第55回
「常に学び・成長できる環境に身を置く」門田進一郎さん
ピーエムグローバル株式会社 木暮 知之
グローバルプロジェクトに特化した企業であるピーエムグローバルの代表を務める木暮知之を聞き手に、国内外で活躍するプロフェッショナルに体験談や仕事を円滑に進める秘訣をうかがう連載コラム「グローバル・コネクター」。今回のゲストはDX(デジタルトランスフォーメーション)やIoTなど情報通信技術を活用した経営戦略の立案、サービス・事業デザインをライフワークにしている門田進一郎さんです。
木暮 日本を代表する大企業と世界的なIT大手を退職していますね。
門田 非常識なことをやるのが好きなんです。どれだけ人と違う行動ができるか?を大事にしています。日本にいれば命を取られるような危険はほぼないわけです。だったらチャレンジしない方が後悔しか残らないと思うんです。自分の思想や価値観が変わるタイミングは気付きの目を持てば、身の回りにあふれていますし、尖(とが)った人に会うのは財産になると思っています。
木暮 海外との関わりについて教えてください。
門田 大学院に在学中に韓国へ留学したのが初めての海外経験です。韓国の大学との交換留学プログラムの取りまとめをされていた研究室の恩師から声が掛かりました。学内でバンカラな風采で目立っていたからでしょう。日本人の利用実績がゼロだった状況を改善するためだったそうで「指名された以上やらねば」と自分に使命感を与えて引き受けました。
木暮 その気持ちは大事ですよね。
門田 「運命に違いない」と自分に言い聞かせ、人生に意味づけするよう心掛けています。ただ、鹿児島で就職口を見つけて長年の遠距離恋愛から解放されたばかりだった今の妻はあきれていましたね(笑)。
木暮 そこまでして渡った韓国はどうでした?
門田 日韓関係が良いとは言えない時期でしたが、年配の方からは日本語で話しかけてもらえて温かみを感じました。現場は「話せば分かる」という状況ばかりで、嫌な思いもまったくしませんでした。九州男児ですので「弱い者いじめはしない」「女性には大切に接する」といった価値観が同じで肌に合ったのかもしれません。韓国人は見た目こそ日本人と似ていますが、マインドセットが違っていて驚いたこともありました。
木暮 例えば?
門田 「人に(過剰ぎみなコミュニケーションで)迷惑をかけるのは当たり前」という考え方です。これは「その負担は今後お返しします」という発想の裏返しで、相手を信頼し行動を約束することを示しているんです。
木暮 日本だと「絶対に迷惑はかけない」ですから、逆の発想ですね。
門田 私はあまり場の空気を読まず、ずけずけものを言うと思われることもありますが、それは相手と距離をすぐ埋め、そして「あなたのことを真剣に考えて行動を共にします」という信頼の裏返しなんです。
木暮 就職氷河期と言われた時期に帰国してNTTに入社。
門田 これまで九州から出たこともなかったので緊張して上京しました。配属されたのは「NTTコミュニケーションズ」という国際通信事業を受け持つ会社でした。一般公募で採用されたのですが、韓国に留学している私は採用時に「国際フラグ」が立っていたんだと思います。海外を経験している人もいましたし、同期に中国出身など外国人が多い会社でした。
木暮 英語は?
門田 会話術という意味では、入社してからよく勉強しました。当時は日本企業のアジア展開が盛んで、法人営業部で企業が進出する際のIT基盤や企業内外のネットワーク構築などの担当としてタイ、インドネシアなどへ行きました。グローバル事業の継続計画の立案やセキュリティに関するコンサルみたいなこともしていました。国によってデータの管理方法が異なっている中で、情報漏洩を防ぐかを考えたりと問題は多様です。
木暮 刺激的でしたか。
門田 そうですね。一番大事だと思うのは、人に対して大きな関心・興味を持っていることでしょうか。日本で働いているときも海外に行ってもそうですし。対応力の高さや臨機応変な部分は自分の強みのひとつだと思います。ダーウィンの進化論と一緒で、変化に対応しているものが生き残る。その後は15年もお世話になっていますし、NTTという巨大な組織で学べたのは運が良かったですね。
世界IT大手で学んだこと
木暮 アマゾンに転職したきっかけは?
門田 40歳を迎えるころ、市場での自分の価値を知りたくなりました。外資専門の転職エージェントにキャリアを査定してもらったところ「面白い経歴ですね。難関ですが、アマゾンの求人に応募してみましょう」と勧められて。同社は会社の理念や情熱を共有できる人材を探して何度も面接を繰り返し、採用に関しては決して妥協しないことで有名です。
木暮 入ってみてどうでした?
