知恵の経営

第177回

頑張る下町の弁当屋さん 113年前に「升本酒屋店」としてスタート

アタックスグループ(税理士法人、経営コンサルティング)  執筆

 
JR総武線に乗り、亀戸駅で下車、そこから徒歩で5分ほど歩いた駅前商店街の一角に升本フーズの本社兼店舗がある。

主な事業は、仕出し弁当など各種弁当の製造販売をしているほか、料理店を本店近くでオープンしている。都内を中心に、約10店舗の直営店もあり、業界では知られた企業である。

同社の創業は古く、今から113年前の1905年、現社長の祖父が、亀戸で「升本酒屋店」としてスタートしている。戦後は、酒屋から料理店として再スタートした。

その後、火事で本店を全焼してしまうなど、幾多の苦難があったが、めげずに懸命に経営革新に努め、成長発展し、現在の社員数は約200人に達している。

同社の今日までの成長発展の要因は多々あるが、その最大の理由は、事業の急成長・急拡大を戒め、明確な経営理念を定め、この理念に基づいて、ぶれない経営を愚直一途にしてきたことにある。

同社の経営理念(基本理念)は、「一人のお客様への喜び、一人の社員の幸せ」だ。また、それに加えて、全社員が迷ったときの判断基準も明示している。それは次の4つである。

「善いか悪いか」

「公平であるか」

「真実であるか」

「そのことが人のためになるか」

世の中には経営理念に良いことが書かれているものの、内容が伴っていない企業は多い。しかし、升本フーズの理念経営は徹底している。

その一つが食材へのこだわりだ。同社が使用する大半の材料は、有機栽培の野菜である。また、肉・魚・乳・卵製品・そして精白糖などは一切使用せず、素材そのもののおいしさを最大限引き出している。

そればかりか調味料も、天然塩・長期貯蔵しょうゆなど厳選したものを使用し、化学調味料や保存料、さらには、合成着色料などは一切使用していない。

こうした姿勢は、社員の就労面でも貫かれている。業界の多くは、業種柄、長時間労働が常態化しているが、同社の現職社員の残業時間は1カ月当たり10時間程度以下という。

もとより、これは社員に負担をかける無理な売上計画を立てないばかりか、一般の1.2~1.3倍の社員を現場に配員しているからに他ならない。

余談となるが、升本本店が経営する料理店の夜の営業時間は、午後5時から9時だが、ラストオーダーは何と午後7時半という早さだ。

こうした企業の存在を見ると顧客満足(CS)も大事だが、もっと大事なことは業種・業態のいかんを問わず、従業員満足(ES)経営ということが分かる。

<執筆>
経営学者・元法政大学大学院教授人を大切にする経営学会会長 坂本光司
2018年11月5日フジサンケイビジネスアイ掲載

 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


Webサイト:アタックスグループ

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