知恵の経営

第216回

中小特化のビジネススクール開講に見る、その重要性

アタックスグループ(税理士法人、経営コンサルティング)  執筆

 
来年4月より、日本初の「中小企業人本経営(EMBA)プログラム1年コース」が、千葉商科大学大学院商学研究科と筆者が会長を務める人を大切にする経営学会とが共同し、開講することが決定した。

開講の目的は、大きく2つある。1つは、中小企業経営に特化したビジネススクールがわが国には存在しないからである。大企業と中小企業の最大の違いは、規模ではなく、生きる世界・生きる使命が違う。あえて海の魚に例えれば、大企業は深みで泳ぐクジラのような生き物であり、一方、中小企業は浅瀬で泳ぐ魚ともいえる。

それゆえ、深みで生きるべきクジラが浅瀬に入り込むと引き返すこともできず命を失う。逆に中小企業が浅瀬は嫌いと、深みに行けば、多くの場合、クジラの餌になるか、クジラの「しもべ」になるのは当然である。

しかしながら、あえて言えば、大半の大学や大学院ビジネススクールでの教育は、僅か0.3%しかない経営管理論を中心とした大企業向けの経営学といっても過言ではない。つまり、99.7%を占める中小企業のあるべき姿である、浪花節的・大家族的経営学ではない。このことが、右肩上がり経済社会が終焉(しゅうえん)した、ここ数十年間の中小企業の激減の要因の一つでもある。

そこで今回、かねてより、このことの重要性を説いていた人を大切にする経営学会と、中小企業にとりわけ思いの強い千葉商科大学とが連携し、日本初の中小企業経営に特化したプログラムを開講することにしたのである

もう一つは、企業経営の最大の目的・使命である関係する人々の幸せのための経営学を教え学ぶことのできるビジネススクールがわが国にはほとんど存在していないからである。

企業経営の最大の使命・目的は、関係する人々(5人)の幸せの追求・実現であり、業績や勝ち負けは手段や結果に過ぎない。しかしながら、大企業・中小企業を問わず、多くの企業は、手段である業績や勝ち負け、あるいは、結果を、まるで企業経営の目的にしたような経営をしている。

目的である人間をコスト・原材料・景気の調整弁といったように評価・位置付けをすると、リストラをしたり、顧客に平気で嘘をついたり、下請けいじめをするといったことが、逆に正しくなってしまう。

わが国の多くの労働者が、近年、働き甲斐や、組織愛を感じていないのも、ここにこそ最大の間違いがあるといえる。こうした状況を踏まえ、両機関では、人を大切にする価値ある中小企業の飛躍的増加に資するため、開講することにしたのである。ぜひ多くの方々に学んでほしい。

<執筆>
経営学者・元法政大学大学院教授 人を大切にする経営学会会長・坂本光司
2019年10月23日フジサンケイビジネスアイ掲載

 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


Webサイト:アタックスグループ

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