知恵の経営

第251回

新型コロナを乗り越える戦略ストーリー

アタックスグループ(税理士法人、経営コンサルティング)  執筆

 
筆者は隔週で社員の有志と早朝読書会を開催している。仕事柄、経営に関する本を取り上げるケースが多い。現在は一橋大学の楠木建教授の著書「ストーリーとしての競争戦略」をテーマに、一章ずつ丁寧に読み進めている。読書会ではメンバーが順番で担当し、レジュメを準備し最初の30分程度説明する。次に参加者一人ずつがそこで得た気付きを発表し、筆者がコメントを加える。そして全員の発表が終了した後に筆者が統括するのが読書会の流れである。

楠木教授がまえがきで書かれていることを要約すると「優れた戦略の条件とは何か。それは戦略がストーリーになっているか」ということである。

本稿で紹介したいのは優れた戦略ストーリー(筋の良いストーリー)をつくるためには起点としての事業コンセプトが何より大切であるという著者の主張である。コンセプトとは企業が顧客へ提供・販売する製品(サービス)の「本質的な顧客価値の定義」を意味し、本質的な顧客価値を定義することは「本当のところ誰に何を売っているか」という問いに答えることであるという。

さらに著書は「誰に」と「何を」とペアで考えればコンセプトが動画になる。コンセプトから「誰に」と「何を」が抜け落ちて、「どのように」ばかりが前面に出てくるとコンセプト不全に陥るのが常であると言っている。

筆者は仕事で多くの優れた経営者と話をする機会に恵まれている。特に創業経営者と接していて強く感じるのは「顧客は誰か」と「顧客にとっての価値は何か」を深く考えているということである。楠木教授の「誰に、何を」とも完全に符合する。

一例を挙げる。筆者が代表をつとめるアタックスグループの顧問先に酒卸の事業を先代から引き継ぎ、事業を発展させている経営者がいる。この経営者は酒卸の客である酒屋が衰退する経営環境にあって「誰に、何を」を考え直し、中期経営計画をつくり社員を巻き込んで事業変革を成し遂げた。「誰に」は酒屋さんから、酒屋さんの先にある飲食店と考えた。「何を」は酒類という商品を考えると同時に、飲食店が望む「本質的な顧客価値」を「繁盛支援」と再定義した。酒屋さんに酒類を売る事業の本質を繁盛支援をすることと考えたことでさまざまなアイデアと打ち手が生まれている。

新型コロナウイルスショックはリーマン・ショック以上といわれており、どの企業も新常態(ニューノーマル)に適合しなければならず大変な時代となっている。こんな時こそ経営者は自らが先頭にあって「誰に、何を」と「本質的な顧客価値の定義」を考え会社が目指す方向を中期経営計画に落とし込み、難局を生き抜いていただきたい。


アタックスグループ主席コンサルタント・丸山弘昭
2020年7月21日フジサンケイビジネスアイ掲載
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


Webサイト:アタックスグループ

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