知恵の経営

第71回

事業「真の目的」は何か

アタックスグループ(税理士法人、経営コンサルティング)  執筆

 
 伊那食品工業(長野県伊那市)を先月、訪れた。1958年に設立された業務用・家庭用寒天の製造販売を手掛ける。業務用では国内シェア80%。家庭用は「かんてんぱぱ」のブランドで通信販売に加え、北海道から九州まで13カ所の事業所に併設された、かんてんぱぱショップで、多くのファンに直接販売している。

 筆者が会長を務めるロータリークラブ(RC)の会員向け活動として、RC会員である同社の塚越寛会長から経営を学ぶことを企画した。塚越会長は58年、業績不振だった同社に21歳で社長代行として出向、年商175億円(2014年度)の会社に成長させた。社員は500人で、離職率はゼロ。社員の幸せを第一に考える経営を実践し、「人を大切にする日本的経営」の模範である。

 塚越会長は「経営は働く人々の幸せのためにある」「利益は手段で、利益を目的とした経営は間違いである」という強い信念をもつ。利益は人間の体から出る「うんち」。健康であればきちんと「うんち」が出るように健全な経営であれば「利益」は自然と出るという。自らの野心は「社員を一人もリストラしない、人のよい商売をしても事業は存続できるという証明をすること」で、実現している。

 自らの経営を「年輪経営」と表し、会社案内には「年輪は、毎年必ず一つ増します。大きくなっても同じように伸びようとする人間がつくる会社と違い、木は大きくなれば、無理な成長をすることなく、確実に年輪を、一つ一つ増やしていきます」とある。急成長をリスクと考え、毎年着実に成長することが経営の王道であると社内外に表明している。

 また、二宮尊徳の「遠きをはかる者は富み、近くをはかる者は貧す」という教えに学び「遠きをはかる」経営を戦略の柱としている。常に長期的視点に立った経営の重要性を気付かせてくれる。塚越会長が実践する事業の永続的発展の基本となる「直接販売と研究開発」という2つの基本方針は、経営戦略論で語ると極めて理にかなう。

 同社内を案内してくれた女性社員が、落ちていた枯れ葉をさりげなく拾いゴミ箱へ入れるしぐさや、前向き駐車で後ろがきちんとそろっていた社員駐車場、そして塚越会長が板書した「忘己利他」つまり「利他の心を持つ」と、「優秀な人」つまり「優しさに秀いでている人」は信じてよい言葉であるという説明と、にこやかな表情でさりげなく「経営者には商人としてのセンスが必要」と語った言葉が印象に残った。

 トヨタ自動車の豊田章男社長が「年輪経営」を知り、グループ各社のトップに学ぶよう情報発信していることも付け加えておく。
 <執筆>
 アタックスグループ主席コンサルタント・丸山弘昭
 
 2016年5月25日 「フジサンケイビジネスアイ」掲載
 
 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


Webサイト:アタックスグループ

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