知恵の経営

第248回

有事で顕在化、企業の本性

アタックスグループ(税理士法人、経営コンサルティング)  執筆

 

筆者がつくった言葉の一つに「大不況になると経営者ばかりか社員の本性が顕在化する。だから時々不況になった方がいい」がある。


本物は好況期であろうが、不況期であろうが、社員とその家族の命と生活を守る経営をする。その一方、偽物企業は、好況の時には、ある程度、経営的に余裕があるので、総じて社員や協力企業を大切にしているような経営をするが、いったん大不況になると、まるで手のひらを返したように、社員や協力企業に理不尽なことをする。という意味である。


好況時には、両社とも、同じように見えるので、区分けが難しいが、不況時とりわけ大不況になると、対応策が全く異なるのである。このことは、今年の春先から顕在化してきた「新型コロナウイルス感染拡大」の影響で、企業の業績が大幅に低下したことに対しても同様であった。


偽物企業は、この時、社員の希望退職を募ったり、十分な内部留保金があるにもかかわらず、人件費の大幅な削減を行った。ひどい場合は、僅か2カ月程度の経済活動のストップで、赤の他人の社員が、そこにいるのもかかわらず、廃業を選択した企業もあった。


これら企業の経営者は、企業は「社会的公器」、企業経営の使命と責任は、「社員とその家族の命と生活を守ること」を忘れてしまっているといえる。


一方、本物企業は、偽物企業と同じように業績が低下しているばかりか、多くの社員が自宅待機状態であるにも関わらず、これが同じ企業かと思うような立派なことをしている。


例えば、筆者の良く知る企業は、希望退職を募らないことはもとよりであるが、自宅待機中の社員に対しては、この日のために始末し、蓄えてきた内部留保金を取り崩し、1円もカットせず給料を支払い続けた。


そればかりか、もっと困っている人々がいると、規模の小さな協力企業に対しては、政府も顔負けの支援金を支給するとともに、資金繰りの支援までした。


加えて言えば、地域社会に対しては、全く業種が違うにもかかわらず、社員には自宅で慣れない手作りマスクを作ってもらい、そして、作ったマスクを、社員が交代で、医療従事者や買い物難民でもある高齢者宅や社会福祉施設に無償で提供をし続けた。


中には、千載一遇のチャンスとばかり、マスクを生産し高値販売をした企業もあったが、それら企業とは大違いである。


本物と偽物の違いは、平時では分からないが、企業が本当に困ったときに、その対策を見ればわかるのである。私たちはこのことこそ見て判断すべきである。



経営学者・元法政大学大学院教授、人を大切にする経営学会会長・坂本光司

2020年6月30日フジサンケイビジネスアイ掲載

 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


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