第57回
「7割の見込みを信じる」吉元大さん
ピーエムグローバル株式会社 木暮 知之
グローバルプロジェクトに特化した企業であるピーエムグローバルの代表を務める木暮知之を聞き手に、国内外で活躍するプロフェッショナルに体験談や仕事を円滑に進める秘訣をうかがう連載コラム「グローバル・コネクター」。今回のゲストは海外向けネット販売事業用のウェブサイト開発などを手掛けるベトナム系IT開発企業「AHTジャパン」で代表を務める吉元大さんです。
木暮 海外との関わりについて教えてください。
吉元 高校2年生の時に参加した「北米研修旅行」が初めての海外です。1学年の生徒300人が2週間滞在する行事です。
木暮 困ったことはありましたか。
吉元 現地では雑談も十分にできないまま終わったんですけど、帰国して2週間ほどたってから、実家がホストファミリーとして外国人を迎え入れることになりました。今度は逆に米国の生徒が日本に来ることに。ほぼ日本語が話せないまま来日する彼らに日本を紹介する中で英語を覚えていった気がします。日本で知り合った米国の生徒が再来日した際には、滞在先の丹波篠山と実家を行き来しました。自国に関する知識がお互いに乏しいことが分かり、それを聞き合いながら勉強したのが印象的です。彼が興味を持っている日本の武道について「型の動きはこれで間違いないか」と聞かれても私はお手上げ。それがきっかけで大学では空手を習い始めましたし、祖国を知る良いきっかけになったのだと思います。
木暮 交流を継続されていて素晴らしいですね。
吉元 当時は手紙やお菓子を送り合ったりしました。彼が送ってくれたというビーフジャーキーが空港で没収されたのは残念でした。その後は海外との交流はほとんどなく、入学当初から憧れていたIT業界への就職を目指していました。卒業する頃には「2000年問題」がひと段落した影響からか、運悪くエンジニアの新卒採用は狭き門になってしまい、営業担当者を探していたIT企業に就職しました。
木暮 営業職には抵抗感を覚える学生もいます。
吉元 IT業界でやりたい気持ちの方が強く「同じ業界だし職種が違うだけで、まあ大丈夫だろう」と思いました。いろんな物を作っているとか新しいこともやっているという社長の魅力にも引かれて入ったんです。
木暮 営業はどうでしたか。
吉元 教えてくれる人が社長のみ。新人の私に「頼んだぞ」の指示だけでした。振り返るとよく任せてもらえたなと思うぐらいです。営業をしていた社長の補佐のような立場で入社したんですが「ほかのエンジニアの面倒も含め、できるだけ全部やってくれ」と言われるようになりました。でも簡単にはできないですよね。
木暮 何とかしてくれるんじゃないかという期待があったのでは?
吉元 実際にやらせてもらいましたが会話もおぼつかず結構ひどかったんで、当初は迷われたんじゃないかと思います。そのうちに仕事も段々と取れるようになってきて、そこからは「あとはもうよろしく」という感じで、社長は営業に一切関わらなくなりました。会社は従業員が百人近くまで増えるなど大きくなりました。当時多かったのは業界で「SES(システムエンジニアリングサービス)」と呼ぶ、クライアントに技術者を派遣するサービスです。そのうち自社の開発やAI(人工知能)といった新しい技術を手掛け、金融機関向けのアプリケーションなどで評価されるようになりました。
木暮 オフショア開発の拠点をベトナムにしたのはなぜですか。
吉元 候補地として話を進めていたのは、現地で英会話学校の手伝いをしていたフィリピンのほか、今後の可能性や予算的に魅力的なミャンマーを含めた3カ国です。社長に提案したところ、日本語ができる人材が増えているベトナムに決まりました。
木暮 立ち上げはどうでした?
