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知恵の経営

第37回

外注先を思いやる上場企業

アタックスグループ(税理士法人、経営コンサルティング)  執筆

 

 新潟市南区にダイニチ工業がある。社員数は約500人の東証1部上場企業だ。主な事業は石油ファンヒーターや加湿器の製造で、ともに業界ではトップブランドである。

 中小企業の専門家である筆者が、なぜ同社を取り上げたかというと、大企業・上場企業でありながら、業績志向・自利志向の経営ではなく、幸せ志向・利他志向の経営を1964年の設立以来、愚直一途に実践している、いい企業だからだ。

 周知のように、わが国の自動車メーカーをはじめ大半の大企業生産システムは無倉庫・無在庫経営、「必要な商品を必要な数だけ必要な時に」、つまりジャストインタイム経営である。

 だが、世の中は天災地変などもあり理想どおりにはいかず、誰かが、とりわけ弱い立場にある企業が、在庫を肩代わりしているのが偽らざる事実だ。こうした中、業界の常識とは全く異なる外注政策を愚直に実践し、協力企業・外注企業から高い評価を受けているのが、ダイニチ工業である。

 同社の主力商品は、冬の季節商品である。春先や真夏に購入する顧客はほとんどいない。それゆえ、生産効率を考えれば、売れ始める秋口から冬にかけて集中生産すれば、多くの倉庫や多くの在庫を持たなくてもいいことになる。

 しかしながら、同社はこの季節商品を、1年通して平準生産している。全く売れない真夏にも、もしかしたら暖冬などで販売数量がダウンするかもしれないのに、黙々と毎月一定量を作り続けている。

 その最大の理由が見事である。吉井久夫社長は「協力企業・外注企業さんへの配慮です」と明言する。

 吉井社長は「当社の社員数は約500人、協力企業・外注企業で当社の部品を毎日生産してくれている協力企業・外注企業の社員数は約500人。彼ら彼女たちの協力がなければ当社は存在できない。また協力企業・外注企業は総じて規模が小さく、当社への取引依存度が高い企業が多く、こうした企業に冬場だけ仕事を発注するから、いい商品を作ってくれ…は正しくないし、不自然だ…」とまで言ってくれた。

 9月上旬に同社を久方ぶりに訪れた。北海道などへの出荷がスタートしたとはいえ、相変わらず工場や倉庫には、高い天井に届かんばかりに製品が山積されていた。

<執筆>

法政大学大学院政策創造研究科教授 アタックスグループ顧問・坂本光司

2015年9月23日「フジサンケイビジネスアイ」掲載


 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


Webサイト:アタックスグループ

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