第58回
【PHILIPPINES】個人所得税の概要
朝日税理士法人 執筆
フィリピンでは、2018年1月に施行された税制改革第1弾(以下「TRAIN法」)により、個人所得税の大幅な見直しが実施されました。扶養控除等の控除項目が廃止される一方で、所得税率表が改定され、富裕層を除く多くの給与所得者にとっては減税となりました。2023年1月には所得税率表をさらに改定することが決定しており、追加の減税となる予定です。
本記事では、フィリピンにおける個人所得税の概要についてご紹介します。
1. 個人所得税率
個人所得税は、以下の税率表に基づいて計算します。年間の課税所得に応じて6つのレンジに分類され、0%から35%の累進税率が適用されます。2018年1月から2022年12月までと2023年1月以降では適用される税率が異なり、2023年1月以降は課税所得P250,000超のすべてのレンジにおいて減税となります。
2. 課税所得
個人所得税の計算の基礎となる課税所得は、総所得から非課税所得を控除し算出します。代表的な控除項目としては、社会保険料の従業員負担分、少額手当(De Minimis Benefit)、法定の13ヶ月目給与およびその他手当(上限P90,000/年)が挙げられます。
課税所得の算出にあたり、日本のような給与所得控除、扶養控除、配偶者控除等の控除項目はなく、シンプルに設計されていることが特徴です。一方で控除項目・金額ともに限定的であるため、総所得に対して課税所得があまり低くならない傾向にあります。
3. 少額手当(De Minimis Benefit)
以下に列挙された少額手当については、上限金額内であれば非課税として扱われることがTRAIN法に規定されています。通常の給与に上乗せまたは代替して少額手当を支給することにより、従業員の所得税負担を抑え手取り金額を増加させることが可能となります。それぞれの手当に詳細な規定が設けられていることがありますので、導入をご検討の場合は適宜専門家にご相談ください。
4. 所得税の計算例
上記をふまえ、年間の個人所得税の計算例をいくつか紹介します。
※概算の数値を用いた参考事例です。あくまで目安としてお考えください。
ケース①
総所得P500,000、社会保険料の従業員負担分P25,000、上限金額内の少額手当計P25,000、13ヶ月目給与およびその他手当P50,000の場合
〔課税所得〕P500,000 – P25,000 – P25,000 – P50,000 = P400,000(レンジ2に該当)
〔年間所得税〕(P400,000 – P250,000) x 20% = P30,000 ※2022年以前の場合
〔年間所得税〕(P400,000 – P250,000) x 15% = P22,500 ※2023年以降の場合
ケース②
総所得P2,000,000、社会保険料の従業員負担分P35,000、上限金額内の少額手当計P35,000、13ヶ月目給与およびその他手当P200,000の場合
〔課税所得〕P2,000,000 – P35,000 – P35,000 – P90,000 = P1,840,000(レンジ4に該当)
〔年間所得税〕(P1,840,000 – P800,000) x 30% + P130,000 = P442,000 ※2022年以前の場合
〔年間所得税〕 (P1,840,000 – P800,000) x 25% + P102,500 = P362,500 ※2023年以降の場合
ケース③
総所得P7,000,000、社会保険料の従業員負担分P35,000、上限金額内の少額手当計P45,000、13ヶ月目給与およびその他手当P1,000,000の場合
〔課税所得〕P7,000,000 – P35,000 – P45,000 – P90,000 = P6,830,000(レンジ5に該当)
〔年間所得税〕(P6,830,000 – P2,000,000) x 32% +P490,000 = P2,035,600 ※2022年以前の場合
〔年間所得税〕(P6,830,000 – P2,000,000) x 30% + P402,500 = P1,851,500 ※2023年以降の場合
5. 源泉徴収と確定申告
従業員を雇用するフィリピン法人は、従業員の給与に係る所得税を源泉徴収し、給与源泉税として税務当局に申告・納付する義務があります。月2回の給与支給時および賞与支給時に所得税を源泉徴収し、加えて年末調整を実施することにより、従業員の所得税納付は完結します。所得税の源泉徴収の仕組みは日本と同様で、年間の所得税が確定次第、フィリピン法人が従業員に対して源泉徴収票を発行します。
ただし、日本法人からも給与を受け取る駐在員など、複数の拠点から給与を受け取る場合には、別途確定申告が必要になる可能性がありますのでご留意ください。
本記事の内容は、弊社HPにて動画を公開していますので、ぜひご覧ください。
この記事の提供元:朝日税理士法人グループ
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