知恵の経営

第59回

人口減少時代の「人財育成」

アタックスグループ 2016年3月2日
 

 1カ月ほど前、ある私立大学の教授から「今、大学はどうなっているのか」という話を聞く機会があった。中卒から大卒まで新社会人になる人数は、大卒が一番多い。大学に入りたければ誰もが入学できる。偏差値の高い上位校を別にすれば入試形態も多様化し、受験勉強なし(AO入試)で入学する学生も多いようで基礎学力と学習意識の低下は著しい。教員も昇進基準が研究業績に偏り、教育や管理運営に頑張るインセンティブはわかない。ざっとこんな大学の現状を話してくれた。

 教授の勤める大学では人口減少社会で生き残るために改革に着手し、着実に成果を上げているという。重視しているのが入学後の初年度教育で少人数ゼミ形式の必修科目、スタートアップセミナーを全学部に導入し、新入生に大学4年間をどう有意義に過ごすかを伝えることだ。

 就活に入る際のキャリア教育はグループワークを主体とする「自己開拓」科目と、働く意味を考え、社会の仕組みを学ぶ「社会人基礎知識」科目を始めている。教員の質を向上させる取り組みも言及していたが、筆者には「教員と学生の信頼関係が一番重要」という言葉が心に残った。

 これは企業経営にも通じる。人口減少社会で企業の採用はますます厳しくなった。新人は偏差値の高い学生より、会社に溶け込める学生を採用し、教育し、定着させる経営環境をつくることが重要となる。

 経営トップは自社の存在価値をビジョンとして示し、中堅幹部と一緒にその実現の戦略を練る。その一環として人材の採用・育成・定着を長期・短期の両面で考える。優秀な人材を集められる会社は少数だ。一通りの社会常識のある人材を採用し、会社に合った“人財”に育て上げることが重要で、社員の質の底上げによる団体戦に強い会社を目指すべきだろう。

 職場の先輩・中堅社員には人材育成は重要な仕事という意識を持ってもらいたい。中堅社員が毎月、人材育成会議を開き、入社3年目までの社員を中心に期待通り成長しているかを検討したり、新入社員に先輩がメンターとして相談に乗るなど、若手の成長を支援する会社が人を大切にする良い会社だろう。

 米国の教育学者、ウィリアム・ウオードは「凡庸な教師は語る。良い教師は説明をする。優れた教師は範となる。偉大な教師は内なる心に火をつける」と言った。筆者の持論の一つは「優れた経営者は優れた教師である」だ。経営者は人材育成でもリーダーシップをとらなければならない。一番重要なことは経営者自らが「内なる心に火をつける」存在になることだろう。冒頭の教授の「教育の効果は教員と学生の信頼関係」とともに肝に銘じて欲しい。

<執筆>

 アタックスグループ主席コンサルタント・丸山弘昭

2016年3月2日 フジサンケイビジネスアイ掲載  
 
 

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アタックスグループ

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