吉元 フィリピンでの経験があったので、想定していたよりは淡々と物事が進んじゃったんですよ。許認可の手続きも2カ月は遅れると聞いていましたが、間に入ったコンサル会社に催促してひと月で進みました。現地のエージェントの手続きに同行する際は先を読んで細かく質問することを意識しました。
木暮 先を見て質問することは大事です。以前からそういう聞き方を意識されているのですか。
吉元 企画好きなのが関係しているかもしれません。新しいことをやる際は、少し先を見て何ができるかなと考えながら準備していました。海外拠点を作るという使命を果たせば終わり、コンサル会社の指示通りに動いて終わり、というわけにはいきません。進出後の採用や運用を見据える必要があります。いろいろと気になることは必ず人に聞くことと、既にベトナムに進出している方と積極的に知り合いになってネットワークを作るようにしていました。
木暮 先読みして要所を押さえリスクを考える。プロジェクトマネジメントですね。
吉元 やり方としては良くも悪くも中途半端なのかもしれません。ひとつの事に深掘りしきれない。そうなると、その周辺の状況が気になり、そこを埋める。感覚的には8割ぐらいでいこうか、というようなことが多いですね。実際は7割ぐらいなんでしょうが、大体この辺りまで想定しておこうかな、というのは気を付けていますね。
木暮 大事な考え方です。100%を期待する人は案外多いのですが、その考え方だと足りない部分やできない理由が気になってストレスがたまる。初めから7、8割でいくというのは良い案分ですね。
吉元 100%の計画だと逆につまらないんじゃないかとも思います。計画を立てた人以外は全く面白くない。追加できそうなプラスアルファをしようにも「計画に無駄がなくてできません」と言われたりしますから。それもあって新しい仕事でもそうしています。新プロジェクトの引き合いがあれば「7割できる見込みならやろう」「7割あれば絶対できる」と言っています。エンジニアには乱暴な営業に見えるようですが。7割以外の不確定な部分はリスクとして見る。ベトナムのエンジニアは高度な技術があって勉強熱心です。これまでの成果を信じて積極的に仕事を取りにいくようにしています。実績を気にされるお客さまに対しては「大体このぐらいであればできます」と話して理解してもらいます。説明できる内容も全体の7割ですから、残りは誰かに埋めてもらう必要がありますけどね。
木暮 同じことをするだけではなく、学ぶ楽しさや自分が成長する喜びは大事な要素ですね。
動かざるを得ない環境を作る
木暮 放任しているようで楽しみも残しておくマネジメントスタイルですね。
吉元 以前は指示が細かかったと思います。若い営業部員が自分よりも細かくやってくれるのに気付いたときに「もうここは任せちゃえ」という感じにしました。そのスタイルの方が自分の本質だったのかもしれないです。
木暮 若い社員は言わないと動かないとも言われます。
吉元 私が言っても動かないことが分かっている場合は、動かざるを得ない空気を意図的に作るようにしていました。エンジニアの責任者やお客さまから言われたら、さすがに動かないといけない。そういう環境を作ってしまう方が早い場合もあります。ずるいやり方なのかもしれないですね。そのまま進めたら絶対に相手は怒るだろうなと思いつつも反対せず「じゃあ、やってみて」と。案の定、怒られるんですが。
木暮 その方が勉強になって成長するということですね。やらせるにも忍耐が必要で難しい道です。
吉元 いやいや、その方が楽なんです。自然に動いてくれるし、自分が怒らなくてすみますから。
木暮 成長を期待して待っていてくれたり、本人が動きやすくするための道を選んでくれる人は少ないと思いますよ。
吉元 怒られる前に指摘してほしかったと思う人もいると思います。一方で「怒られてしまったけれど、自由にさせてもらったからまあいいか」と理解してくれる人もいました。
木暮 その後に独立されますね。
吉元 ベトナムにIT拠点を作りたい日本企業をつなぐビジネスを模索する過程で、工業団地や大学の見学ツアーなどを副業としてやっていました。その中で知遇を得たベトナム人経営者から日本進出の構想を聞いた後、別件で訪ねた神奈川県庁で偶然、日本市場に参入するベトナム企業を探している話を持ち掛けられました。
木暮 縁ですね。
吉元 事業資金などもとんとん拍子で確保でき、そのベトナム企業の日本支社として事業を立ち上げることになりました。コロナ禍で越境EC(電子商取引)のニーズが高まっており、自分たちでシステムを持ちたい企業からの依頼が徐々に増えています。
木暮 システム開発には「要件定義」など当事者の共通理解が不可欠です。ベトナム人にとって日本企業とのコミュニケーションで難しい面はありますか。
吉元 重要なのは「ITコミュニケーター」(通訳)だと感じます。日本語能力というよりも業務分析能力があるかが大事です。エンジニアより好待遇にしたい優秀なITコミュニケーターはベトナムには多くいます。
木暮 今後の目標は?
吉元 会社の規模を拡大しながら、その売上を海外のネットワークを使った新サービスの立ち上げに活用したいと考えています。電動バイク販売がそのひとつです。普及を促進するためには太陽光発電やバイオマスといった電力供給の問題にも対応できるといいなと思っています。(おわり)
吉元大さんについては当社のFacebookでもご紹介しております。ぜひご覧ください。
プロフィール
グローバルなビジネス環境で今まで以上に高品質なプロジェクトマネジメントを必要とされる全てのお客様のために、プロジェクトを推進し成功させるための環境づくりを総合的にサポートします。また、マネジメントのパートナーとして現場の視点と経営の視点を併せ持った課題の発見、およびその対策としての戦略策定をご提案します。
【サービスメニュー】
プロジェクトのマネジメント支援(PMO)
プロジェクトマネージャーのトレーニング
セミナー「グローバル・コネクター」の開催・運営
グローバル人材の育成
海外拠点の現地社員育成
インドニュースの配信・出版
ニュース配信サイトの運営
海外進出コンサルティング
Webサイト:ピーエムグローバル株式会社
「外国の方とのビジネスやコミュニケーションに悩まれたことはありませんか?
