第59回
【PHILIPPINES】駐在員の確定申告
朝日税理士法人 執筆
前回の記事では、フィリピンの個人所得税の概要についてご紹介しました。原則としては、月2回の給与支給時および賞与支給時に所得税を源泉徴収し、加えて年末調整を実施することにより、従業員の所得税納付は完結します。しかしながら、日本法人からも給与を受け取る駐在員など、複数の拠点から給与を受け取る場合には、別途確定申告が必要になる可能性があります。
本記事では、フィリピン駐在員の確定申告について、その要否を判断するポイントと注意点についてご紹介します。なお本記事でご紹介する内容は、一般的な駐在員のケースを想定したものであり、実務上は各駐在員の状況を考慮して個々に判断することになります。適宜専門家に相談しアドバイスをお受けになるようお願いいたします。
1. フィリピン税法上の課税区分
フィリピン税法において、日本人を含む外国人は以下いずれかの課税区分に該当し、その区分に応じた所得税が課されることとされています。
① 居住外国人:フィリピン国内源泉所得に累進課税
② 非居住外国人(歴年の滞在日数180日超):フィリピン国内源泉所得に累進課税
③ 非居住外国人(歴年の滞在日数180日以下):フィリピン国内源泉所得に一律25%課税
課税区分はフィリピンでの勤務の契約期間や目的に応じて判断され、駐在員の場合は上記①または②に該当し、「フィリピン国内源泉所得に累進課税」されることになります。
なお、出張者の場合は滞在日数に応じて上記②または③に該当しますが、日比租税条約第15条により、暦年の滞在日数が183日以下であれば短期滞在者免税が適用されるため、フィリピンでの所得税課税はありません(厳密には他にも短期滞在者免税の適用要件があります)。滞在日数が183日超の場合は上記②に該当し、フィリピン国内源泉所得に累進課税されることになります。
2. 「フィリピン国内源泉所得」の範囲
「フィリピン国内源泉所得」は、フィリピンでの労働の対価として得られる所得のことを指します。そのため、駐在員がフィリピン法人から支給される給与だけではなく、その期間に日本法人から駐在員に対して支給される給与(留守宅手当等含む)も、フィリピン国内源泉所得と見なされることが一般的です。従って、フィリピン法人と日本法人から支給される給与を合算した金額が、フィリピン国内源泉所得として所得税の対象となります。
なお、駐在員は一般的に日本の非居住者となり、日本国内で稼得した「国内源泉所得」のみが日本での課税対象とされます。日本国内源泉所得には、不動産所得や配当所得等が挙げられます。
駐在員が日本法人の役員であり、かつフィリピン法人の役員も兼務する場合、日比租税条約第16条により、日本法人の役員報酬その他これに類する報酬等については、日本でのみ課税対象とされ、フィリピン国内源泉所得には含まれません。フィリピンにおいては、フィリピン法人の役員報酬のみをフィリピン国内源泉所得として扱います。
3. 確定申告と納税
フィリピン法人における源泉徴収は、フィリピン法人から支給される給与のみを対象として実施しているため、日本法人から支給される給与が考慮されていません。そのため、日本法人から支給される給与を合算してフィリピン国内源泉所得を再計算し、別途税務署に対して確定申告を行う必要があります。その際、合算のフィリピン国内源泉所得から算出された所得税額と、源泉徴収により納付済みの所得税額の差額を税務署に納付します。確定申告の期限は対象年の翌年4月15日とされているため、2022年の所得を例にした場合、2023年4月15日までに確定申告および所得税の納付を行うことになります。
よくある質問として、年の途中でフィリピンに赴任または日本に帰任する駐在員についても、駐在期間中に日本法人から支給される給与が源泉徴収の対象となっていないため、赴任および帰任する年の確定申告が原則として必要になります。
また、駐在員の確定申告は日比双方の国内法および租税条約の理解が欠かせず、かつ日本本社の給与情報を把握する必要があるため、フィリピン人従業員では対応が難しい場合があります。駐在員とフィリピン人従業員の給与格差の観点からも、外部の専門家に委託し確定申告を実施するのが望ましいと考えられます。
本記事の内容については、弊社HPにて動画を公開しています。ぜひご覧ください。
この記事の提供元:朝日税理士法人グループ
執筆
朝日ネットワークスフィリピンは、フィリピンにこれから進出されるクライアントと、すでに進出されているクライアントに、会計・税務・会社法務の専門知識に基づく高品質なサービスを提供することを理念とする事務所です。
朝日ネットワークスフィリピンでは、フィリピンにおける商標登録の出願から登録証書取得までのサポート、さらには登録完了後の使用宣誓書や更新に係るサポートを提供しております。
外国人が多数利用するショッピングモール、グリーンベルトから徒歩3分の位置にございます。どうぞお気軽にお立ち寄り頂ければ幸いです。
プロフィール
朝日税理士法人
朝日ネットワークス
朝日税理士法人(東京)、朝日ネットワークス(タイ・インドネシア・フィリピン)は朝日税理士法人グループとして、日本企業の海外進出・海外企業の日本進出をお手伝いしています。
移転価格文書化支援、外国税額控除制度活用に係るコンサルティング、タックスヘイブン対策税制等に係るコンサルティング、海外駐在員に係る税務など各種国際税務サービスを提供しております。
朝日税理士法人(東京)
朝日ネットワークス(タイランド)株式会社
朝日ネットワークスインドネシア株式会社
朝日ネットワークスフィリピン株式会社
- 第65回 海外駐在員(非居住者)に支払う永年勤続表彰金
- 第64回 【インドネシア】給与にかかる月次源泉徴収(PPH21)の計算方法の改定
- 第63回 【タイ】ショッピング控除:2024年度・最大5万バーツの個人・所得控除について
