知恵の経営

第53回

一流調理人が認める茶そば

アタックスグループ 2016年1月13日
 
 独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となって高収益を獲得・維持している中小企業を紹介している。今回は日本一の茶の産地、静岡県にあって茶そばにこだわる麺類製造・卸、池島フーズ(浜松市浜北区)の池クジラぶりを見ていきたい。

 麺類は生麺、乾麺、即席麺、マカロニ類に分類される。市場は成熟化し、製品の多様化・高付加価値化の競争が激しく商品開発力が優劣を決する。市場規模の大きい即席麺、マカロニ類は大手ブランドで占められ、生麺、乾麺は地域の名産品として比較的小規模な事業者が生産し、市場は二極化している。

 同社は1877年創業の老舗。当初は米穀を扱い、戦後の食糧難時代にそうめん・冷麦などの麺製造を始めた。現在は乾麺100%。プロの調理人たちから支持される茶そばは有名ホテルや機内食、高級旅館、割烹(かっぽう)・料亭などで使われている。シェアは50%を超え、輸出も20カ国上に及ぶ。乾麺市場で「一流の調理人に認められる茶そば」という小さな“池”の圧倒的な“クジラ”なのだ。

 決して順風満帆だったわけではなく、5代目の社長だった池島義幸会長は2度も大きな方向転換に追い込まれた。最初は1961年、売り上げの80%を占めた即席麺からの撤退、2度目は80年にゆで麺をやめた。共に後発の大手の価格競争に巻き込まれた。これが「大手とは戦わない、価格競争はしない、他と同じものは作らない」という意思決定をさせた。
 目を付けたのが静岡県産の抹茶を使ったブランド力が生かせる茶そば。「川の右岸では熾烈(しれつ)な争いをしていたが、目を左岸に向けると競争相手のいない茶そばがあった」(池島会長)。茶そばメーカーは数社しかなく市場は小さいものの顧客の料亭やホテルの調理人は価格より品質を重視した。「敵のいない小さな市場」だった。

 同社が生み出す価値は、商品を茶そばに絞り込み、そのターゲットを料亭やホテルの一流調理人と決め、全国の調理人たちと年間150回ほど会合を持って要望や感想、意見を直接聞き、彼らが満足できる商品開発に徹底したことで生まれた。品質の高さに徹底的にこだわり、手間暇をかけ手打ちと同等のおいしさを乾麺でも出している。

 同社が提供する価値は、競合のない市場に位置取りし、一流調理人の要望を徹底的に反映して開発をしたことで生まれた。

 競合と戦うことなく断トツの価値を社会に生み出して「池のクジラ」になったのである。


<執筆>

アタックスグループ主席コンサルタント・西浦道明

2016年1月13日「フジサンケイビジネスアイ」掲載

 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。

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