第33回
「意見を受け入れて試してみる」鈴木皓矢さん /「ノーと言われてもあきらめない」林祥太郎さん
ピーエムグローバル株式会社 木暮 知之
グローバルプロジェクトに特化した企業であるピーエムグローバルの代表を務める木暮知之を聞き手に、国内外で活躍するプロフェッショナルに体験談や仕事を円滑に進める秘訣をうかがう連載コラム「グローバル・コネクター」。今回のゲストは、大学卒業後に留学したスペイン・バルセロナで研さんを積み、帰国後はそれぞれプロ演奏家として活躍。現在はチェロとクラシックギターの音楽ユニット「Duo Chispa(デュオ・チスパ)」として活動する鈴木皓矢さん(チェロ)と林祥太郎さん(ギター)です。
木暮 アーティストになろうと海外に渡ったきっかけは?
林 経済学部へ進学したのですが、ギタリストになる夢が捨てきれませんでした。大学を卒業したもののあきらめきれず、出場した国内のコンクールで評価され決心がつきました。クラシックギターの本場であるスペイン・バルセロナへの留学を両親に打ち明け、背中を押されました。
木暮 それまで海外経験は?
林 大学時代にスペインの音楽祭に行ったのが初めて。機内では「生きて帰れるだろうか」と不安でたまらず、気分が悪くなるほど緊張しました。「行きたくない」という感情が7割を占めていましたが、残り3割の「行きたい」という気持ちを信じて。それまで殻に閉じこもっていた自分を打ち破るきっかけになりました。スペインに行って今があります。
鈴木 私は両親が音楽家で、海外もなんとなく見据えていました。留学先を検討する中で、スペインのチェロ奏者、ルイス・クラレットと出会い「この人についていけば成長できる」と確信しました。
木暮 別々の楽器が奏でる世界に圧倒されます。
鈴木 クラシック音楽の枠を超えて何か面白いことをしたい、と思っていました。チェロと違って旋律もメロディーも単独でできるギターに注目していたところ、日本からスペインにギター留学していた林を知人から紹介されました。
林 チェロはギターの3~4倍の大きさの音が出るなど音量が圧倒的に違い、組み合わせるのは世界的にも珍しいのですが、現代のテクノロジーを使えば違いが埋められると思いました。そういう組み合わせから、今後はもっと面白い音楽が生まれる、というのが結成のコンセプトです。
木暮 奥が深い。
林 二人が引き立つように演奏を工夫するとか、もがいていると新しいアイデアが生まれます。挑戦するのは大変ですが、何かが生まれるきっかけになる。面白味や「わくわく感」があるんです。
鈴木 「達成できたらすごいよね」という期待です。
木暮 プロジェクトマネジメントの世界も、融合しづらい組み合わせをどうつなぐかで必死です。日本のように「以心伝心」や「相手を察する」という考え方はなさそうですね。
林 ないわけでありませんが、違うと思うことは伝えます。「この曲は嫌い」や「その表現は違うと思う」ときっぱり言う。相手に合わせてしまっているのかもしれないのですが、「同じ人間なんだ」と感じます。こういう表現をすれば向こうは「こうしたいんだな」と感じとる。音楽が共通言語です。
鈴木 音楽の場合は演奏力も大事。留学当時、リハーサルが始まっても練習してこないピアニストに直接抗議して衝突したこともありました。一方、共演するのが楽しいと思えるようなピアノ奏者もスペインにいました。
林 人それぞれなのに、まとめて「ラベリング」しがちです。実際はそうじゃない。
木暮 海外出張した際「日本人は絶対に時間を守る」と紹介された現場に遅刻したことがありました。人によって違いますよね。音楽は主張し合うものですか。
林 もちろん主張もしますが、相手の言うことも尊重します。アイデアに対して自分がどうできるかを考えます。
鈴木 同じような音楽性を持つ人と演奏したい、という希望はあります。レッスン中に門下生が自分の先生に「僕はそう思わない」と反論する光景をよく目にしました。指導者から言われたことを日本人が受け入れるのは「強み」です。経験が豊富な先生の指摘を自分で消化し、違うなと思ったら別の方法を試せば良い。その場で言い返すのは生産的じゃない。「1回やってみればいいのに」と思います。
木暮 日本人はおとなしすぎる?
