第52回
【PHILIPPINES】第2回:法人設立・PEZA登録の流れ
朝日税理士法人 執筆
第1回では、PEZAの概要とインセンティブについて紹介しました。第2回では、そのインセンティブを活用するための登録の流れについて解説いたします。なお目安として、法人設立の着手からPEZA登録が完了するまで、3~6ヶ月程度要すると想定されます。但し、コロナ等による行政機関の対応状況、登録企業・事業の内容、その他許認可の取得状況等により、さらに時間を要する可能性もありますのでご留意ください。
1. 法人設立の流れ
以下 1)~10)が法人設立の大まかな流れですが、順番が前後する可能性がある他、同時並行で進む手続きもあります。また、追加プロセスが生じる可能性がありますので、適宜専門家にお尋ねください。
1) 前準備
a. 事前準備
法人設立・PEZA登録を円滑に進めるため、事業計画策定・データ収集等の事前準備を行ないます。
b. 会社所在地決定
定款には部屋番号を含む詳細な住所記入が必要となるため、会社所在地の確保が必要です。
c. 定款・附属定款の作成
会社名、会社目的、資本金(授権・引受・払込資本額)と株主、発起人、取締役(2 名以上)、財務役、会社所在地、会計年度、株主総会開催日等を決めておく必要があります。
2) 資本金振込
a. 一時口座開設、資本金払込、送金証明書の取得
フィリピン国内の銀行に一時口座を開設します。一時口座から出金はできません。一時口座に資本金を送金し、銀行から発行される送金証明書(CIR)を取得します。
b. 財務役宣誓書作成
法人設立にあたり、発起人から出資があったことを宣誓する財務役宣誓書を作成します。
3) 証券取引委員会(SEC)登録
a. SECへの申請、審査
定款を基にSECの企業登録システムに企業情報を入力し、SECへの申請を行ないます。類似社名・商号がある場合には別途手続きが必要です。
b. 提出書類への署名、提出
定款・附属定款、財務役宣誓書、申請書等に署名を行ない、原本をSECに提出します。フィリピン国内で署名する場合は公証のみで済みますが、国外で署名する場合は公証に加えてアポスティーユ認証も必要です。
c. 登記費用納付
申請内容の最終審査と登記費用の計算がSECにより行なわれます。完了次第SECから支払査定書が発行されますので、それに従い登記費用を納付します。
d. 承認と登記証書の発行
申請が承認されると SEC 登記証書(COR)が発行され、法人格を取得したことになります。SEC登記後は、会社報告書(GIS)や監査済み財務諸表を毎年提出する必要があります。
4) 設立総会実施
a. 取締役の正式選出と役員任命
取締役を正式に選出し、社長・秘書役・財務役の法定三役を含む会社役員を任命します。さらに、株主総会や取締役会の決議が必要となる事項(例:本口座開設など)について、同時に議題に盛り込むことができます。秘書役はGISをSECに提出します。
5) 本口座開設
a. 本口座開設と資本金移動
法人格を取得後に本口座を開設し、資本金を一時口座から本口座に移動すると、資本金を使用することができるようになります。銀行により必要書類は異なりますが、一般的には本口座開設・署名権者任命について記載した取締役会決議書が必要になります。
6) 税務署(BIR)登録
a. 納税者識別番号(TIN)取得
申請書・補足書類を所轄税務署(BIR-RDO)に提出し、外国法人・外国人株主のTINを取得します。
b. 税務署登録・費用納付
申請書・補足書類をBIR-RDOに提出し、年次登録費用・印紙税(株式発行・リース契約分)を納付します。その後BIR-RDOから登録証書が発行され、合わせて領収書・請求書発行通知(職場掲示用)が発行されます。なお税務署登録の申請書は、事業許可証またはSEC登記証書のいずれか早く発行された日から起算して、30日以内にBIR-RDOに提出する必要があります。
c. 領収書・請求書の印刷許可(ATP)取得
フィリピンでは、領収書・請求書を発行するためのATPをBIR-RDOから事前に取得し、BIR認定の印刷業者に印刷してもらう必要があります。まずは申請書・補足書類をBIR-RDOに提出して、事業開始前までにATPを取得します。その後印刷業者の納品証明書(PCD)を取得し、納税者の宣誓供述書と合わせてBIRに提出します。
d. 法定会計帳簿の準備・登録
フィリピンでは、使用する会計帳簿・会計システムも、BIR-RDOに登録が必要です。法定の会計帳簿一式を準備し、申請書・補足書類と合わせてBIR-RDOに提出して登録します。
7) 地方自治体(LGU)登録
a. バランガイクリアランス・ロケーショナルクリアランスの取得
b. 法人住民税納付証明書(CTC)の取得
c. 市役所の立ち入り検査
d. 火災保険の加入(市役所指定)、事業税・自治体サービス料の納付
e. 衛生許可・火災安全検査許可等の取得
f. 営業許可証(Business Permit)の取得
初回取得以降も、毎年1月20日までに更新の申請を行い取得する必要があります。
8) 社会保険関連登録
a. 社会保障システム(SSS)への雇用主登録
b. 住宅開発相互基金(HDMF)への雇用主登録
c. フィリピン健康保険組合(Philhealth)への雇用主登録
9) 労働雇用省(DOLE)登録
a. DOLEへの雇用主登録
10) 中央銀行(BSP)登録
a. 中央銀行登録証書(BSRD)の取得
フィリピンへの外国投資をBSPに登録することにより、銀行システムから外貨(日本円含む)の調達が可能となり、将来の配当や資本引揚の際に活用することができます。
登録申請書と補足書類をBSPに提出し、BSPの確認を経て問題がなければBSRDが発行されます。
