第55回
【PHILIPPINES】2022年戦略的投資優先計画(SIPP)
朝日税理士法人 執筆
2022年戦略的投資優先計画(Strategic Investment Priority Plan。以下「SIPP」)が覚書指令第61号として2022年5月26日に公表され、その15日後の6月10日に発効となりました。2021年4月11日に発効した税制改革第2弾(以下「CREATE法」)において、各投資促進機関(以下「IPAs」)が付与する税制優遇を共通化し、SIPPの分類に基づいて実施する方針は示されていましたが、それから1年以上の歳月を経てようやくSIPPの発効となりました。
1. 税制優遇
SIPPの概要を紹介する前に、CREATE法により公表された税制優遇を改めてご紹介します。CREATE法では、a) 企業区分(輸出型または国内市場向け)、b) 立地、c) 産業別Tier、3つの観点から登録アクティビティを分類し、優先順位に応じて税制優遇の付与期間を調整する方針が示されました。分類別の税制優遇については、以下表をご参照ください。
〔輸出型企業の事業〕
〔国内市場向け企業の事業〕
※ITH (Income Tax Holiday): 法人税免税、ED (Enhanced Deduction): 追加控除、SCIT (Special Corporate Income Tax): 特別法人税
例として、輸出型企業の事業がマニラ首都圏に立地しTier 1に分類された場合には、ITH4年間の後にEDまたはSCITが10年間付与され、合計で14年間税制優遇を享受することが可能です。仮にTier 3に分類された場合には、ITH期間が6年間に延長され、合計で16年間の税制優遇となります。
2. SIPPの概要
この度公表されたSIPPは、2020年IPPを発展させる存在と位置づけられています。また、改訂版フィリピン開発計画(2017-2022年)、包括的イノベーション産業戦略(3S)およびPagtanaw2050に沿う形でSIPPが作成されており、フィリピン国家の長期的発展に寄与する事業を税制面から後押しすることを目的としています。
各Tierに該当するアクティビティや産業については、以下のとおり示されました。SIPPの原文はこちらからご確認いただけます。(朝日ネットワークスHP掲載)
1) Tier 1: 2020年IPPに掲載された全アクティビティ(Tier 2・Tier3掲載のもの除く)
2020年IPPの詳細はこちらをご参照ください。(朝日ネットワークスHP掲載)
2) Tier 2: 以下に代表されるアクティビティ
a. グリーンエコシステム
(ア)電気自動車組立(例:EV、PHEV、HV、FCEV)、EV部品製造、コンポーネントとシステム、EVインフラ構築・運用
(イ)エネルギー効率の高い船舶・機器の製造
(ウ)スマートグリッド・再生可能エネルギー(ウェアラブルソーラーデバイス含む)用の電子機器・回路
(エ)バイオプラスチック・バイオポリマー
(オ)再生可能エネルギー
(カ)エネルギー効率・保全プロジェクト
(キ)エネルギー備蓄技術
(ク)総合的な廃棄物管理・処理・リサイクル
b. ヘルス関連
(ア)ワクチン自立支援プログラム、保健省・科学技術省・その他類似機関が承認するその他の健康関連プログラムの製造支援等
(イ)医薬品
(ウ)医薬品有効成分
(エ)専門病院
c. 防衛関連
(ア)国防省・比国軍隊・国家安全保障委員会が承認する防衛関連アクティビティ
d. 産業バリューチェーンギャップに対応する以下のアクティビティ
(ア)鉄鋼・繊維・化学
(イ)グリーンメタル加工(銅・コバルト・ニッケル等)
(ウ)原油精製
(エ)実験室規模のウエハー製造
e. 食料安全保障関連
(ア)農業省またはフィリピン農業・水生・天然資源研究開発評議会が承認するもので、食料安全保障を競争的に確保するため、またはグリーン・有機農業の支援のために重要な製品・サービス(酪農等の総合的な食料生産・加工活動等)
(イ)国家種子産業評議会の作物品種登録に含まれるハイブリッド種子の生産
(ウ)動物ワクチン・農薬・肥料の製造
(エ)農業・漁業用の機械・装置、部品、コンポーネントの製造
3) Tier 3: 以下に代表されるアクティビティ
a. 第四次産業革命の先進デジタル生産技術を活用した研究開発・アクティビティ
(ア)ロボット工学
(イ)人工知能
(ウ)積層造形技術
(エ)データアナリティクス
(オ)DXテクノロジー(クラウドコンピューティング、ハイパースケーラー、データセンター、デジタルインフラ等)
(カ)ナノテクノロジー(ナノエレクトロニクス含む)
(キ)バイオテクノロジー
(ク)新しい混合種子の生産
(ケ)その他のインダストリー4.0技術
b. 革新的製品・サービスの高度技術による製造・生産
(ア)装置・部品の製造、サービス
(イ)知的財産・研究開発製品・サービスの商業化、航空宇宙、医療機器(個人防護具除く)
(ウ)IoT機器・システム(無線センサー・装置含む)
(エ)フルスケールのウエハー製造
(オ)先端材料
c. イノベーション支援施設の設立
(ア)研究開発ハブ
(イ)中核拠点
(ウ)科学技術パーク
(エ)イノベーション・インキュベーションセンター
(オ)技術系スタートアップ
(カ)起業支援施設
(キ)インキュベーター・アクセラレーター
(ク)宇宙関連インフラ
注記:上記に例示されていないアクティビティであっても、CREATE法296条に規定されている要件を満たす場合には、Tier 2またはTier 3に該当すると判断され税制優遇が適用される可能性がある。ただし、Tier 3の追加アクティビティについては、関連機関から正式に承認を得ることが条件となる。
また上記1)のとおり、2020年IPPの対象がそのままSIPPのTier 1に盛り込まれたことから、従来税制優遇の対象とされていたアクティビティについては、今後の新規登録時も引き続き税制優遇の対象になると考えられます。Tier 2、Tier 3に明記されたアクティビティについては、より長い税制優遇を享受できることになりました。
なおSIPPの有効期間は3年間で、原則として3年ごとに見直しが行われることとされています。
3. 日系企業への影響
SIPPの発効に伴い、IPAsを含むすべての政府機関はSIPPおよび関連法に反する政策・行動をとることができなくなり、SIPPに沿った規則を必要に応じて公表することが定められました。日系企業の登録が多いPEZAも例外ではなく、SIPPおよび関連法にしたがうことが求められます。特に投資額が10億ペソ超の案件については、PEZAに税制優遇の付与権限がなくなり、PEZAからの推薦に基づきFIRBで審査および優遇付与が行われることになりました。そのため、従来PEZAがワンストップショップとして迅速な審査および優遇付与を実施してきましたが、今後は他機関との調整をしながら進めなければならない制度となり、手続に時間がかかる可能性もあります。
今後の新政権のもとで、IPAsを含む各政府機関がより具体的な規則や通達等を公表することが想定されます。新規および追加投資を検討中の企業においては、今後の発表を注視し、利用可能な税制優遇を見極めることが求められます。
以上
この記事の提供元:朝日税理士法人グループ
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