第54回
【PHILIPPINES】公共サービス法の改正
朝日税理士法人 執筆
フィリピンでは公共サービス法(Public Service Act。共和国法第11659号)が改正され、2022年4月7日に施行されました。2022年1月に施行された小売自由化法、同じく3月施行された外国投資法と合わせ、ドゥテルテ政権(執筆当時)が外資規制緩和に向けて掲げた3つの主要経済関連法が、すべて出揃ったことになります。今後外国資本及び技術の流入が加速し、コロナ後のフィリピン経済復興に寄与することが期待されます。
中でも今回施行された公共サービス法は、幅広い業種の外資参入を自由化するインパクトの大きな改正であることから、国内外で非常に注目を浴びています。本記事では、公共サービス法の改正点について概要をご紹介します。
1. 従来の公共サービス法と憲法
1936年に施行された従来の公共サービス法では、「公益事業(Public Utility)」の明確な定義が存在せず、大半の公共サービスが「公益事業」と見なされていました。また1987年憲法の第7章第11条において、公益事業を運営できるのは、フィリピン人またはフィリピン人が60%以上を出資した内国企業のみとされています。つまり公共サービスの大半が、フィリピン人またはフィリピン企業のパートナー無しでは運営できず、外資参入は実質的に40%までに制限されていたことになります。
公共サービスには、電気・水道・石油・道路・通信・空港・物流を始めとした幅広い業種が含まれることから、フィリピン進出を検討する多くの日系企業の障壁となっていたという背景があります。
2. 改正内容
1) 公益事業の定義明確化
公表された改正法では、「公益事業」の定義が次の6事業に限定されました。該当する6事業においては、従来通り外資40%までの制限が継続適用されることになります。
① 配電
② 送電
③ 石油/石油製品パイプライン輸送システム
④ 上下水道配水システム
⑤ 港湾
⑥ 公共交通車両 *¹
一方で、上記6事業に該当しない公益事業以外の公共サービスにおいては、外資40%の制約が撤廃され原則100%出資が可能となります。新たに外資100%での運営が可能となった業種には、通信・一般運送業等の日系企業にとって関心の高い分野も含まれます。改正前後の区分を整理すると以下の通りとなります。
*¹ 公共交通車両とは、有償で人・国内貨物を輸送し公共サービスを提供するトラック・バス・ジプニー等で、内燃エンジンにより駆動する車両(輸送ネットワーク企業としての認可を受け営業する車両は対象外)
2) その他改正・追加項目
公共サービスの多くが外資に開放された一方で、今回の改正で新たに規制された項目もあります。例えば、外国政府が支配する企業または外国政府のために行動する事業体、或いは外国国営企業は、「公益事業・重要インフラ*²」に該当する公共サービスに出資することを原則として禁じられました。
その他の主な改正・追加項目については、以下の表をご参照ください。
*² 重要インフラとは、フィリピン国家に不可欠な公共サービスで、機能不全や破壊が国家セキュリティに悪影響を及ぼす通信等のサービス
3. 施行規則の公表
公共サービスに係る外資参入規制が大幅に緩和され、フィリピン市場への参入のチャンスが広がりましたが、解釈が分かれる内容もまだ多く見受けられます。改正公共サービス法施行後6か月以内に、NEDA及び関連行政機関が施行規則の公表を予定しており、より具体的な内容については施行規則の内容も確認する必要があります。
この記事の提供元:朝日税理士法人グループ
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