2. PEZA登録の流れ
法人設立とは別にPEZAへの登録が必要となります。基本的には以下の流れで登録手続きを進めますが、登録企業のカテゴリーや入居するエコゾーンにより異なる可能性があることにご留意ください。
1) PEZA登録申請
a. 申請データ準備
取扱製品・技術仕様・財務・雇用・投資・事業計画等、PEZA登録にあたり必要となる情報を準備します。
b. 登録申請、事前確認
PEZA電子申請登録システムに情報を入力し、登録申請をします。PEZAによる事前確認が開始されますので、審査担当部署と調整し必要に応じて修正します。承認されると、登録申請料金の支払通知書が発行されます。
c. 登録申請料納付
支払通知書に従い登録申請料を納付します。
d. 正式な登録申請、審査
PEZA電子申請登録システムを通じて正式な登録申請を行なうと、PEZAによる審査が実施されます。審査の過程で追加資料の提出や補足説明を求められることがありますので、適宜対応が必要となります。
2) PEZA理事会承認取得
a. 審査担当部署からPEZA理事会への推薦
PEZA審査担当部署が申請内容に問題がないことを確認し、PEZA理事会に推薦します。
b. PEZA理事会承認
推薦された登録申請をPEZA理事会が承認します。
3) 理事会承認決議書発行・登録前条件遵守
a. 理事会決議書発行
PEZA理事会で承認されると、1週間後を目安に理事会承認決議書が発行されます。承認決議書には、承認通知と共に登録前条件(正式登録前に満たすべき条件)が記載されます。
b. 登録前条件遵守
記載された登録前条件に従い、登録企業は期限内に対応を完了させ、登録費を納付します。
4) PEZA登録合意書・登録証書取得
a. 登録合意書
登録前条件の対応完了後、PEZA登録合意書が準備されます。
b. 登録合意書署名
PEZA登録合意書の内容を確認し署名します。なおオプションとして、PEZA本庁にてPEZA長官との調印式を設定することが可能です。
c. 登録証書取得
PEZA登録証書への署名後、PEZA登録証書が発行されます。
5) PEZA証明書取得
a. 各優遇措置証明書取得
優遇措置証明書、VATゼロレート証明書、5%SCIT証明書(該当する場合)等を取得します。なお、初回取得後も毎年更新が必要となります。
6) 環境遵守証書(ECC) / 適用外証書(CNC)取得
登録事業の環境影響評価に関わる手続きです。PEZA登録前条件の一部となりますので、早めの対応が必要です。
a. PEZA環境安全グループ(ESG)・環境健康安全部(EHSD)への申請
PEZA-ESG・EHSDを通じ申請書・補足書類を提出すると、書類審査が行なわれます。
b. 実地調査
申請内容に応じて実地調査が実施される可能性があります。
c. PEZA-ESGから環境資源省環境管理局(DENR-EMB)への申し送り
PEZA-ESGがDENR-EMBに対して推薦状・実地調査報告書等を発行します。
d. 審査・証書発行
DENR-EMBにより申請内容が審査され、ECCまたはCNCが発行されます。
7) ラグナ湖開発公社(LLDA)許可証取得
事業地がラグナ湖流域内の場合、LLDAの許可取得が必要です。該当企業についてはPEZA登録前条件の一部となりますので、早めの対応が必要です。
a. PEZA-ESGへの申請
PEZA-ESGを通じLLDA申請書・補足書類を提出すると、書類審査が行なわれます。
b. 実地調査
申請内容に応じて実地調査が実施される可能性があります。
c. PEZA-ESGからLLDAへの申し送り
PEZA-ESGがLLDAに対して推薦状・実地調査報告書等を発行します。
d. 審査・許可証取得
LLDAにより申請内容が審査され、LLDA許可証が発行されます。
8) その他許認可取得・通知
上記の他、登録する事業に応じて各種許認可証の取得や通知が必要となる可能性があります。
以下は、操業開始までに必要となる許認可・通知の事例です。
a. PEZA
・建設許可証(Building Permit)
・機械装置輸入許可証(Import Permit for Equipment)
・設置許可証(Installation Permit)
・占有許可証(Occupancy Permit)
・操業開始通知(Notice of Start of Commercial Operations)
・操業開始承認通知(Notice of Approval of Start of Commercial Operations)等
b. 関税局(BOC)
・輸入者/輸出者認定(Accreditation of Importers/Exporters)
・輸入/輸出品目登録(Registration of Importables/Exportables)
・電子輸入許可システム登録(Electronic Import Permit System)
・自動輸出文書システム登録(Expanded Automated Export Documentation System)
c. その他官庁
取扱製品や事業内容により、PEZA以外の所轄官庁の登録や認定が必要となる場合があります。
9) 登録後の定例報告
上記 1)~9)により、登録企業は事業を開始することができますが、事業開始後も月次・四半期・年次でPEZAに対して定例の事業報告を行う必要があります。また、登録内容に変更が生じた場合や新規許認可を取得する場合などは、随時PEZAに報告・申請を行なう必要があります。
この記事の提供元:朝日税理士法人グループ
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