知恵の経営

第269回

社員のモチベ低下の理由は、企業経営の真の目的に気付け

アタックスグループ(税理士法人、経営コンサルティング)  執筆

 
今から20年前の2000年における日本の国内総生産(GDP)は、米ドル換算で4.9兆ドルと米国に次ぎ、世界2位の経済力を誇っていた。しかしながら、18年のそれは5.0兆ドルと増加率では僅か2%に過ぎなかった。

一方、この間の他国の動向をみると、米国が10.3兆ドルから20.6兆ドルへと2倍の増加、ドイツは1.9兆ドルから3.9兆ドルへと2.1倍の増加、そして中国は1.2兆ドルから13.6兆ドルへとなんと11倍の増加であった。

この結果、10年には中国に追い抜かれ、今や世界3位である。こうしてみると、近年の日本の経済力は絶対的にも相対的にも、こうした国と比較し極めて劣位となっているといわざるを得ない。

こういうと、日本の人口は既に10年以上前から右肩下がりに減少しており、人口1人当たり、つまり「生産性」が高ければ何ら問題ない、という人々もいるが、これが誤解である。

というのは、この面でも日本の劣位ぶりは明白だからだ。事実、00年の「国民1人当たり国内生産額」を見ると世界2位であったものが、10年には、世界第18位に後退し、さらには18年には、世界28位にまで後退してしまっている。

一方、中国はというと、00年当時、世界の100番にも入っていなかったが、その後年々高まり、今や世界の60番台にまで成長発展しているのである。このまま推移すると、あと10年程度で「生産性」の面でも中国に追い抜かれてしまうと思われる。乱暴に言うと、そうなると、日本の多くの企業が中国の低付加価値分野の生産基地になってしまうかもしれない。

近年のこうした経済活力の低下の原因は多々あるが、最大級の原因の一つが、生産性を高める当事者である社員の生産性が著しく劣化してきているからと思われる。例えば、世界各国で同時調査されているさまざまなリポートを見ると、日本人社員の「働きがいを感じる人の割合」や「上司を信頼している人の割合」さらには「燃えている人の割合」など、ほとんどの指標が世界の主要国の中で最低ランクなのである。

何ゆえ、近年これほどまでに社員のモチベーションが低下してしまったのであろうか。結論を先に言えば、企業経営の目的ではなく、手段や結果に過ぎない業績や勝ち負けを過度に重視した個人戦のような経営、社員をコストとみるような経営に、多くの社員が反発をしているからである。

企業経営の真の目的・使命は、その組織に関係する全ての人々の幸せの追求・実現であり、こうした目的重視の企業の増加無くして、日本経済の再生は困難である。このことに企業経営者はもとより政府関係者も一日も早く気付き、方向転換すべきである。


経営学者・元法政大学大学院教授、人を大切にする経営学会会長・坂本光司
2020年12月1日フジサンケイビジネスアイ掲載
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。


Webサイト:アタックスグループ

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