知恵の経営

第58回

精神障害者と社会「つなぐ」

アタックスグループ(税理士法人、経営コンサルティング)  執筆

 

 今回は「精神医療福祉の経験と出版の技能を生かして、地域に、愛され役立つ会社作りを目指します」を理念に掲げる、ラグーナ出版(鹿児島市)を紹介する。鹿児島市の精神科病院で精神保健福祉士だった川畑善博社長と精神科医の森越まや会長が中心となり精神障害体験者、医師、精神科ソーシャルワーカー(PSW)、看護師が集まって企画、編集した文芸誌『シナプスの笑い』創刊を機に、NPO法人「精神をつなぐ・ラグーナ」を2006年に設立。これが事業を始めるきっかけになった。

 『シナプスの笑い』の活動を発展させるためにNPO法人を解消し、多くの精神障害者とともに08年、株式会社として「ラグーナ」を設立した。

 社名の「ラグーナ」はイタリア語で干潟のこと。「つながり」という意味もある。

 川畑社長が若い頃イタリア旅行で目にしたラグーナが強く印象に残り、社名にしたという。イタリアには大小いくつもの島々があり、どの島にもそれぞれ特徴があると感じた。また、旅行中に現地の人から「昔、島々は一つにつながっていた」と聞いた。

 「こんなに特異性がありながら、もともとは一つにつながっていた。これは診てきた精神科の患者さんも同じだ。個性は強いけれど、深い部分では一つにつながることができるのでは。社会復帰させてあげられるのでは」と考えるようになった。そこから障害者と社会、障害者と健常者、障害者同士とそれぞれのつながりをつくることを自身の使命としていった。

 川畑社長と森越会長は、精神障害を治すには、社会で活動すること、特に働くことが、最も効果的な治療方法になると感じていた。働くの語源は「傍」(はた)を楽にすることで、「傍」は他者のこと。他者を楽にすること、他者の負担を軽くすることという意味がある。

 当初、障害を持つ社員は毎日出社できない、長い時間勤務することができない、といった問題もあったが、週に2、3回ずつ勤務しながら、仕事を覚え、フルタイムで勤務ができる体力をつけるようにしていった。

 現在では仕事を覚え、体力もつき、また仕事内容も、各人の強み、今までやってきたことで一番楽しかったこと、一番できることなどを聞き、会社都合ではなく、本人のできることを生かすようにしている。

 自分の仕事のやりがいと他者の役に立っているという充実感で、多くの障害を持つ社員が、フルタイムで働くまでになっている。

<執筆> 
アタックス研究員・坂本洋介

2016年2月24日 フジサンケイビジネスアイ掲載

 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


Webサイト:アタックスグループ

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