知恵の経営

第185回

お好み焼きソースで新市場

アタックスグループ(税理士法人、経営コンサルティング)  執筆

 
独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となって高収益を維持している企業を紹介している。今回は、ソース、酢、たれ、その他調味料の開発、製造、販売を行うオタフクソース(広島市西区)の池クジラぶりを見ていきたい。

同社は1922年の創業で、38年に醸造酢の製造を開始したが、45年の広島原爆投下で全焼。50年に自社製ウスターソースを開発し、「お多福ウスターソース」を発売した。ただメーカーとしては後発で、競合も多く苦戦が続いた。そこで直接、屋台や飲食店を訪問し、困りごとのヒアリングを重ねた。

たまたま訪れたお好み焼き屋で、企業の方向性を決めるきっかけを得る。当時はウスターソースが主流で、お好み焼きにも当然ぬられていた。店主は「ウスターソースはサラサラで鉄板に流れ落ち、焦げて臭くなってしまう」と悩みを打ち明けた。数軒回ったが、皆、同様の悩みを抱えていた。これをきっかけに試行錯誤を重ねて誕生したのが、52年に完成した「お好み焼用ソース」(現・お好みソース)だ。

お好み焼きに合うようにつくられた専用ソースの最大の特徴は「とろみ」だ。これまでのウスターソースにはなかった「粘度」を取り入れたのだ。お好み焼きから流れ落ちにくく、具材ともよく絡む、お好み焼きとの相性の良い。

当初はウスターソースが主流ということもあって「こんなドロドロのソースは気持ちが悪い」「本当においしいの」などといわれたが、お好み焼きに合うとろみや、まろやかな味が受け、徐々に世の中に広まった。

ソースを拡販するため、社外だけでなく社内でも、いくつかの需要拡大策を実行した。

まず使ってもらう店舗を増やすために、お好み焼きの焼き方のコツから、開業への流れや必要な資金など店舗マネジメントまで指導する「開業サポート」を立ち上げた。

社内向けには、社員がお好み焼きの知識や技術を習得するための社内資格「お好み焼士」制度を導入。さらに、日本全国・世界へとお好み焼きを広める部署「お好み焼課」を立ち上げた。2008年6月には「Wood Egg お好み焼館」をオープンし、「お好み焼き教室」やお好み焼きの歴史を学べる「おこのミュージアム」、お好み焼き店の開業を支援する「研修センター」を備え、需要開拓を行っている。

オタフクソースは、ウスターソースが主流だった戦後のソース業界の中で、利用者の隠れたニーズ・ウオンツを聞き出し、それを形にすることで、これまで世の中になかったお好み焼き専用ソースを完成させた。その後も、開業サポートと需要開拓を続けて、「お好み焼きにはオタフクソース」という独自の市場(池)を築き、その巨大なクジラとなっている。

<執筆>
アタックスグループ主席コンサルタント・西浦道明

2019年2月5日 フジサンケイビジネスアイ掲載
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


Webサイト:アタックスグループ

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