林 長所でもあると思うのですが、相手の反応を気にしてしまう。スペインに渡ったら自分を抑えていた「リミッター」が外れました。環境がそうさせるのだと感じます。
木暮 英語では強い口調で話したり、日本語では口にしづらいことも言えます。
鈴木 英語の場合は「頑張って話そう」と前に出る感じ。スペインだと背もたれに寄りかかりながらトークするイメージ。
木暮 海外生活で気を付けていることは?
林 相手の懐に入っていくことですかね。「ノー」と言われても引かずに食らいついたら「イエス」に変わることがありました。
鈴木 欧州にいるとそういう場面は多い。一見すると近寄りがたそうでも、話してみると良い人だと分かることがある。表面上はウェルカムな感じで応対する日本と違って、欧州は「お前は誰だ」から始まる。
林 来るものは拒まないけれど、来ない限り何もない世界。
木暮 入り込むには?
林 何回も足を運んで顔を見せることでしょうか。そのうちに相手も「また来たね」と。実現させたい要求があるから何回も行く。熱心に訴え続けたら友達になれます。言葉が分からない時期は、積極的に相づちを打つようにすると仲良くなりやすかった。言葉が出ない時には笑顔で「Si(はい)、Si(はい)」と言っていました。
鈴木 何か実力を示すのもひとつ。相手の目を見て話すのも大前提です。3つくらい例文や話したい内容を事前に調べておき、自分から話しかけて言葉に慣れていく。その繰り返しです。
林 「スペイン語でなんて言うの?」もおすすめ。本当は答えを知っているんですが、「なるほど」と返す。外国で日本語のフレーズを教えるのも距離を縮めるコツです。
鈴木 現地語での言い方を尋ねる作戦はよく使っていました。
木暮 楽しかった雰囲気が伝わってきます。今後は世界での演奏も?
林 コロナ禍でまだ実現していませんが、スペイン人アーティストとのコンサートも企画していました。スペインでも活動を増やしながら、他の国でも演奏したいですね。(おわり)
プロフィール
グローバルなビジネス環境で今まで以上に高品質なプロジェクトマネジメントを必要とされる全てのお客様のために、プロジェクトを推進し成功させるための環境づくりを総合的にサポートします。また、マネジメントのパートナーとして現場の視点と経営の視点を併せ持った課題の発見、およびその対策としての戦略策定をご提案します。
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Webサイト:ピーエムグローバル株式会社
「外国の方とのビジネスやコミュニケーションに悩まれたことはありませんか?
ギクシャクしたり、思ったほど相手との距離が縮まらなかったり。英語だけの問題ではないのでは?
『ガイバナ』では、英会話自体にフォーカスするのではなく、英語が苦手な方でも、一歩踏み出してコミュニケーションの場を明るくする、キラリと光るエッセンスをお届けします。エピソード後半に、覚えてほしいキラリフレーズをご紹介しています。
「ガイバナ」ポッドキャストはこちらから
ガイバナ@Line: @315pjfpo」
- 第77回 「みんなで決めたらやり遂げる」甲斐ラースさん
- 第76回 「ひとつずつクリアする」大渕愛子さん
- 第75回 「国内・海外の共通言語はコミュニケーション力」駒井愼二さん
- 第74回 「相手に合わせたロジックを」福田勝さん
- 第73回 「強みを生かす」亀井貴司さん
- 第72回 「現状に疑問を持つ」アミヤ・サディキさん
- 第71回 「任せたら自由にさせる」竹内新さん
- 第70回 「正しいあうんの呼吸を」村瀬俊朗さん
- 第69回 「ほかにない価値を」金城誠さん
- 第68回 「素早く対応する」柏田剛介さん
- 第67回 「ビジョンを伝える」中村勝裕さん
- 第66回 「歴史を学ぼう」磯部功治さん
- 第65回 「多少の自信と歯切れの良さと」島原智子さん
- 第64回 「情報を体系化する」鈴木隆太郎さん
- 第63回 「メッセージを明確に」岩本修さん
- 第62回 「上司もホウ・レン・ソウ」高橋裕幸さん
