知恵の経営

第126回

「働きがいある会社」づくり

アタックスグループ(税理士法人、経営コンサルティング)  執筆

 
あるセミナーで、東レの日覚昭廣社長による講演「時流に迎合せず、時代に適応する」を聞いた。一番関心を持ったのは米国流株主資本主義に対する日本的経営の提唱だ。日覚氏は「公益資本主義」という言葉で表現した。会社は、第一に働く社員のためにある。次に顧客に価値を提供するためにある。次に地域社会への貢献、そして株主に貢献するという。

一方、米国流経営の目的は株主への利益還元であり、社員(労働者)は利益を獲得するためのコスト(変動費)と考える。経営者の役割は利益を上げ、株主に配当を出し、企業価値を上げること。短期的な利益獲得に焦点を合わせ、退任後の長期的展望に立った投資や研究・技術開発は二の次だ。

日覚氏は短期思考の経営では長期的に企業の発展にならないと強く主張した。恐らく四半期報告開示には否定的だろう。

東レの長期的視点に立った炭素繊維開発を事例として「社会的に価値があるものには必ず市場もある」と言い切った。米国流短期思考では間違いなく切り捨てられる事業だろう。

ところで現代はインターネットとりわけスマートフォンを中心とした新情報革命の真っただ中にあり、変化に取り残された企業は衰退する。経営学者P・ドラッカーによれば、企業の目的は「顧客の創造である」。変化する環境に合わせて事業を変革し、顧客を創造し続けることのみが企業の存続を保証し、顧客創造はマーケティング活動とイノベーションで実現できる。マーケティング活動は顧客が何を求めているかを探る行為で、イノベーションは良い商品を提供する方法を実現する行為だ。このようなマーケティングとイノベーションによる顧客創造は長期的視点に立つ経営でなければ成功し難い。利益は行動の結果として得られるもので企業活動の目的ではない。
 
こう考えると短期的利益を追求する経営は長期的には認め難く、日覚氏が強く主張する公益資本主義に基づく日本的経営こそが21世紀の経営だと思う。

そしてマーケティングとイノベーションを行う主体は社員である。トヨタ自動車の強みは「現場力」。現場で働く人々の創意工夫によって絶えず改善がなされ良品廉価な製品がつくられるものづくりの現場の力だ。トヨタには、「ものづくりは人づくり」という共通言語がある。現場のマネジメントがOJT(職場内訓練)による人づくりを中心になされているといっても過言ではない。

日覚氏も東レは「人を基本とする経営」であり「工場は人間修養の場とする」「企業はものをつくるだけではなく、人をつくらねばならない」「人はバランスシートに載らない資産である」という先輩工場長の言葉を紹介した。

社員全員が自主的・能動的に働く環境整備「働きがいのある会社」づくりこそが経営者のなすべき最優先課題である。

<執筆>
アタックスグループ主席コンサルタント・丸山弘昭

2017年8月7日フジサンケイビジネスアイ掲載

 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


Webサイト:アタックスグループ

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