第4回
「人に会って信頼できるネットワークをつくる」齊藤整さん
ピーエムグローバル株式会社 木暮 知之
グローバルプロジェクトに特化した企業であるピーエムグローバルの代表を務める木暮知之を聞き手に、国内外で活躍するプロフェッショナルに体験談や仕事を円滑に進める秘訣をうかがう連載コラム「グローバル・コネクター」。
今回のゲストは商標登録を専門に取り扱う事務所を経営する弁理士の齊藤整さんです。
木暮 商標を専門に扱うのですね。
齊藤 もともとは商社でプログラマーをしていたのですが、同期入社で転職した友人が「特許事務所に入ったら年収が倍になった」と話しており、興味を惹かれて弁理士を目指しました。1次試験の合格後に声をかけてもらった大手事務所で、担当の上司が商標の専門家でした。そこで「日本担当」になりました。英語が苦手だったので安心していたらこれが大間違い。海外から来る仕事を日本で担当する仕事だったのです。もう英語必須です。さらに上司が英語に厳しい。これはまずいことになったなと。
木暮 それは大変だ。
齊藤 英語は赤点の苦手科目。「英英辞典って何?」のレベルです。中学英語からやり直しです。最初はこっそり翻訳ソフトを使ったりしましたが、ぼろが出て大目玉を食らうことも。
木暮 私も英語では苦労しました。法律関係は専門用語も多そうですね。
齊藤 分からないことだらけです。「アプリケーション」という単語ひとつとっても、「申請」ではなく、コンピューター用語の「ソフト」の意味しか知りませんでした。四苦八苦してやっているうち、コンピューターの知識があったので、英文を切り貼りしてデータベースにすることに気付きました。英語がきれいな海外代理人の文章を拝借して使っていると、事情を知らない先生から英文を褒められることもありました。
木暮 ITの知識が役立ちましたね。
齊藤 ただ、読み書きはいいのですが話すとなるとさっぱり。アジア圏で使われている英語なら、と思っていましたがインド人独特のアクセントに愕然。それでも海外に行っていると、度胸だけは買ってもらえるようになりました。「そんな英語なのによくここまで来られたな。逆にすごい」と。
木暮 10年目で独立。
齊藤 上司の影響です。自分でも最初からやってみたくなりました。特許担当の知り合いと組んで事務所を4年間共同経営して経営の勉強をし、その後、商標を単独で扱いたいとの思いから新たに事務所を立ち上げました。商標を専門にする事務所は当時、西日本になく、周りからも無理だと言われていました。それなら自分がパイオニアになってみたいと。
木暮 先駆者にはリスクとリターンがありますものね。順調にいったのですか。
齊藤 独立後2年ぐらいは顧客がありません。時間があるので区民プールに行ったり、ウェブを開発したりしていました。それでも講習会などを開くうちに、少しずつ顧客が付くようになりました。商標専門をうたっているので、特許に関しては別の事務所を紹介していると、その事務所からは商標の案件を紹介してもらえるようになるなど関係ができてきました。実務を修行させていただいた業界大手とは今でも良い関係を保っており、独立後も事務所に遊びに行きます。外国人には同業者に案件を紹介することが不思議なのか、「どうして同業他社と仲良くするのか」と聞かれることもあります。
木暮 これが普通だと。
齊藤 プライベートの付き合いは全く大丈夫です。大阪の国際関係の弁理士はお互い仲がいいですよ。大阪では普通だと思います。彼らもこうした関係を「ユニークだ」と表現しますが、大阪のことを褒めてもらっている気がしてうれしいです。
木暮 海外では商標をめぐる動きはどうですか。
齊藤 海外の国の法律自体は日本からも閲覧できますが、解釈や運用、実効性については当事国で解釈が異なります。「商標は似ていてはいけない」というルールがあっても、どこまで似ていたらアウトなのかという判断が各国でバラバラ。大まかに言うと日本は音を重視しますが、アルファベット文化の欧米は構成文字、見た目重視と言えると思います。ここで重要になるのが現地とネットワークがあるかどうかです。事情に精通した現地の代理人を知っていれば、生きたコメント(助言)が入手できます。実際に商標権は国ごとで取得しなければなりません。問題が生じれば、その国の専門家の判断を仰ぐわけです。
