知恵の経営

第209回

「社員第一」に中国人も変化

アタックスグループ(税理士法人、経営コンサルティング)  執筆

 
ここ数年、アジア、とりわけ中国から「社員第一主義経営」を学びに、わざわざ日本に来る経営者が多い。その行動パターンは、筆者が紹介した「社員第一主義経営」を実践する中小企業の現地視察と筆者からの講話である。かつても、経営学を学びに来日する中国人経営者は多かったが、その行動パターンは様変わりである。

いつぞや、来日された何人かの経営者に「なぜ、日本を代表する著名な会社を見ないのですか」とか、「なぜ、マーケティング論やイノベーション論を研究し、教えている著名教授らの話を聞かないのですか」と、質問をしたことがある。

その質問に、多くの中国人経営者は次のように答えた。

「数年前までは、多くの中国人経営者の羨望の的は、日本の巨大な著名企業でした。また学びたい内容も主として大企業の経営管理システムでした。しかしながら、日本の著名な企業が行っている経営の考え方・進め方を導入すればするほど、当初こそ、効果が一部みられたが、その後はどんどん会社の雰囲気が悪化していき、セクショナリズムや自己中心主義がはびこっていってしまいました」

「生産性は上がるどころか、逆に大幅に低下してしまいました。そればかりか、社員の離職率もこれまで以上に高まってしまいました。そうした中、筆者の中国語で翻訳された本を読んだのです」と言った。

講義では、毎回、経営戦略といった経営手段をほとんど話さず、講義の大半の時間は、そもそも論、つまり、企業経営のあり方・進め方を話している。通訳を含め、毎回3時間から4時間程度の講義になるが、その間の学ぶ態度や、その後の質問は、多くの日本人が忘れてしまったような、言動である。

また、その感想文の大半は「自分の会社がなぜうまくいっていないかの理由がよく分かりました。そのほとんど全ては自分の経営の考え方・進め方にありました。とりわけ頑張ってくれている社員や協力企業への愛情が決定的に不足していました。いつの日か、アドバイスに来てください」といった内容である。

業績や規模ではなく、人をトコトン大切にする正しい経営に大きくかじを切ろうとする中国人経営者の近年の言動を見ると、依然、本気で変わろうとしない、経営者が君臨するわが国企業の未来が心配でならない。

<執筆>
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本光司
2019年8月27日フジサンケイビジネスアイ掲載
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


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