第57回
外国人の厚生年金保険の脱退一時金にかかる税務
朝日税理士法人 執筆
厚生年金保険の適用事業所に使用される外国人が厚生年金保険の被保険者の資格を喪失して日本を出国した場合において、以下のすべての要件に該当するときは、日本に住所を有しなくなった日から2年以内に「脱退一時金」を請求することができます。
これは、厚生年金保険料を支払っても日本の公的年金を受け取ることができない外国人のために、掛け捨て防止を目的として厚生年金保険料の一部払い戻しをするというものです。
1.日本国籍を有しない者であること
2.厚生年金保険の加入期間の合計が6月以上あること
3.国民年金の被保険者でないこと
4.日本国内に住所を有していないこと
5.老齢年金の受給資格期間(10年間)を満たしていないこと
6.障害厚生年金などの年金を受ける権利を有したことがないこと
7.最後に国民年金の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していないこと
(資格喪失日に日本国内に住所を有していた場合は、同日後に初めて日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していないこと)
*日本年金機構HPより・資料はこちら
厚生年金保険の「脱退一時金」は、厚生年金保険が使用人(役員を含む)を被保険者としていることから、税法上「みなし退職所得」として扱われ、居住者期間に行った人的役務の提供に基因する国内源泉所得につき、その支払いの際、20.42%の税金が源泉徴収されます。
ただし、非居住者である外国人は、「退職所得の選択課税による申告書」を税務署に提出することで、居住者と同様に退職所得控除を適用することができるため、源泉徴収された税金の全部又は一部の還付を受けられる可能性があります。当該申告書は、日本国内における最終の住所地又は居所地を管轄する税務署に提出することになりますが、申告書の提出及び還付金の受け取りのために、出国前に、日本国内における最終の住所地又は居所地を管轄する税務署へ「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を提出する必要があります。もし「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を提出しないで出国した場合には、申告書と併せて提出することもできます。
なお、「脱退一時金」を受け取った場合、「脱退一時金」を請求する以前のすべての期間が年金加入期間ではなくなるため、日本と年金通算の社会保障協定を締結している相手国の年金制度に加入していた期間がある外国人は、加入期間を通算して日本及び協定相手国の年金を受け取ることができなくなる可能性があります。したがって、将来、年金を受け取る可能性を考慮したうえで、「脱退一時金」を請求するか否か検討する必要があるといえます。
また、平成19年厚生労働省により告示された“外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針”では、「(事業主は、)公的年金の被保険者期間が一定期間以上の外国人労働者が帰国する場合、帰国後、被保険者期間等に応じた脱退一時金の支給を請求し得る旨帰国前に説明するとともに、年金事務所等の関係機関の窓口を教示するよう努めること。」とされ、事業主に対して、「脱退一時金」に関する一定の努力義務が定められています。
以 上
この記事の提供元:朝日税理士法人グループ
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