- 第61回 「自分を肯定する」前川裕奈さん
- 第60回 「状況を掘り下げて原因を探す」寺島周一さん
- 第59回 「信頼と共感の空気をつくる」蔭山幸司さん
- 第58回 「一緒に楽しむと続けられる」草木佳大さん
- 第57回 「7割の見込みを信じる」吉元大さん
- 第56回 「意見をありがたく聞く」室井麻希さん
- 第55回 「常に学び・成長できる環境に身を置く」門田進一郎さん
- 第54回 「目の前の人との関係を大事に」岡田昇さん
- 第53回 「意見を聞いてから主張を調整する」大橋譲さん
- 第52回 「頼れる存在に任せる」ケビン・クラフトさん
- 第51回 「要望の背景も話す」堀田卓哉さん
- 第50回 「素直に聞く度量を」山田剛さん
- 第49回 「奇妙な日本人を自覚する」村上淳也さん
- 第48回 「信頼にめりはりを」二階堂パサナさん
- 第47回 「俯瞰(ふかん)して眺める」エドワード・ヘイムスさん
- 第46回 「丁寧さが評価される」ブレケル・オスカルさん
- 第45回 「個と向き合う」吉野哲仁さん
- 第44回 「事実に焦点を当てる」中村敏也さん
- 第43回 「現場に顔を出す」深井芽里さん
- 第42回 「状況を楽しむ」飯沼ミチエさん
- 第41回 「人生を楽しむ“絶対的価値観”を」小川貴一郎さん
- 第40回 「少ない言葉でも伝わる」アレン・パーカーさん
- 第39回 「ポジティブは伝染する」川平慈英さん
- 第38回 「自分で考える人に」野田純さん
- 第37回 「常にフェアであれ」忍足謙朗さん
- 第36回 「相手の価値観を包み込む」神原咲子さん
- 第35回 「直接得る情報を大事に」ネルソン水嶋さん
- 第34回 「相手のルールを早く知る」杉窪章匡さん
- 第33回 「意見を受け入れて試してみる」鈴木皓矢さん /「ノーと言われてもあきらめない」林祥太郎さん
- 第32回 「技術を尖(とが)らせる」稲垣裕行さん
- 第31回 「自分でやってみる」佐々木英之さん/「やる気のエネルギーを信じる」白井良さん
- 第30回 「リフレッシュ方法を見つける」大野均さん
- 第29回 「英語はメールから始めよう」岡田陽二さん
- 第28回 「逃げずに向き合う」矢野浩一さん
- 第27回 「相手に合わせた伝え方を」松田励さん
- 第26回 「ゴールを共有する」多島洋如さん
- 第25回 「考え方は変えられる」小森谷朋子さん
- 第24回 「相手が話しやすいテーマで心をつかむ」増山健さん
- 第23回 「どうしたいかで生きればいい」佐藤みよ子さん
- 第22回 「伝わる話題を探す」石井陽介さん
- 第21回 「話をよく聞いて信頼してもらう」我謝京子さん
- 第20回 「ギブアンドテイクの視点で」北尾敬介さん
- 第19回 「組織はファミリー」中沢宏行さん
- 第18回 「1人のスーパーマンよりチームワーク」前澤正利さん
- 第17回 「多様なメンバーが強い組織を生む」竹田綾夏さん
- 第16回 「ビジョンを共有する」マックス市川さん
- 第15回 「同じ人間として対等に話す」浦川明典さん
- 第14回 「会話は敬語、メールは気配り」イムラン・スィディキさん
- 第13回 「思い込みを捨てる」羽田賀恵さん
- 第12回 「うじうじ考えてないでサッサやるだけよ」本多士郎さん
- 第11回 「批判だけでは前に進まない」チャンダー・メヘラさん
- 第10回 「実績を示せば耳を傾けてもらえる」朝野徹さん
- 第9回 「シナジーをいかに引き起こすか」髙谷晃さん
- 第8回 「交渉は役割分担と演出で」新谷誠さん
- 第7回 「相手のプライドを土足で汚さない」佐藤知一さん
- 第6回 「気持ちが入っていないと、いい仕事はできない」 森本容子さん
- 第5回 「知る、理解する、好きになる、の順で」原田幸之介さん
- 第4回 「人に会って信頼できるネットワークをつくる」齊藤整さん
- 第3回 「失敗はだれでもある、やり直せる」平野昌義さん
- 第2回 「『好き』が相手に伝われば何とかなる」林原誠さん
- 第1回 「アドレナリンが出ている時が大事」太田悠介さん