門田 NTTで15年働いていた自分にとっては「真逆」の会社でした。それまでは失敗が許されない「ガラスの階段」を歩いていた。ところがアマゾンは「失敗しろ」の文化。失敗しないと新しいことなど生まれない、最初から成功すると分かっているのは革新やチャレンジではない、という発想でした。
木暮 戸惑いは?
門田 覚えることは多かったのですが、知識を吸収する能力や柔軟性という強みが生きました。入社から3カ月ほどで要領を得たのは、自分だけでなく周りの想定も超えていたと思います。そこで6年近く学んだのは自分の強みのひとつです。
木暮 アマゾンのクラウドサービス部門に。
門田 今もアマゾンの中で稼ぎ頭と言われていますし、成長スピードがすごくて、当時は一番伸びている時期です。NTTで経験した幅広い基礎技術・IT知識があったのはラッキーでした。
木暮 チャレンジするとか失敗してもいい、という自身のベースができたという感じなんですね。
門田 外向きのパッションだとか、発想力や話術のベースを作る期間になっていますね。NTTでは良い経験をさせてもらっていますが、仕事の領域や関わる仲間の多様さ、としては狭かったのかもしれないですね。そのアマゾンで築いた全国の中小企業やスタートアップ経営者との関係は、独立した今でも続いています。
木暮 適応力や応援する力があり、時代にフィットしたのですね。
門田 ITを選んだのは本当にラッキーでした。学生の頃は「インターネットの時代が来る」と思ってNTTで働きながら、多くを学ぶことができる場所として応募しただけですし。
木暮 就職活動ではシステムエンジニア職を避けて銀行に入ったのですが、10年後に転職して選んだのがIT業界。当時の選択にまったく後悔はないですし、今ならできることもあって、ありがたさも感じています。
門田 ご縁みたいなものをつなぐ力や、自分が幸運だと思えるかどうかも能力ですね。
木暮 そのアマゾンも辞めて独立。
門田 コロナ禍になったのもありましたけれど、アマゾンという看板ではなく、自分の能力で変えられる力がそろそろ付いたんじゃないかと。NTTにはインターネットという世界の最新動向を体感しながら、お金ももらえるという発想で学び、クラウドという技術が標準になると考え、さらに外資系の意思決定環境を働きながら学べる、という発想でした。今度は経営者の勉強をしたくなったんです。それには独立するのが一番ですからね。ITの知識やビジネスをデザインする能力を生かして支援できるし、一緒にビジネスを作り上げられる。自分がビジネスオーナーとしてサービスを作るし、コミットも出資もするわけですから、実力の発揮し甲斐がありますよね。
木暮 顧問や役員として参画されている企業の名刺を10種類もお持ちで驚きました。顧客から信頼されている証しですね。
門田 利己ではなく「利他」の精神というか、相手にどうやって良くなってもらおうかと考えます。相手を知らなければ良いことを返せないですね。
木暮 昔からですか。
門田 小学校から大学卒業まで応援団長をやっていました。人を応援するのが好きなんです。その経験からNTTのラグビー部でも応援団長に抜擢されました。まさかの社会人になっても(笑)
木暮 僕も新人のころ、社内運動会を応援団長として盛り上げたら役員から声を掛けられ、翌年にロンドンへ赴任することになったことがあります。人を応援すると良いことがあるんですね。手掛けておられるDX推進も「社会の応援」では?
門田 その通りですね。くすぶっている人やまだチャレンジできていない人たちの背中を少しでも押せたらいいなと思っているんです。そのためには「押す側」に元気がないと。覇気のない応援団なんていませんから。
木暮 そうそう。人に興味を持って応援する姿勢は変わらない。
門田 国内も海外も関係なく、相手を人間として見て抽象化していく。そういう発想で仕事も見ています。業態が異なる仕事でも抽象度を上げたり、解像度を戻したりを繰り返すと課題は似通ってくるんです。
木暮 ああ、分かります。プロジェクトに違いはあっても、解像度を上げると「あれ?これ似ているかも」と気付くことがあります。
門田 人間として見ると国籍は「属性のタグ付け」でしかない。シンガポール人も九州の人も似たようなことで悩んでいるかもしれない。
木暮 そうですね。
門田 部下から「門田さんは動物も人間と同じぐらい好きなのでは」と言われたことがありました。普段から男女の分け隔てなく話を聞いていましたから、男性も女性も好きだと思われていたぐらいで。確かに人間が好きだから否定しません。そもそも分ける必要があるのか、という発想になるわけですよ。もちろん、虫も動物も嫌いじゃないですよ。
木暮 今後したいことは?
門田 学び続けるのが好きなんです。これまでも学びの環境に自分を置いてきました。今のところは学ぶことだらけですね。人を応援し続けるのも好きですし、勇気づけられる人は地方などにはたくさんいると思います。希望としてはこれからも命ある限り、自分の持っている能力は誰かを助けるために使いたいですね。(おわり)
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