木暮 ネットワークはどのように広げるのですか。
齊藤 大手に勤めていた時に知り合った人もありますが、私が毎年必ずいくつかの国際会議に出向いて、どの事務所の所長が交代したとか、誰が独立したか、といった情報収集をしています。
木暮 意外です。法律の世界には四角四面であまり血の通わないようなイメージを持っていました。人との交流が大事なのですね。
齊藤 国際登録は日本でもできますが、何か問題が起きたら現地の事務所に対応を頼みます。うまく商標が登録できない地域も、現地に方策などのアドバイスをお願いすることになります。
木暮 日本から海外に仕事を依頼する場合、文化や習慣の違いが気になることはありますか。
齊藤 もめやすいのは「タイムチャージ」の考え方です。日本では手続きごとに費用が発生しま すが、海外は手続きにかかった時間に対して費用を払う場合も少なくありません。時間制の請求には日本のクライアントは抵抗感があるといった事情が分かっている代理人には頼みやすいです。案件の解決後に、こちらが頼んでもいないコメント分を請求に加算するような事務所は敬遠されますね。
木暮 日本側も海外の商習慣を理解する必要がありますね。
齊藤 国際登録がなくても海外進出できないわけではないですが、必ず後で困ることが出てきます。現地の代理店を使えばその地域の事情を踏まえたコメントを得られます。日本企業は保守的で国際登録制度を使いたがらない傾向がありましたが、今ではメリットが知られるようになってきており、最近は利用が伸びています。海外で勝負にうって出るときは間違いなく商標が必要です。何かブランドの「旗印」となるものを決めて商標権を取ることをお勧めします。そうしないと海外でモノを売ることができません。また商標は「生き物」のようなところがあり、時代や地域によって判断が異なってきますし、何度でも登録をチャレンジできるのが魅力です。コカ・コーラ®やヤクルト®の容器デザインも、何度も登録にチャレンジした結果、単なるデザインから、商標として保護されるに至りました。認知度が上がれば商標として認められます。商標は更新する限り永久に続く権利です。
木暮 海外のパートナーを選ぶ際に何を重視しますか。
齊藤 共通の趣味があるとか、私とウマが合うかどうか、ということもあります。専門性はもちろん大事です。海外から営業マンとして来日しているだけなのかも見極めなくてはいけません。売り込みの上手な事務所は日本のユーザーが集中することがあり、そうなると優先順位の低いユーザーへの対応が疎かになったり待たされたりすることもあります。
木暮 今では英語が欠かせませんね。
齊藤 小さいときは外国人の友達にあこがれていました。仕事で知り合った韓国人と仲良くなり、当時小学1年生だった息子を単身渡航させて預けたことがあります。海外の見学ツアーで隣同士になったことが知り合いになったきっかけなのですから、人の縁は大事ですよね。(おわり)
プロフィール
グローバルなビジネス環境で今まで以上に高品質なプロジェクトマネジメントを必要とされる全てのお客様のために、プロジェクトを推進し成功させるための環境づくりを総合的にサポートします。また、マネジメントのパートナーとして現場の視点と経営の視点を併せ持った課題の発見、およびその対策としての戦略策定をご提案します。
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プロジェクトマネージャーのトレーニング
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グローバル人材の育成
海外拠点の現地社員育成
インドニュースの配信・出版
ニュース配信サイトの運営
海外進出コンサルティング
Webサイト:ピーエムグローバル株式会社
「外国の方とのビジネスやコミュニケーションに悩まれたことはありませんか?
ギクシャクしたり、思ったほど相手との距離が縮まらなかったり。英語だけの問題ではないのでは?
