知恵の経営

第104回

「面倒くさい」を解決する

アタックスグループ(税理士法人、経営コンサルティング)  執筆

 
 独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となって高収益を獲得・維持している中堅企業を紹介している。今回は印刷を中心に総合グラフィックスサービスを提供する水上印刷(東京都新宿区)の池クジラぶりを見ていく。

 1946年、活版印刷業として創業。先代社長の水上光啓氏は88年に就任し、「単なる『印刷』会社ではなく『プロダクト&サービス』で顧客のあらゆる業務課題を解決する」というビジョンを掲げ、「フルサービス提供」の基盤を築いた。

 まず、取り組んだのは製品による差別化だ。国民の6割が保有するライセンスカード印刷を自社開発。さらに全世界の複写機メーカーの複写機、プリンターの基準となるテストシートの作成を一手に引き受け、シェアは世界で90%を超える。同社なくして複写機は出荷できないと言えるほど差別化を図った。

 次に「お客さまの面倒くさい」を解決するフルサービスに取り組んだ。新しいビジネスモデルを海外企業に求め、数々のモデルをいち早く取り込んだ。企業視察は、社長一人ではなく数人から十数人の社員を同行。多くの目線で新モデルを確め、共有し合うため、導入を決めると一挙に取り組みが進む。

 水上氏はマーケティング、クリエイティブ、システム、ロジスティックスなどをトータルでオペレーションし、「お客さまにとって面倒くさい一連のプロセスをすべて引き受けることによる合理化」に顧客への提供価値を発見した。「何でもできます」と言ってしまう器用貧乏なワンストップサービスとは一線を画している。

 同社を「お客さまの面倒くさいを解決する会社」と再定義し、顧客のかゆいところに手が届く提案型企業を目指した。これには営業担当者が顧客ごとに異なる業務上の困りごとや課題を見つけられるかが生命線となる。それを可能にしたのは、人づくり・教育体制のベースに、よい人財が集まる環境をさらに整備し、自社での人づくりに集中特化したからだ。

 「日本一勉強する会社になろう」を合言葉に、水上氏や2年前に就任した河合克也社長とともに全社員が「社員教育」に徹底的に取り組み、所定内労働時間の10%、年200時間を教育に費やす。2016年に社内講師陣による社内教育システムというコンセプトのもと、講師と受講生が双方向で学ぶ教育機関「MIC・ACADEMY」を社内に開校。講義は経営、ビジネス実務、人材開発、マーケティングなど多岐にわたり、その数は130を超える。

 今では印刷の売上高は5~6割にすぎず、デザインが1割、フルフィルメントが3割を占め、売上高営業利益率10%以上の会社に成長した。顧客のかゆいところに手の届く、フルサービスを提供する提案型印刷業という池を創りあげ、その池クジラとなっている。

<執筆>
アタックスグループ主席コンサルタント・西浦道明
2017年2月15日フジサンケイビジネスアイ掲載


 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


Webサイト:アタックスグループ

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