知恵の経営

第64回

地域雇用守るため自社買収

アタックスグループ 2016年4月6日
 
 HITOYOSHI(熊本県人吉市)という高級ドレスシャツの生産・販売を行う中小企業がある。製品の90%は国内外のブランドメーカーに対するOEM(相手先ブランドによる生産)。残りは自社ブランドで、高級百貨店で販売している。社員数は110人。100人は本社工場、10人は東京支店(東京・南青山)に勤めている。

 設立は2009年。もともと上場アパレルメーカーの全額出資生産子会社だったが本社は09年に倒産してしまった。通常なら工場を閉鎖するが、当時生産子会社の社長を務めていた現工場長の竹長一幸氏や、本社の取締役だった現社長の吉國武氏らが中心となって地域雇用を守るため、事情を察したある投資家の支援を得ながら、経営陣による自社買収(MBO)で立ち上げた受け皿会社だった。

 当時、大半のシャツメーカーは、生産や調達の海外現地化を拡大していたが、竹長氏と吉國氏は限界を感じ、あえて「メード・イン・ジャパン」にこだわる戦略をとった。このため、生地はもとよりボタンもプラスチックではなく貝を使った一級の素材を使用し、手作りで、かつ多品種小ロット、つまり「少々高くてもいいシャツを着たい…」層にターゲットを絞った。

 生産や販売も余裕がない中、在庫を積み増してしまう見込み生産ではなく、ブランドメーカーからのOEM生産や国内高級百貨店からの受注生産、つまり「必ず買ってくれる価値あるシャツづくり」にこだわった。

 ちなみに、商品アイテムは数百以上あるが、その大半の生産ロットは5枚から20枚程度、中には1枚物もある。気になる価格だが、市販では1万円から2万円のシャツが多いという。

 ともあれ、こうした新たな経営戦略が市場の高い評価を受けることに成功し、業績は右肩上がりで伸びている。

 社員数もピーク時の150人から倒産直前には70人にまで減員したが、現在は110人に増加し、地域雇用を下支えしている。

 先日、同社の隣にある中小企業大学校人吉校での講義のため人吉に行く機会があり、同社を訪問し、竹長工場長の案内で工場内を見学させてもらった。

 空調が効いた明るく美しい工場内では、約100人の社員(90%は女性)が、縫製作業や裁断作業をしていた。正直、アジアの企業ならともかく、これほど多くの女性社員がミシンを踏む光景を、国内では久方ぶりに見た。


<執筆> 
法政大学大学院政策創造研究科教授 アタックスグループ顧問・坂本光司

2016年4月6日 「フジサンケイビジネスアイ」掲載

 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。

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