『ガイバナ』では、英会話自体にフォーカスするのではなく、英語が苦手な方でも、一歩踏み出してコミュニケーションの場を明るくする、キラリと光るエッセンスをお届けします。エピソード後半に、覚えてほしいキラリフレーズをご紹介しています。
「ガイバナ」ポッドキャストはこちらから
ガイバナ@Line: @315pjfpo」
- 第77回 「みんなで決めたらやり遂げる」甲斐ラースさん
- 第76回 「ひとつずつクリアする」大渕愛子さん
- 第75回 「国内・海外の共通言語はコミュニケーション力」駒井愼二さん
- 第74回 「相手に合わせたロジックを」福田勝さん
- 第73回 「強みを生かす」亀井貴司さん
- 第72回 「現状に疑問を持つ」アミヤ・サディキさん
- 第71回 「任せたら自由にさせる」竹内新さん
- 第70回 「正しいあうんの呼吸を」村瀬俊朗さん
- 第69回 「ほかにない価値を」金城誠さん
- 第68回 「素早く対応する」柏田剛介さん
- 第67回 「ビジョンを伝える」中村勝裕さん
- 第66回 「歴史を学ぼう」磯部功治さん
- 第65回 「多少の自信と歯切れの良さと」島原智子さん
- 第64回 「情報を体系化する」鈴木隆太郎さん
- 第63回 「メッセージを明確に」岩本修さん
- 第62回 「上司もホウ・レン・ソウ」高橋裕幸さん
- 第61回 「自分を肯定する」前川裕奈さん
- 第60回 「状況を掘り下げて原因を探す」寺島周一さん
- 第59回 「信頼と共感の空気をつくる」蔭山幸司さん
- 第58回 「一緒に楽しむと続けられる」草木佳大さん
- 第57回 「7割の見込みを信じる」吉元大さん
- 第56回 「意見をありがたく聞く」室井麻希さん
- 第55回 「常に学び・成長できる環境に身を置く」門田進一郎さん
- 第54回 「目の前の人との関係を大事に」岡田昇さん
- 第53回 「意見を聞いてから主張を調整する」大橋譲さん
- 第52回 「頼れる存在に任せる」ケビン・クラフトさん
- 第51回 「要望の背景も話す」堀田卓哉さん
- 第50回 「素直に聞く度量を」山田剛さん
- 第49回 「奇妙な日本人を自覚する」村上淳也さん
- 第48回 「信頼にめりはりを」二階堂パサナさん
- 第47回 「俯瞰(ふかん)して眺める」エドワード・ヘイムスさん
- 第46回 「丁寧さが評価される」ブレケル・オスカルさん
- 第45回 「個と向き合う」吉野哲仁さん
- 第44回 「事実に焦点を当てる」中村敏也さん
- 第43回 「現場に顔を出す」深井芽里さん
- 第42回 「状況を楽しむ」飯沼ミチエさん
- 第41回 「人生を楽しむ“絶対的価値観”を」小川貴一郎さん
- 第40回 「少ない言葉でも伝わる」アレン・パーカーさん
- 第39回 「ポジティブは伝染する」川平慈英さん
- 第38回 「自分で考える人に」野田純さん
- 第37回 「常にフェアであれ」忍足謙朗さん
- 第36回 「相手の価値観を包み込む」神原咲子さん
- 第35回 「直接得る情報を大事に」ネルソン水嶋さん
- 第34回 「相手のルールを早く知る」杉窪章匡さん
- 第33回 「意見を受け入れて試してみる」鈴木皓矢さん /「ノーと言われてもあきらめない」林祥太郎さん
- 第32回 「技術を尖(とが)らせる」稲垣裕行さん
- 第31回 「自分でやってみる」佐々木英之さん/「やる気のエネルギーを信じる」白井良さん
- 第30回 「リフレッシュ方法を見つける」大野均さん
- 第29回 「英語はメールから始めよう」岡田陽二さん
- 第28回 「逃げずに向き合う」矢野浩一さん
- 第27回 「相手に合わせた伝え方を」松田励さん
- 第26回 「ゴールを共有する」多島洋如さん
- 第25回 「考え方は変えられる」小森谷朋子さん
- 第24回 「相手が話しやすいテーマで心をつかむ」増山健さん
- 第23回 「どうしたいかで生きればいい」佐藤みよ子さん
- 第22回 「伝わる話題を探す」石井陽介さん
- 第21回 「話をよく聞いて信頼してもらう」我謝京子さん
- 第20回 「ギブアンドテイクの視点で」北尾敬介さん
- 第19回 「組織はファミリー」中沢宏行さん
- 第18回 「1人のスーパーマンよりチームワーク」前澤正利さん
- 第17回 「多様なメンバーが強い組織を生む」竹田綾夏さん
- 第16回 「ビジョンを共有する」マックス市川さん
- 第15回 「同じ人間として対等に話す」浦川明典さん
- 第14回 「会話は敬語、メールは気配り」イムラン・スィディキさん
- 第13回 「思い込みを捨てる」羽田賀恵さん
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- 第11回 「批判だけでは前に進まない」チャンダー・メヘラさん
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- 第8回 「交渉は役割分担と演出で」新谷誠さん
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- 第6回 「気持ちが入っていないと、いい仕事はできない」 森本容子さん
- 第5回 「知る、理解する、好きになる、の順で」原田幸之介さん
- 第4回 「人に会って信頼できるネットワークをつくる」齊藤整さん
- 第3回 「失敗はだれでもある、やり直せる」平野昌義さん
- 第2回 「『好き』が相手に伝われば何とかなる」林原誠さん
- 第1回 「アドレナリンが出ている時が大事」太田悠介さん