知恵の経営

第109回

明太子製法公開で市場拡大

アタックスグループ(税理士法人、経営コンサルティング)  執筆

 
 独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅企業を紹介している。今回は、明太子の製造・販売、各種食料品の卸・小売りのふくや(福岡市博多区)の池クジラぶりを見ていきたい。

 同社は1948年、韓国の釜山から引き揚げた川原俊夫氏が福岡で創業し、翌49年1月10日、日本で初めて韓国風明太子の製造・販売を開始した。ところが翌日、購入客から「辛すぎる」とクレームが入った。韓国の辛子文化は当時の日本人の口には合わなかったようだ。

 その後、川原氏はすぐさま味を変えようと決断し、味の改革に取り組んだが、本当に納得できる味を完成させるまでには10年余りかかった。

 60年ごろになると博多明太子の評判が口コミで広がり始め、地元よりむしろ東京や大阪などからの出張者の間に人気が広がった。そして75年3月に博多駅まで新幹線が延びると、福岡の名産として一気に全国に広まった。

 こうなると、「自分のところに明太子を卸してほしい」という声が上がる一方、「これだけの人気商品なのだから特許を取るべきだ」と助言してくれる人も現れた。しかし川原氏は「明太子は高級珍味ではなく、家庭の総菜。その製法を独占すべきでない」との考えから、特許を申請しなかった。

 また、当時は冷凍技術が未熟で卸で流通させると値段が高くなり、消費者に安くて新鮮な明太子を届けられなくなるため、直接販売にこだわった。その結果、川原氏は、卸を依頼してきた業者に、次々とその製法を公開していった。

 ただ一つだけ公開しないものがあった。それは明太子の「味」を決める調味液の配合である。この配合を知っているのは、川原氏の妻と息子、まさに親子相伝。人間には好みがあり、いろいろな味があった方が結果的に市場が拡大するとの考え方があったからだ。いま同業他社としのぎを削って競い合っているのは、まさにこの明太子の「味」である。

 川原氏が製法を公開したことで150社以上のメーカーが明太子の製造販売に参入した。あるメーカーはデパートに、別のメーカーは量販店に出荷した。こうして明太子市場は全国的に成長し、市場規模は1300億円に達している。業界ナンバーワンのシェアを誇るふくやの売上高は2015年度で149億円だから、製法公開による市場の広がりはすさまじい。

 同社は生で“たらこ”を食べる習慣がなかった日本で明太子を食卓の定番の総菜、土産品として定着させることに成功した。製法を公開して明太子市場は巨大になったが、ふくやは独自の個性的な味をこよなく愛する消費者たち(池)にとっては「池クジラ」となっている。

<執筆>
アタックスグループ主席コンサルタント・西浦道明

2017年3月22日フジサンケイビジネスアイ掲載

 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


Webサイト:アタックスグループ

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