第18回
「1人のスーパーマンよりチームワーク」前澤正利さん
ピーエムグローバル株式会社 木暮 知之
グローバルプロジェクトに特化した企業であるピーエムグローバルの代表を務める木暮知之を聞き手に、国内外で活躍するプロフェッショナルに体験談や仕事を円滑に進める秘訣をうかがう連載コラム「グローバル・コネクター」。今回のゲストは、水道、下水道、電線共同溝、一般土木、ガスなどの都市ライフラインの工事のほか、ベトナム人技能労働者の育成を手掛けるリアル建設の前澤正利さんです。
木暮 建設業界ひとすじ。
前澤 学校を卒業後にこの世界に足を踏み入れました。当時は多様なバックグラウンドの方が職人として働き、笑顔が絶えない業界だったのですが、徐々に金融の方にシフトして景気が下火になると単価も下がり「3K(きつい・汚い・危険)」という若者が敬遠する産業になってしまいました。市場は縮小し、従事する人たちも高齢化しました。
木暮 30歳を前に独立。
前澤 ロボットで代替えできる部分はあるものの、大部分が人の手が必要な中で、28歳で一念発起して独立し、下請けとして6人でスタートしました。
木暮 ベトナム人を受け入れ。
前澤 国内では若手が入ってくるのが厳しい状況で、先行きに対する不安もあり、アジアに目を向けました。7年ほど前にベトナムを訪問したところ、まじめな国民性に感銘を受けました。この人たちとならやっていけると思い、実習生として迎え入れようと決めました。
木暮 実習生は増えている?
前澤 社内には150人ほどの日本の職人さんがいます。ベトナム出身は50人弱です。さらにベトナムの人をどう増やすかが課題でした。現場で仕事をしようにも運転免許がない。一方、車の運転ができる日本の若手は物流担当になり、技能の実力がつかない。
木暮 ジレンマ。
前澤 ベトナム人1期生は日本で研修してから現場に出てもらったのですが、どうしても時間がかかるため、ベトナムで研修センターを作りました。その結果、日本に来てもすぐに仕事ができました。その時に日本の運転免許試験の学科も現地でテキストに加えeラーニングすることにしました。時間短縮です。
木暮 売りにしている「建設プラットフォーム」とは?
前澤 作業現場のニーズとスキルを持つ業者をマッチングする仕組みです。国内志向の産業のため、当社の場合は東京を中心とした関東圏で展開していますが、関西以西は採算が合わないため参入できていません。従事者の高齢化は業界全体の課題だと考え、将来を見据えて準備しています。市場にはリフォームや建築関連の元請け・下請けや、施工会社と職人さんをつなぎ、機会損失を減らすことを重視した仕組みもありますが、土木と建築の両方に対応できるプラットフォームづくりを目指しています。サードパーティの会社として、専門商社とも提携して「見積もり支援」というサービスも展開し、安く材料を仕入れる環境も整えています。プラットフォームの運営もしつつ、eラーニングを駆使した技能実習生の資格取得支援も手掛けます。地方は労働人口が減るとみられている中、免許を持つベトナム人が建設業だけでなく農業にも参加できる仕組みを作って活躍してもらいたいです。人手不足の農業と建設業が全国規模で仲間を増やし、持続的に取り組めるように準備中です。
木暮 アイデアが結び付き、職人とアジア、農業までつながる。チームワークの重要性は普段から強調されている?
前澤 創業メンバーには「マイスター」の資格も持つ専門家もいました。認定資格は全員が取れるわけではありません。建設業は1人でも有資格者がいればいいのですが、それすら難しいことを前提に考えなければなりません。また、海外の方とも一緒にやっていくため、スーパーマンよりはチームワークでやれることが必要。
木暮 同感です。
前澤 都の認定を受けた国内初の土木の職業訓練校を3月に立ち上げました。生徒の中には積極的に重機に触れたがる子もいれば、体を動かすのが好きだったり、次の準備を黙々とやりたい子もいる。研修期間中は生徒の個性の把握に努めます。スーパーマンがいたところで、そのレベルについていけない生徒が現場に出てもうまくいかないので、相性を見極めて既存メンバーと編成しバランスの良い施工チームを作ります。現場での仕事もスムーズにいきますし、離職率も低くなります。
木暮 日本の教育は暗記が中心ですが、海外はほとんど意見論述。考えを聞くと個性がよく分かります。
前澤 アジアの方々と一緒にやっていくにはそれが一番大事です。
木暮 ベトナムを選んだのは?
