知恵の経営

第79回

老舗が作る高級ビニール傘

アタックスグループ 2016年8月3日
 
 JR上野駅(東京都台東区)から車で6分ほど走った裏通りの一角に、看板がなければ通り過ぎてしまいそうな小さな企業がある。ホワイトローズ(同)の本社だ。4坪(約13平方メートル)くらいの事務所に入ると、あらゆる場所に多種多様な雨傘が吊(つ)り下げられている。

 正社員3人、パート6人の規模ながら、同社こそ世界で初めてビニール傘を開発した企業だ。創業は今から約300年前の1723年、須藤宰社長は10代目の当主である。

 もともとは布の傘にビニールを張っただけの傘メーカーだったが、その後、苦労に苦労を重ねて先代社長が現在のビニール傘の原型を開発した。

 わが国の傘産業はかつて、世界に輸出していたこともあったが、現在は実質ゼロどころか、国内販売の99%はアジアの国々からの輸入傘である。

 それもそのはず、キヨスクなどで販売されているビニール傘の大半は、数百円の低価格商品で、こうした商品と競合する傘を国内で生産していたら、社員や社外社員(仕入れ先や外注先の社員)の幸せを実現することなどは到底、不可能だからである。
このため当然とはいえ、同社が生産するビニール傘はすべて高価格帯の「メイド・イン・ジャパン」「手づくり」である。ちなみに年間生産本数は1000~1500本、売れ筋価格は1本5000~1万円だ。

 生産の90%はオリジナル傘、10%は特注で、皇后陛下が行事で使用される傘をはじめ、お坊さんが身体をすっぽり覆うような大きな傘、選挙遊説中の候補者が差す傘などだ。

 オリジナル傘は多種多様だが代表格は「縁結(えんゆう)」というブランド名の8640円(税抜き)のビニール傘である。

 ちなみに筆者もこの傘を購入して持っているが、サイズは一般的な傘より10センチから20センチほど大きいだけでなく、秒速30メートルの風にも耐えられる構造である。グラスファイバー製の8本の骨で支えているうえに1カ所穴が開いていて、吹き上げてくる風を外側に逃してくれるからだ。

 傘に穴が開いていれば、「上から雨水が流れてくるのではないか…」と言われそうであるが心配は無用である。

 というのは、その穴には「逆止弁」が付いており、傘の中の風は通すが、外からの雨水は通さない構造だからだ。

 「ここに来るまで何回、廃業を考えたかわからないが、ようやく手応えを感じる毎日です…」と自信に満ち満ちた顔で須藤社長は話してくれた。
<執筆>
法政大学大学院政策創造研究科教授・アタックスグループ顧問 坂本光司
2016年8月3日フジサンケイビジネスアイ掲載






 
 

プロフィール

アタックスグループ

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