- 第62回 【PHILIPPINES】フィリピン中央銀行への投資登録について
- 第61回 海外勤務者の帰国直後の国内払い賞与に係る源泉徴収税額の計算
- 第60回 【タイ】ショッピング控除:2023 年度、最大4 万バーツの個人・所得控除について
- 第59回 【PHILIPPINES】駐在員の確定申告
- 第58回 【PHILIPPINES】個人所得税の概要
- 第57回 外国人の厚生年金保険の脱退一時金にかかる税務
- 第56回 【インドネシア】【再延長】景気刺激策の期間延長
- 第55回 【PHILIPPINES】2022年戦略的投資優先計画(SIPP)
- 第54回 【PHILIPPINES】公共サービス法の改正
- 第53回 非居住者への支払に関する源泉徴収と非居住者であることの確認義務
- 第52回 【PHILIPPINES】第2回:法人設立・PEZA登録の流れ
- 第51回 【PHILIPPINES】第1回:PEZAの概要
- 第50回 【インドネシア】2022年度からのフリンジベネフィット課税の変更点について
- 第49回 【PHILIPPINES】小売自由化法の改正
- 第48回 【タイ】ショッピング控除:2022年度、3万バーツの個人・所得控除について
- 第47回 【インドネシア】規則改定・税務規定調和法による税制変更点のポイント
- 第46回 【インドネシア】【再改正】景気刺激策の対象企業の拡大
- 第45回 国内(ローカル)採用の外国人に支給するホームリーブ費用の課税関係
- 第44回 海外勤務者の出国時の年末調整
- 第43回 【PHILIPPINES】フィリピンでの商標登録
- 第42回 フィリピン中央銀行(BSP)外国為替規制の改正
- 第41回 【タイ】2021年タイ税務申告書のオンライン申告・納付期限の延長措置
- 第40回 【インドネシア】【規則改定・続報】2021年度 景気刺激策の減免税制度の再延長措置
- 第39回 非居住者または外国法人の源泉所得税等の納税証明書
- 第38回 【フィリピン】 租税条約適用申請手続の変更(RMO No.14-2021)
- 第37回 【タイ】2021年税務申告書の申告・納付期限の延長措置
- 第36回 海外駐在員(非居住者)の納税地
- 第35回 【インドネシア】規則改定・減免税制度の延長措置
- 第34回 【フィリピン】移転価格税制に関する申告書の追加ルール発表
- 第33回 内部監査入門 ー コロナ時代への対応編 – 後編
- 第32回 内部監査入門 ー コロナ時代への対応編 – 前編
- 第31回 【タイ】期限は年末まで!3万バーツまでの商品購入に係る、個人所得税の所得控除制度が施行されました
- 第30回 非居住者が受給する国外払い給与等の準確定申告(172条申告)
- 第29回 【続報・タイ】COVID-19・「歳入局長通達」中小企業における雇用維持支援策:人件費の追加2倍経費について
- 第28回 【再改正・インドネシア】景気刺激策のアップデート
- 第27回 【タイ】COVID-19・中小企業における雇用維持支援策:人件費の追加2倍経費について
- 第26回 フィリピンの移転価格税制に関する新しい申告書
- 第25回 【続報・インドネシア】景気刺激策のアップデート
- 第24回 フィリピンでの財務税務デュー・デリジェンス
- 第23回 海外駐在員が日本にある不動産の譲渡を行った場合の課税関係
- 第22回 海外送金と源泉徴収
- 第21回 海外在住の「非居住者」が受給する公的年金等に係る源泉徴収
- 第20回 【規則改定・インドネシア】景気刺激策第二弾の税務上の取り扱いについて
- 第19回 【続報5月5日・フィリピン】BIR最新の申告期限
- 第18回 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)による海外駐在員の一時帰国措置と個人所得税
- 第17回 【続報4月24日・タイ】新型コロナウィルス(COVID19)対策に関連するアップデート
- 第16回 【続報4月24日・タイ】新型コロナウィルス(COVID19)対策・就業関連Q&A アップデート
- 第15回 【続報4月14日・タイ】新型コロナウィルス(COVID19)対策に関連するアップデート・社会保険
- 第14回 【続報4月9日・タイ】新型コロナウィルス(COVID19)対策に関連するアップデート
- 第13回 【続報4月2日・タイ】新型コロナウィルス(COVID19)対策・就業関連Q&A
- 第12回 【速報4月2日・インドネシア】緊急事態政令について・法人所得税率の引き下げ
- 第11回 【続報3月30日・インドネシア】景気刺激策第二弾の税務上の取り扱いについて
- 第10回 【速報・タイ】新型コロナウィルス(COVID19)対策に関連するアップデート
- 第9回 【続報3月25日・フィリピン】新型コロナウイルス感染拡大対策「強化されたコミュニティ隔離」に対応したSEC・BIRへの提出期限の変更
- 第8回 【続報・フィリピン】新型コロナウイルス感染拡大対策「強化されたコミュニティ隔離」に対応したSEC・BIRへの提出期限の変更
- 第7回 【速報・フィリピン】新型コロナウイルス感染拡大対策「強化されたコミュニティ隔離」に対応したSEC・BIRへの提出期限の変更
- 第6回 【速報・インドネシア】景気刺激策第二弾および税務当局の窓口サービスの停止について
- 第5回 フィリピン駐在員給与に関する諸論点
- 第4回 【タイ】移転価格税制に係る関連者取引開示様式の公表
- 第3回 【インドネシア】サービスの輸出にかかるVAT0(ゼロ)%の範囲拡大について
- 第2回 【フィリピン】付加価値税(VAT)の還付申請に係る90日間の手続内容
- 第1回 【タイ】労働者保護法(Labour Protection Act)の改正について