知恵の経営

第97回

本物にこだわり商品開発

アタックスグループ(税理士法人、経営コンサルティング)  執筆

 
 独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となって高収益を獲得・維持している中堅企業を紹介している。今回は洋菓子の製造販売を行うケーキハウス・ツマガリ(兵庫県西宮市)の池クジラぶりを見ていきたい。

 津曲孝社長は1972年、大手洋菓子メーカーに就職。26歳のとき洋菓子の本場スイスで修業した際、そこで初めて食べた洋菓子の味の素晴らしさに驚いた。ごみ箱に捨てられていた材料袋から、素材がいかに厳選されたものかを知り、レシピから素材の良さを生かすため、作り方をいかに改良し続けているかを学んだ。その後、子会社の社長を任されたが、そこでジレンマにぶつかる。大量生産方式で利益を追求しなければならず、高価な食材を使うことは許されない。「高価でも、自分の目と舌で納得したいい素材を世界中から仕入れたい」「お菓子は人の口に入るもの。お客さまの命を預かっていることを真剣に心に刻み、おいしさが五臓六腑に染み渡るものを作りたい」と強く思うようになり、87年に創業した。

 最高の素材へのこだわりを紹介すると、人気商品で1日1000個以上売れるシュークリームに使う牛乳は、岩手の自然放牧牛に限定している。ストレスなく育てられた牛からは、1日に15リットルほどしか取れない。仕入れ値は通常の3倍近い1リットル500円と高額だ。ほかにもバターは北海道十勝産のオリジナル発酵バター、砂糖はアルゼンチン産のオーガニックシュガーを使う。作り方もクリームの味と香りを損なわないよう、機械ではなく手作業だ。クリームを作る鍋は底を削らないよう木べらでかき交ぜ、金属の味が移らないようにしている。

 素材にこだわるケーキはたちまち評判となり、店には行列ができた。しかし、素材に売値の3割という業界常識を無視し、4割以上かけた。おいしいものは作れたが利益が上がらず、店は存続の危機を迎えた。津曲社長は悩み続けるうち、たまたま見かけた宅配便から「ギフト用の焼き菓子」がひらめき、生ケーキと同じ材料で贅沢(ぜいたく)な焼き菓子を作った。すると日持ちする上に手間が省け材料にこだわっても利益が見込めるヒット商品になった。日持ちするからといって作り置きせず、すべて注文生産であるため、在庫を抱えることなく、本当においしいものを届けることができている。

 「『作る』と『売る』のバランスが崩れるとおいしい洋菓子は作れない。お客さまから求められる分だけしか作らない。洋菓子と日々向き合い、改良し続けるところに成長がある」と津曲社長は話す。

 ケーキハウス・ツマガリの工場は本店のまわりだけにあり、「売れる」分だけ「作る」ことで、値段は少し高いが、厳選素材を使ったこれまでにないおいしい洋菓子店という池を創り、そのクジラとなっている。
<執筆>
アタックスグループ主席コンサルタント・西浦道明
2016年12月21日フジサンケイビジネスアイ掲載

 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


Webサイト:アタックスグループ

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