知恵の経営

第200回

斜陽産業でも異彩放つ企業、ダイニチ工業から考える

アタックスグループ(税理士法人、経営コンサルティング)  執筆

 
斜陽産業と呼ばれる業種がいくつか存在する。斜陽産業とは、需要が傾向的に減少している産業のことだ。よく、経営者の方と話をすると、「うちは斜陽産業だから…」「うちは構造的不況業種だから…」と嘆かれることが多い。しかし、筆者がこれまで見てきた企業の中には、下りのエスカレーターに乗っているといってもよい斜陽産業の中にあって、勢いよく駆け上がって、成長を遂げている企業も多い。
例えば、新潟市にあるダイニチ工業もそんな一社だ。同社は主に家庭用石油ファンヒーターの製造販売を行っている。普通に考えれば、各家庭にはエアコンが整備され、さらには温風機など新たな暖房機器が登場していることもあり、石油ファンヒーターに今後の需要の伸びがあるようには思えない。

しかし、成長性がないと思われてはいるが、石油ファンヒーターは右肩下がりの斜陽産業では決してない。近年、エアコンと併用するケースも多く、業界団体調査では、直近5年の年間出荷台数は200万~230万台で横ばいで推移している。ちなみに、2018年も220万台と、大きな伸びしろはないものの、安定推移している製品だ。

1980年の家庭用ファンヒーターの生産開始から累計生産3000万台を達成した際の新製品発表会の中で、同社の吉井久夫社長は「石油ファンヒーターは年間約200万台をコンスタントに出荷する市場だ。ニッチ市場になったが、そこでトップを維持していくには、同業他社との競争だけではなく、他の商品から石油ファンヒーターというカテゴリーのシェアが奪われないように考える必要がある」と話した。

続けて、「石油ファンヒーターは、まだ新機能を盛り込んだ商品開発ができており、エアコンに撲滅されるジャンルではなく、エアコンとすみ分けるジャンルになっている」と話す。

そこには吉井氏の「売れているのに、売れていないと思われている」。こうした世間の誤解を解きたいという思いと、その誤解が真実になりかねないという危機感があった。「市場は確かに安定しているが、業界トップであるわれわれが積極的に情報発信していかないことには、本当に衰退の道をたどりかねない」「市場は成熟しているが、製品はまだ成熟し切ってはいない」という決意が見えた。

このような事例は同社に限ったことではない。業務用・家庭用寒天メーカーの伊那食品工業や日本茶を中心とした日本の伝統食品の包装資材・パッケージの製造・販売を行う吉村なども斜陽産業といわれる業種にあっても成長を続けている。こういった企業の存在を知れば、斜陽産業だから、構造的不況業種だから仕方ないという理由は通用しないはずだ。

執筆:アタックス研究員・坂本洋介
2019年6月11日フジサンケイビジネスアイ掲載


 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


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