前澤 日本に好印象を持ってくれる人を増やしたいという思いもありました。もともとダイビングが趣味で、フィリピンやミクロネシアなどへ行っており、のんびりしたアジアの雰囲気が好きでした。提携先を探していた際、ベトナム人の仕事ぶりに感銘を受けた銀行出身の義父が助言してくれたことも後押しになりました。ベトナムの方は日本人を尊敬してくれる人が多くてやりやすさを感じます。そうした姿勢に接すると、普段から襟を正さなければいけないと思います。
木暮 語学力が高く勤勉なベトナム人はIT業界では定評があります。職人気質で気難しい人もいる「ガテン系」の業界に溶け込めましたか。
前澤 問題なしです。やんちゃなイメージを持たれていた昔と違い、最近の土木現場はおとなしくなりました。ベトナム人は真面目なので現場に溶け込んでおり、日本人とのけんかもありません。
木暮 作業の進め方で現場の日本人との意識のずれは?
前澤 設計図がある建設の世界には進めるべき順序があり、プロセスが決まっているため混乱することはありません。信頼できるので、現場のメンバーが全員ベトナム人でもいいくらいです。
木暮 課題も。
前澤 語学力です。今や7期生を数え、実習生が増えたことで「ベトナム村」のようになっており、日本語力の低下が心配です。週末を利用して補習を組むことも検討しています。
木暮 教育も売り。
前澤 大手建設会社の下で、年配の現場監督が陣頭指揮を執っている状況に不安を感じました。国内の職人数は330万人ほどで、10年後には高齢化により100万人が離職するといわれています。今後は建築系の職人も育て、全国の現場で力になり本当の(リアルな)姿の建設業界にしたいです。
木暮 既存の枠組みにとらわれない発想。
前澤 同じことをやっていても飽きてしまいます。新しいことを始めるのは緊張しますが、マンネリが一番危ないですから。(おわり)
プロフィール
グローバルなビジネス環境で今まで以上に高品質なプロジェクトマネジメントを必要とされる全てのお客様のために、プロジェクトを推進し成功させるための環境づくりを総合的にサポートします。また、マネジメントのパートナーとして現場の視点と経営の視点を併せ持った課題の発見、およびその対策としての戦略策定をご提案します。
【サービスメニュー】
プロジェクトのマネジメント支援(PMO)
プロジェクトマネージャーのトレーニング
セミナー「グローバル・コネクター」の開催・運営
グローバル人材の育成
海外拠点の現地社員育成
インドニュースの配信・出版
ニュース配信サイトの運営
海外進出コンサルティング
Webサイト:ピーエムグローバル株式会社
「外国の方とのビジネスやコミュニケーションに悩まれたことはありませんか?
ギクシャクしたり、思ったほど相手との距離が縮まらなかったり。英語だけの問題ではないのでは?
『ガイバナ』では、英会話自体にフォーカスするのではなく、英語が苦手な方でも、一歩踏み出してコミュニケーションの場を明るくする、キラリと光るエッセンスをお届けします。エピソード後半に、覚えてほしいキラリフレーズをご紹介しています。
「ガイバナ」ポッドキャストはこちらから
ガイバナ@Line: @315pjfpo」
- 第77回 「みんなで決めたらやり遂げる」甲斐ラースさん
- 第76回 「ひとつずつクリアする」大渕愛子さん
- 第75回 「国内・海外の共通言語はコミュニケーション力」駒井愼二さん
- 第74回 「相手に合わせたロジックを」福田勝さん
- 第73回 「強みを生かす」亀井貴司さん
- 第72回 「現状に疑問を持つ」アミヤ・サディキさん
- 第71回 「任せたら自由にさせる」竹内新さん
- 第70回 「正しいあうんの呼吸を」村瀬俊朗さん
- 第69回 「ほかにない価値を」金城誠さん
- 第68回 「素早く対応する」柏田剛介さん
- 第67回 「ビジョンを伝える」中村勝裕さん
- 第66回 「歴史を学ぼう」磯部功治さん
- 第65回 「多少の自信と歯切れの良さと」島原智子さん
- 第64回 「情報を体系化する」鈴木隆太郎さん
- 第63回 「メッセージを明確に」岩本修さん
- 第62回 「上司もホウ・レン・ソウ」高橋裕幸さん
