、の順で」原田幸之介さん
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- 第3回 「失敗はだれでもある、やり直せる」平野昌義さん
- 第2回 「『好き』が相手に伝われば何とかなる」林原誠さん
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