知恵の経営

第146回

事業承継に関する3つの質問

アタックスグループ(税理士法人、経営コンサルティング)  執筆

 
経営環境が激変する中で同族会社の事業を子供に承継するのは、正しい選択か考えてみたい。筆者は事業承継の相談を受けると次の3つの質問をする。

第1は「継がせるべき事業か」。変化の激しい時代は絶えず変革が必要になるが、将来の見通しがきくかどうか。「30年前の年齢で10億円あったとして今の事業を新たに始めるか」。答えが「他のことをしたい」なら子供には継がせないことだ。

第2は「後継者はいるか」。現経営者は自己の成長に合わせて事業を拡大し、手腕と事業規模のバランスがとれている。しかし、後継者は実力以上の事業を引き継ぐ。「この子なら」と思うなら早くから教育をして準備させることがベストだ。

第3は「会社は承継できる状態か」。将来性のある事業で技量が備わっている人物がいても環境が整わなければ承継は難しい。自社株を渡す相続対策に加え、経営そのものが上手にバトンタッチできるかが鍵だ。

1、2番目の答えは大変難しい。最終的には社長が事業の先行きを予測し、後継者の力量を判断することになる。しかし、3番目は容易だ。確かなことは後継者がリーダーシップを発揮しやすい「良き社風」と「経営管理のしくみ」を構築することである。

良き社風づくりは創業者が会社の存在価値を経営理念として定め、浸透させることだ。

経営の神様、松下幸之助氏も「正しい経営理念を持つことは事業経営で最も大事なこと」という。航海であれば理念は方向を示す「星」であり、経営では「星」を目指すビジョン・戦略の策定が大事だ。判断に迷ったときの指針にもなる。

社員が長期的に安心して働ける会社を目指すことも大切。京セラの創業者、稲盛和夫氏が団体交渉で考え付いた「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類社会の進歩発展に貢献すること」が良い手本だ。

経営管理のしくみもビジョン・戦略を実現する組織運営には欠かせない。(1)変化を考えて中期経営計画を策定(2)予算制度を確立しボトムップ・トップダウン両面から挑戦的目標を作成(3)月次決算制度を確立し、状況をタイムリーにチェック、未達の場合、対策を立案(4)貢献に報いる人事制度と社員が目標を持って仕事にチャレンジする目標管理制度の制定(5)社員の能力発揮を支援する教育制度構築-などだ。社長が全て判断しなくても組織が回る職務権限規定の整備運用、取締役会によるガバナンス強化と取締役間の情報共有、課題検討の場づくりにも力を注ぐべきだろう。

松下氏は「衆知経営」について「“衆知を集める”ということはきわめて大切だと考えている。(略)経営者としての主座というものをしっかり保ちつつ衆知を集めていくところに、本当に衆知は生きてくる」と語っている。

子供への事業承継で悩む経営者の参考になれば幸いである。

<執筆>
アタックスグループ主席コンサルタント・丸山弘昭

2018年1月22日フジサンケイビジネスアイ掲載
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


Webサイト:アタックスグループ

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