- 第61回 「自分を肯定する」前川裕奈さん
- 第60回 「状況を掘り下げて原因を探す」寺島周一さん
- 第59回 「信頼と共感の空気をつくる」蔭山幸司さん
- 第58回 「一緒に楽しむと続けられる」草木佳大さん
- 第57回 「7割の見込みを信じる」吉元大さん
- 第56回 「意見をありがたく聞く」室井麻希さん
- 第55回 「常に学び・成長できる環境に身を置く」門田進一郎さん
- 第54回 「目の前の人との関係を大事に」岡田昇さん
- 第53回 「意見を聞いてから主張を調整する」大橋譲さん
- 第52回 「頼れる存在に任せる」ケビン・クラフトさん
- 第51回 「要望の背景も話す」堀田卓哉さん
- 第50回 「素直に聞く度量を」山田剛さん
- 第49回 「奇妙な日本人を自覚する」村上淳也さん
- 第48回 「信頼にめりはりを」二階堂パサナさん
- 第47回 「俯瞰(ふかん)して眺める」エドワード・ヘイムスさん
- 第46回 「丁寧さが評価される」ブレケル・オスカルさん
- 第45回 「個と向き合う」吉野哲仁さん
- 第44回 「事実に焦点を当てる」中村敏也さん
- 第43回 「現場に顔を出す」深井芽里さん
- 第42回 「状況を楽しむ」飯沼ミチエさん
- 第41回 「人生を楽しむ“絶対的価値観”を」小川貴一郎さん
- 第40回 「少ない言葉でも伝わる」アレン・パーカーさん
- 第39回 「ポジティブは伝染する」川平慈英さん
- 第38回 「自分で考える人に」野田純さん
- 第37回 「常にフェアであれ」忍足謙朗さん
- 第36回 「相手の価値観を包み込む」神原咲子さん
- 第35回 「直接得る情報を大事に」ネルソン水嶋さん
- 第34回 「相手のルールを早く知る」杉窪章匡さん
- 第33回 「意見を受け入れて試してみる」鈴木皓矢さん /「ノーと言われてもあきらめない」林祥太郎さん
- 第32回 「技術を尖(とが)らせる」稲垣裕行さん
- 第31回 「自分でやってみる」佐々木英之さん/「やる気のエネルギーを信じる」白井良さん
- 第30回 「リフレッシュ方法を見つける」大野均さん
- 第29回 「英語はメールから始めよう」岡田陽二さん
- 第28回 「逃げずに向き合う」矢野浩一さん
- 第27回 「相手に合わせた伝え方を」松田励さん
- 第26回 「ゴールを共有する」多島洋如さん
- 第25回 「考え方は変えられる」小森谷朋子さん
- 第24回 「相手が話しやすいテーマで心をつかむ」増山健さん
- 第23回 「どうしたいかで生きればいい」佐藤みよ子さん
- 第22回 「伝わる話題を探す」石井陽介さん
- 第21回 「話をよく聞いて信頼してもらう」我謝京子さん
- 第20回 「ギブアンドテイクの視点で」北尾敬介さん
- 第19回 「組織はファミリー」中沢宏行さん
- 第18回 「1人のスーパーマンよりチームワーク」前澤正利さん
- 第17回 「多様なメンバーが強い組織を生む」竹田綾夏さん
- 第16回 「ビジョンを共有する」マックス市川さん
- 第15回 「同じ人間として対等に話す」浦川明典さん
- 第14回 「会話は敬語、メールは気配り」イムラン・スィディキさん
- 第13回 「思い込みを捨てる」羽田賀恵さん
- 第12回 「うじうじ考えてないでサッサやるだけよ」本多士郎さん
- 第11回 「批判だけでは前に進まない」チャンダー・メヘラさん
- 第10回 「実績を示せば耳を傾けてもらえる」朝野徹さん
- 第9回 「シナジーをいかに引き起こすか」髙谷晃さん
- 第8回 「交渉は役割分担と演出で」新谷誠さん
- 第7回 「相手のプライドを土足で汚さない」佐藤知一さん
- 第6回 「気持ちが入っていないと、いい仕事はできない」 森本容子さん
- 第5回 「知る、理解する、好きになる、の順で」原田幸之介さん
- 第4回 「人に会って信頼できるネットワークをつくる」齊藤整さん
- 第3回 「失敗はだれでもある、やり直せる」平野昌義さん
- 第2回 「『好き』が相手に伝われば何とかなる」林原誠さん
- 第1回 「アドレナリンが出ている時が大事」太田悠介さん