ギクシャクしたり、思ったほど相手との距離が縮まらなかったり。英語だけの問題ではないのでは?
『ガイバナ』では、英会話自体にフォーカスするのではなく、英語が苦手な方でも、一歩踏み出してコミュニケーションの場を明るくする、キラリと光るエッセンスをお届けします。エピソード後半に、覚えてほしいキラリフレーズをご紹介しています。
「ガイバナ」ポッドキャストはこちらから
ガイバナ@Line: @315pjfpo」
- 第77回 「みんなで決めたらやり遂げる」甲斐ラースさん
- 第76回 「ひとつずつクリアする」大渕愛子さん
- 第75回 「国内・海外の共通言語はコミュニケーション力」駒井愼二さん
- 第74回 「相手に合わせたロジックを」福田勝さん
- 第73回 「強みを生かす」亀井貴司さん
- 第72回 「現状に疑問を持つ」アミヤ・サディキさん
- 第71回 「任せたら自由にさせる」竹内新さん
- 第70回 「正しいあうんの呼吸を」村瀬俊朗さん
- 第69回 「ほかにない価値を」金城誠さん
- 第68回 「素早く対応する」柏田剛介さん
- 第67回 「ビジョンを伝える」中村勝裕さん
- 第66回 「歴史を学ぼう」磯部功治さん
- 第65回 「多少の自信と歯切れの良さと」島原智子さん
- 第64回 「情報を体系化する」鈴木隆太郎さん
- 第63回 「メッセージを明確に」岩本修さん
- 第62回 「上司もホウ・レン・ソウ」高橋裕幸さん
- 第61回 「自分を肯定する」前川裕奈さん
- 第60回 「状況を掘り下げて原因を探す」寺島周一さん
- 第59回 「信頼と共感の空気をつくる」蔭山幸司さん
- 第58回 「一緒に楽しむと続けられる」草木佳大さん
- 第57回 「7割の見込みを信じる」吉元大さん
- 第56回 「意見をありがたく聞く」室井麻希さん
- 第55回 「常に学び・成長できる環境に身を置く」門田進一郎さん
- 第54回 「目の前の人との関係を大事に」岡田昇さん
- 第53回 「意見を聞いてから主張を調整する」大橋譲さん
- 第52回 「頼れる存在に任せる」ケビン・クラフトさん
- 第51回 「要望の背景も話す」堀田卓哉さん
- 第50回 「素直に聞く度量を」山田剛さん
- 第49回 「奇妙な日本人を自覚する」村上淳也さん
- 第48回 「信頼にめりはりを」二階堂パサナさん
- 第47回 「俯瞰(ふかん)して眺める」エドワード・ヘイムスさん
- 第46回 「丁寧さが評価される」ブレケル・オスカルさん
- 第45回 「個と向き合う」吉野哲仁さん
- 第44回 「事実に焦点を当てる」中村敏也さん
- 第43回 「現場に顔を出す」深井芽里さん
- 第42回 「状況を楽しむ」飯沼ミチエさん
- 第41回 「人生を楽しむ“絶対的価値観”を」小川貴一郎さん
- 第40回 「少ない言葉でも伝わる」アレン・パーカーさん
- 第39回 「ポジティブは伝染する」川平慈英さん
- 第38回 「自分で考える人に」野田純さん
- 第37回 「常にフェアであれ」忍足謙朗さん
- 第36回 「相手の価値観を包み込む」神原咲子さん
- 第35回 「直接得る情報を大事に」ネルソン水嶋さん
- 第34回 「相手のルールを早く知る」杉窪章匡さん
- 第33回 「意見を受け入れて試してみる」鈴木皓矢さん /「ノーと言われてもあきらめない」林祥太郎さん
- 第32回 「技術を尖(とが)らせる」稲垣裕行さん
- 第31回 「自分でやってみる」佐々木英之さん/「やる気のエネルギーを信じる」白井良さん
- 第30回 「リフレッシュ方法を見つける」大野均さん
- 第29回 「英語はメールから始めよう」岡田陽二さん
- 第28回 「逃げずに向き合う」矢野浩一さん
- 第27回 「相手に合わせた伝え方を」松田励さん
- 第26回 「ゴールを共有する」多島洋如さん
- 第25回 「考え方は変えられる」小森谷朋子さん
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- 第23回 「どうしたいかで生きればいい」佐藤みよ子さん
- 第22回 「伝わる話題を探す」石井陽介さん
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- 第19回 「組織はファミリー」中沢宏行さん
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